ぜんぶ秦恒平文学の話

映画・テレビ 2021年

* 駆逐艦「雪風」での生き残った乗員らの、切実を極めたレイテ、沖縄での日本海軍総惨敗をめぐる生死と覚悟の思い出をつくづくと聴いて、泪に溢れながらこもごもモノを思った。切に思った。それは今の私の書き下ろし稿とも深々と交叉してくるのだ。
2021 1/3 230

* 最近のテレビでは、三千万年前からの日本列島誕生がおもしろく、 そして 今朝の、すさまじい日本海軍レイテ・沖縄で敗亡の戦史譚が、胸に突き刺さった。
2021 1/3 230

* 横綱白鵬関のコロナ陽性には、愕然。そこまで来たかと。興行世界で生きている俳優たちに事故のないようにと願ってきた。関取のことも案じていたが、ああいう濃厚なブツカリだけに要心して欲しいと願っていたが。
緊急事態宣言とやらも、何と無く実質は手ぬるい一時凌ぎめいて想えてならない。やるなら厳格に効果を上げて欲しい、義理か厄介のような花火線香ではかえってよくないかも。
2021 1/5 230

* 歌舞伎座初春興行の玉三郎の踊り、高麗矢三代での「車引」また愛之助、松助らでの「らくだ」などをテレビで楽しんだ。十代目松本幸四郎の誕生日は秦建日子のと同じ一月八日、お祝いのメールを送っておいた。
歌舞伎の舞台に、コロナ禍の及ばぬ事を切に願っている。なにしろ、代わりが、ちょっくらちょいとはいない、出来ない、世間なのだ。藤十郎が亡くなり、片 岡我当が健康を害したまま永く舞台へでられずにいる。白鸚、菊五郎、秀太郎、吉右衛門、梅玉らに何としても歌舞伎の大時代を次へ豊かに繋いでもらいたい。
2021 1/10 230

* 食事(鶏卵を一つ落とした味の濃めのスープと、ミルクをどうかしたスープの熱いの。)しながら「麒麟がくる」という明智光秀のドラマをちらと見たが、 おそらく『史記列伝』や「戦国策』かぶれの日本型「理」に溺れた小才策士の物哀れに破綻の人生、しょせん信長や秀吉や家康型の策士とは歯の立たない、せい ぜい足利末路将軍と肩をくんでドッコイ程度の人物と少年の昔から見極めており、「麒麟」ドラマも、その通りに情けない小粒な画面が続いた、途中で切った。 それにくらべれば、取り置いてある、一回ずつで見切りの「ネービー・サスペンス」に登場の、班長ギブス以下チームの誰もかもが、生き生きと一人一人の人生 を背負ったまま情け深く、まるで私自身の「身内」のように懐かしく生きてモノ言いかけてくる。

* 『列伝』には数え切れない「策士」の陰謀術策が蜘蛛の巣のように張り巡らされている、が、彼らの誰も天下を取れない。その他方に『大學』『中庸』「論 語』『孟子』のようなりけぞるほどの正論が横に並んで中国が誇る歴史を支え成している。凄いとしかいえないケッタイな大国ですなあ、中国は。
幸いに日本には驚嘆の策士が縦横することは無かった、その証拠のようにサマにならなかった小細工士を「麒麟」視して済ましている、澄ましている。
また老子荘子孔子孟子のように怪物めく深淵のような哲学・思想の大物も、たとえ弘法であれ法然親鸞日蓮であれ、「お拝みする」信仰がらみであった。それ なら物語の紫式部は断乎として中国や世界もものともしない。彼女よりは日本にほぼ限定されるが世阿弥・利休・芭蕉、近松、歌麿、南北は十分な敬愛と感謝と に足る。明治以降のことは云わない。
2021 1/30 230

* 米内光政を記念の番組をみた。こみあげるものがあった。戦中少年だった私は、陸軍東条が退き小磯国昭も早々に潰れ、海軍の米内光政が組閣したとき、な にと明瞭に謂えぬまま親愛と期待をもっていた米内という海軍さんの内閣が、陸軍の横紙破り(陸軍大臣辞任)で立ちゆかず総辞職した無残な思いを永く忘れて こなかった。
わたしは軍国主義者ではない「戦争も兵隊も嫌い」な臆病少年だった、それは処女作「或る折臂翁」で表現した。白楽天の厭戦兵役拒否の長詩「新豊折臂翁」を祖父の遺産で読んでひときわ感銘を受けたのは、国民学校三年生以前であった。
勝てない、負けると知れた戦へ国土と国民を引きずった帝国陸軍にわたしは子供心に「あかんわ」と思っていた。海軍のあの山本五十六連合艦隊司令長官がは やく戦死し、米内光政海軍大臣のでる幕出る幕をふさいだ「陸軍」の、昭和十九、二十年にしてなお「本土決戦で勝つ」などと無責任を言い放ち続けていたの が、心より疎ましかった。「負ける戦争」へ国土と国民、昔で謂うと「国体」までも強引に引きずって行く軍人。昭和の日本陸軍とはそういう、無策の組織で あった、らしい。あの山縣有朋は生涯の軍歴を、総理として以上に明快な参謀総長として際だっていて、ゆえにムダな戦争は避けて為さず、國危うくして闘った 大戦争のすべてに完勝した。「負ける戦争はしない、してはならない」姿勢は、幕末、列強の軍艦に痛い目に遭った体験、無謀な征韓論のあげく勝てるわけのな い西南戦争へ落ち込んだ西郷隆盛を、「悼む」思いを抱きつつ国軍参謀長として完全勝ち抜いた体験このかた、山縣有朋の少なくも軍政には、いつも一貫して眼 と智との参謀力が働いていた。昭和天皇が、しみじみと「山縣がいなかった」のも敗戦の因と呻かれたのが、痛いように思い出される。
2021 1/31 230

* テレビで、懐かしいグルジアやアルメニアの豪快にも瀟洒にも変化に富んだ景色を眺めた。グルジアの詩人゛いぎしノネシビリ三のお宅へ招待された楽しかったこと、忘れない。いろんなお土産を頂戴したあれもこれも今も身辺に在る。旅は、当時ソ連の作家同盟の招待だった。
日本へも来られたが、その後に複雑な政変もあって、ノネシビリさんは亡くなった。
各地を深雪きわまりなく案内してもらったエレーナさんも、やはり政変がらみとかで、日本へ来て亡くなったと聞いた。佳い人だった。一緒に招待され同行した団長宮内寒弥さんも同じ京都出の高橋たか子さんもとうに亡くなった。あーあ。
この「ソ連の旅」は新聞三社の連載小説『冬祭り』にはなやかに取り入れた。読み返したくなった。ヒロイン「冬子」は、評家から、「また必ず姿をかえて帰って来る」と予言かつ期待してもらった。果たして、最近作の『花方 異本平家』の「颫由子」となり帰ってきた。
2021 2/2 231

* 朝起きにテレビをみると、ころなといい、失政・鈍政といい、一日を不快にはじめてしまう、それなら「偸み寝」のできる今こそ、やすやすと寝ている方がいいと思い知る。 2021 2/3 231

* 八時半、もう目も体力も限界。じっとしていたら、このまま両手の指をキイに添えたまま寝入りそう。大きなテレビも、前脇へ席をすすめないと観にくく なった、もっともドラマといえば、犯罪と殺し事件ものか、安直な時代劇か、坊やや嬢やらのサンザメイて手を打ってバカ笑いしているばかり。
「朝顔」「剣客商売」ぐらい。韓国ドラマの古い「い・さん」やアメリカの撮って置き「ネイビー」などがやはり善く、「ドクターX」に早く戻ってきてもらいたい。医学モノがやはり胸に響いて観られる。それと日野正平クンの自転車「日本の旅」が佳い。
名作傑作力作といえる佳い本は、繰り返し読んで裏切られない。私自身の人生も溶け込んでいる。
2021 2/22 231

* 晩、小津安二郎映画の『早春』 池部良 淡島千景 岸恵子 浦部粂子、杉村春子、中北千枝子、加東大介、柳智衆、山村聡等々で観た。どうあっても最後まで、「池部良」の名前だけが何としても思い出せなかった。しかし、かなり大勢がなんとか思い出せ、ホッともした。
私たちより一世代半ほど年配の、戦地体験がある今は会社人間たちの世間だったが、昭和十、十一年生まれの私たち夫婦にも、微妙な差異と共有ないし知見で見えも分かりもする戦後東京が懐かしく、まことにしんみりと面白く通して観られた。
小津映画は、えもいわれず快適に懐かしく創られて、グの音も出ない。撮って置き、やはり棄てがたく、またいつかきっと観る、観たい映画と思った。

* それにしても「会社員」人生の背中の寒々とした心細さ。顧みて、ああいう世間を幸運によく抜けて出られた、自力で自分の世界を創り切れた闘い切ってこれた、よく頑張ったナと自身の歩みに頷けた。懸命に、自身励まし励ましよく生きてきたな、二人して、と思う。
ここ数日はじつは怠けて半分遊んでいるが、怠けるということのほぼ全然無い人生であったなと、感謝あるのみ。
2021 2/24 231

* 神事・神官・神社へおさめる千年來変わらぬ装束や御簾などの衣冠や家具を、千年來寸分の変更も加えず今日もつくり続けている、京都の各種職人の、神秘 の域にあるかと想われるほどの精緻・精美の技藝・手藝を懇切にみせてもらった。ただ感嘆・嘆美・嘆賞。このところ私のよく楽しんでいる「神楽」「催馬樂」 世界が今日にも歴々伝わっているのだ、目をみはり、声を喪い感動した。不思議を極め、幸せでさえあった。神を祭り祝うという古来の意味も意義もしみじみ窺 い識った。
これからすればオリンピックの聖火リレーなどと称するあれに、いったいどんな神秘が保たれているか、盆踊りの方がはるかに身に心にふれてくる。
2021 2/25 231

* 晩、撮って置きの小津安二郎映画『東京暮色』の徹底した人生の寂しみに、したたか打たれた。妻のない柳智衆の父親、半ば出戻り同然の長女原節子、二女 と一男を産みながら男と家を出ていた山田五十鈴、今の男の中村伸郎、大学生の子を身ごもって堕胎し、踏切で電車にはねられ死んでいった次女の有馬稲子。
こう書いてしまえば観たくもなげの辛い限りの映画だが、三時間近く、緊密と的確をきわめた名作のシナリオで、じつに素晴らしい作が仕上がっていた。むろ ん二度三度観てきた映画だが、観れば観るほどしみじみと辛く寂しく、逃げ道も救いもただこの先の日々に託して期待する以外に道のない家庭映画であった。ま あ何という精緻にしあげて胸に迫る作であることか、人間が生きるとはかくも寂しく冷え冷えとしていて仕方ないのかと嘆かれる。「東京暮色」 この徹底した 精緻の作にくらべれば、昨晩の池部良、淡島千景らの『早春』は何でもない夫婦生活のただの収まりドラマだった。しかしその方が観ていてラクだった、悦ばし くおさめられていた。『東京暮色』の映画術は徹してすぐれた藝術であったが、今度観るのは何年もマタ後々であろう、果たして観るだろうか。
柳智衆 原節子 有馬稲子 山田五十鈴 そして杉村春子、藤原釜足、中村伸郎ら、なんと一人一人の芝居が巧かったか。唸る。そしてとても寒いほど、いま、寂しい。励まされたとは、言えない。
2021 2/25 231

* 昨日も一昨日も観たヒチコック映画で生き生きと美しいイングリット・バーグマンのは二作とも楽しめたが、今日の、ジョン・フォンテインの「レベッカ」 は、昔から原作が不快で、映画も私は観なかった。そのあいだ、「史記列伝」と「十八史略」そして「ホビット」など読み、そのまま昼寝していた。
「レベッカ」は出会いは小説で、イヤなと感じ、その後も映画で受け容れなかった。ときに、こういうタチの悪作に出会うモノだ、内容がけわしくても、おそろしくても、繰り返し楽しめる小説もある。「レベッカ」は、作そのものが不純にイヤミなのだろう。
2021 3/1 232

* 晩、日本國陸軍の一部将校らに依り経略されたあの「二・ 二六事件」への 当時「海軍による明細な秘密文書」にもとづいて、事件の意味が険しく鋭く恐ろしく証されて行く長時間映像に釘付けになった。明治以降 敗 戦までに起きた国家の中枢を巻き込む大事件は、一つは明治末の「大逆事件」であり、そして昭和の「五・一五事件」についで起きたこの「二・二六事件」がま さしく大事件だった。私はたったの一歳半の赤ん坊であったが、昭和二十年の「奉勅敗戦」時のやはり一部陸軍将校らの抵抗事件とともに最大級の関心を持ち続 けてきた、機会あればどんな放送にも映像にも目も耳も傾けてきた。まさしくそこに「昭和の歴史」が規模こそ大きくはないままに「日本」の運命が凝結してい た。ほんとうは、私のような「八五老」ではなく、せめて若い二十歳前後の男女子諸君に目を剥いて見入り聴き入ってほしい。
この手の「過去の国家的事件」のいろいろに私は目を背け得なかった、食いつくように見入り聴き入り自分の「生きかた」を顧みてきた。

* どんな段階の学校であれ、歴史といえば決まり切った「縄文式 弥生式」から始めるのでなく。そんなのはのちのち自分で本を読めば宜しく、それより何よ り明治維新、多くとも、ペリー来航以降昭和の敗戦、そして安保闘争、沖縄返還の頃までの「激動の歴史的視野」を重点的に培って貰いたいと願うのだが。
わたしは東工大で「文学」教授として学生諸君と大教室で出会っていた毎年、必ず明治の「大逆事件」の国家による「フレームアップ でっち上げ」を含め概 略を話しておくのを自分の義務のように決まりにしていた。源氏や枕も、漱石・藤村・谷崎らの文学も私は無類に尊重するが、それとともに、それ以上に、國の 運命と倶に生きて行くうえでの覚悟をも大事に考えていたし、今も変わらない。
わたしが時代遅れなのではない、それに気づかずにスマホなどにうつつを抜かしている方が真実「時代遅れ」なのだ。

* 十時になる。
2021 3/5 231

* 寅さんとリリイを暫く観ていた。すこしほろっと来た。 柴又へもまた行きたい。どこかで菖蒲をたくさんみて、中華料理を食べて、そして帝釈天へ詣ったなあ。
わたしにはまんざら無縁の地ではない、長編といえるだろうか「チャイムが鳴って更級日記」とは縁の濃いところ。また行きたい。コロナ 早く、失せよ。
2021 3/13 231

* 昨夜 しんしつにはいるまえ「先生」鈴木京香の出世作になった、喜劇「ラジオの時間」に、いささかならず身にもつまされつつ、時に爆笑し苦笑し失笑し 実に面白く見た。この作者の一の代表作であるだけでなく、平成から令和へかけて、図抜けた喜劇名作と承知した。わたくしもかつては湯気の立ったほやほやの 「先生」と呼ばれながら、とり巻くさまざまに強かな編集者や出版社で身の細る思いをしたが、まして、放送劇放送のフクザツ怪奇の現場で、出演の男女俳優 や、気を遣いつつ遣いつつ自身の場も守っている局員や各種技術者たちのそれぞれの「強権」発動に、処女当選脚本の初放送をあずけた超新米「先生」の玉突き の玉のように翻弄され無視され作はめちゃくちゃに書き換えられて行く「進行」のあらけなさ・すさまじさ。出演者の生き生きした名かつ迷演もあり、身の凍る ような爆笑劇になっていた。同じ作の二度目の映画化作を昨夜見たのだが、こういう力作がもっとさまざまに観られるとテレビもえらいモノなのだが。
ともあれ、この「センセイ」を演じて以降の女優「鈴木京香」の躍進と充実は立派と私はいろいろに出演作を観てきた。こういう作に出会えた俳優は幸せだ。

* 「この紋所が目に入らぬか」と「ご老公・葵の紋所」をふりかざし、将軍職御血筋の「おれの名前は引導代わり」と斬りまくるような下らない猿芝居を喜ぶなど、唾棄のほか無い。
海外作のことに音楽劇・舞踊劇は大好き、「ウエストサイド・ストーリー」「シェルブルの雨傘」「ロシュフォールの恋人達」など何度観ても心惹かれてやまない、が、爺さんで超弩級のド金持ちが若い娘に匿名で耳も目も疑う大金を援助し「あしながおじさん」と慕われて巧者のフレッド・アステアがうまいダンスを見せるのは、いかにレスリー・キャロンのダンスが可愛く素敵でも、こういう貨幣価のからんだ贈与被贈与の「関係」は愉快でない。
2021 3/16 231

* 真田裕之と宮沢りえ という飛び切りの配役で『たそがれ清兵衛』に見入って楽しんだ。この前には 松たか子の出る 同趣、明らかに姉妹作と見える作画 を愛おしい思いで堪能した、が、男役は真田ではなかった。 松たか子と宮沢りえ、「最上級の演技派」美形としてわたしは愛して已まない。この世代でこれだ け美しく巧みをきわめた女優は他に容易に思い当たらない。ぞっこん惚れこんでいる。
2021 3/16 231

* 朝の初めにテレビのニュース解説番組は、便宜もあるが不快感も濃く、成ろ うなら見たくない。ただ、新聞の読めない視力なので、談話とか会食という対面対話の人づきあいも(妻のほかは)ゼロなので、テレビは、「外」との触れ合い にまるまるは棄てられない。テレビという機械には、いい映画もいい音楽も、楽しめるドラマもある、沢山はないけれど。
幸か不幸か、私は、性質からも、読書で得た誘惑からも、想像ないし妄想という「生き場」の設定や展開を苦にしない。逃げ込むとも思っていない、そっちが自身のを本来世界と思っているほどかも。
2021 3/18 231

* ナチスドイツによる世界の名画を夥しい数奪い取り隠匿していた事実、その隠微な経略等を経てナチ壊滅の戦後、秘蔵愛着の作を奪われていた持ち人の返却を求めて達成して行く等々のさながらの「劇映画」を(略奪の事実などあったのは他の映画や報道で識っていたけれど)肌寒く震えるほどの驚愕で、観た。テレビが無ければとうてい識りようもない劇的史実であった。
2021 3/22 231

* そういう季節なのか 時節なのか 年季であるのか テレビ画面に現れる若い美人の「売り子」や「呼び子」や「看板」が なにか 一斉に交替しつつある気がする。
そういうことは何度もあり、そして生き残って女優やスターに、タレントになって行く子が、ごく若干数生き残る。宮沢りえ、沢口靖子など最右翼、綾瀬遥香ほか数人もみごとに生き残り多く私を喜ばせ嘆賞させてくれるが、九割九分がたは小さく消え失せ、その辺でかすかに瞬いている。

* こんな感想を言うているのでは、まだまだ自身俗塵にまみれて、ただ老いぼれている。

☆ 「今すぐにも人生を去って行くことのできる者のごとくあらゆることをおこない、話し、考えること」と、二千年前の皇帝マルクス・アウレリウスは云うていた。
2021 3/27 231

* 勝小吉の「女房」を美しい限りの沢口靖子がまことにまことに美しく演じているのに、驚嘆。

* 老子と孔子を紹介しつつの「空旅中国」映像にも魅された。
2021 4/2 232

* アオ大将の昔はともかく、あの「北の国から」の好演を経て親愛を覚えていた俳優が、「老衰死」を報じられたのはショックだった。私より三歳の年長の88歳だったと。胸を拳骨で衝かれた思いがした。
2021 4/3 232

 

* 昼食してから 四時まで寝入っていた。
夕食しながら 「イ・サン」即位へ歩み寄る、要所をだけ、観た。
心身をいためてはならぬ。幸い 予定の仕事への時間的な距離がいやおうなく生まれている。やすむに如かず。
2021 4/6 232

* なにがという理由もなく、いや有るのだろう、沈滞をぢっと堪えている心地。一つには発送の用意という作業は文字どおりの作業、しかし抛ってはおけない 作業なので。一つには、韓国ドラマの「い・さん」で、世孫の祖父王世宗の最期を、またまた見入ってしまったこと。二本のドラマであれほどの感銘を呉れるこ と実に稀有なのもつらい。日本の半年一年にも及ぶドラマで、「イ・サン」や「ホ・ジュン」や「トン。イ」ほど気を弾ませて感動させたドラマは、やっぱり誰 それの何度かつくられた「赤穂浪士」だけかも知れないのは残念。「おしん」をわたしは観ていないのである。
2021 4/8 232

* 忠臣蔵 というと余りに「お定まり」ではあるが、日本のドラマで胸に響いてくる第一でほぼ唯一の題目、掛け値無し、講釈が下絵と承知でいてしっかり 泣かされるのは、ことに後半、大石東下りから討入り、そして永代橋からの引揚げと決まっている。
女ドラマの線の弱さに飽きていると、今夕観た「忠臣蔵」後編は、長谷川一 夫を筆頭に、中村鴈治郎、千田是也、鶴田浩二、勝新太郎、志村喬、市川中車等々なつかしい男の顔で、ふんだんに魅してくれる。女も、京マチ子、若尾文子、山 本富士子ら粒が揃って凛と丈高い。みな、着物が美しく着こなせて、きちんと昔風に歩けて、セリフは明確に美しい。
この映像だけは、上出来の韓ドラ連続もの にヒケをとらない。男優の大方はもう亡くなっている。それゆえに、ひとしお懐かしい。
この世代を一つ二つ時代をさげると、ドラマ「阿部一族」が立派な一本立ちの感動編であった。寅さんやハマちゃんものは、佳い娯楽であった。

* 映画に、八千草薫の「蝶々夫人」は日本では稀有のミュージカルだったが、果たして日本製であったのか。日本には他に印象を刻む優れたミュージカルが一 つも思い出せない、「ウエストサイド・ストーリー」や「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」のような秀作が観られない、漫画はお得意らしい けれど。漫画は観ない。
日本の歴史もの映像は、概して陳腐に概念的で平凡にしか仕上がってこない。作り手に先入観が
先立っている。「櫻姫東文章」や「四谷怪談」のような舞台の怖い秀作が現代なかなか現れ出ない。へたな企画崩れのような思いつきが散発されても、つよい「時代の肉声」として響かない。
2021 4/11 232

* 橋本徹がやたらめたらまくし立て、バス会社の社長が冷笑する 実りのみえない討論番組に呆れていた、あれはシャベクリ漫才か。
そにしても、コロナは問題が大きくしかも周辺に余分の問題をぶら下げすぎている。この際、オリンピックは断念してコロナ排撃に集注しましょう、コロナの ほかは大方一時停止に待機とし、政治も医療も、コロナに集注して第四波を凌ぎきり抑え込みに國をあげ尽力しましょうとでも成らないと、沈静は無理なので は。そんな懸念が現実に傍聴を極めてきている。考え過ぎと思いますか。
2021 4/14 232

* 録画の「剣客商売」で、懐かしい、いまは亡い役者と再会した。「竹取物語」を英・和の朗読劇として書き下ろしたことがあり。日本語版での、「竹取の 翁」を演じてくれた、その、じつに佳い俳優が「剣客商売」に剣客としてではなく、出演していた。剣客ではなかったが、しみじみと佳い芝居だった。名前はド 忘れして咄嗟に出ない。「翁」と対の「媼」は俳優座で突出した大女優の大塚道子が語ってくれた。往時は渺茫、もう録画や録音でしか出会えないが、印象は強 烈だった。

* 入浴し、「剣客商売」を観て、九時半過ぎた。もう寝む。
2021 4/15 232

* 午後のおそめに映画「ホビットの冒険」を 映像の美しさ、凄さに感嘆して見終えた。『指輪物語』の前編を成している。後編より 時代は遡るが、後編への繋ぎもきっちり出来ていて(何度も観ているのだが)大いに楽しんだ。 こういう完璧で精緻な物語とすばらしい大自然塔の映像を堪能すると、とてもやわな通俗ドラマや映画はおはなしにも成らない。
2021 4/18 232

* 閑吟集の世界に留まっていたくても、もう、朝からコロナの猖獗に自治体は惑乱、政府にものを要請しても政府は先立てるのがメンツとケチと権力志向。機械も故障、いっそテレビもと思うが、映画と録画は観たいからなあ。
2021 4/20 232

* 夕方 天才チャップリンの映画「殺人狂時代」を妻と感嘆してみた。簡潔な「科・身動き」と「白・喋り」で「間・推移・移」を無駄なく「節・演出」して、いささかの饒舌もない「繪・影像」が、意図した主題を伝えてくる。こんなのを観ていると、和製のテレビドラマの説明過剰に混雑した「科白・間・節・繪」の低調になど、付き合ってられるかという気分になる。チャップリンこそは天才だ。
しかし、昨日、やはり妻と観た原作『ホビットの冒険の映画化『思いがけぬ冒険』『最期の激戦』は、長時間を繋ぎ繋ぎ観ていたのに、影像の美しさに加えた物語の濃度鮮度の見事さ面白さ素晴らしさに惹き寄せられ、嘆声を惜しまなかった。
やはり、映画はいいなあ、こういう籠居の時節には有り難いと、しみじみ。
2021 4/21 232

* 昨日、送り作業しながら、撮って置きの深作監督超弩級の名品映画、鴎外先生原作の『阿部一族』を観て、したたかに泣かされた。完璧の映像だった、日本の過去の文藝映画として飛び抜けて見事な感動作で、先の戦争で一兵士の、
遺品あり岩波文庫「阿部一族」
をも想い出し、あの戦争が「強いられた殉死」の山を築いた憎みてあまりある「いくさ」であったことを、全身に矢玉を受けたように痛感した。
実に実に 素晴らしい名作映画で、わたくしはあれ以上の感動の名作に出会ったことがない。しかと書き置く。
2021 4/28 232

* 西村大臣を呼んでの読売4番テレビは、司会者のつっこみも用意も良くて、緊急事態宣言の延長等に関わる質疑に実質があった。
政府や大臣にただ言い訳やごまかしをさせて済む時期でない。本来なら、五輪開催の可否にもうハッキリ議題が向かわねばならぬ時期だ。
政府や与党は断じて挙行のハラらしい、それなら多般にわたる万全の感染予防・医療安全の策と用意について、不動で克明な覚悟と責任説明がなくてはならず、ことに医療関係の専門家の絶対多数の承諾・賛同を得てのことにしてもらいたい。
ことは、最悪、国際的な批判や損害賠償にすら関わってくる。五輪が絶えて無くなるのではない、またの機会は必ずある。今回に備えたアスリートたちの残念は察するにあまりあるが、國と国民と世界へ迷惑を掛けかねない懼れには、毅然としたスポーツマンシップで対応し断念にも耐えて欲しい。
2021 5/8 233

* ところが食欲無く 睡く 。何も出来ず、寝入ってしまい、昼食も摂れず、また寝入って一時半ごろから「イ・サン」を観てから二階へ来たが、茫然のまま。
京の、古門前 幼なじみの「おっ師匠はん」から電話、昔話など。縄手の茶漬け鰻や甘泉堂の菓子など送ってくれると云う。謝謝。同い歳だが、声など若くて元気そう、ケッコウ。
2021 5/18 233

* 雨か。小雨を厭わず 嵩のある郵便物を十包みほども郵便局へ運んだ。その前に、「イ・サン」と「ソンヨン」とに胸にこたえて、したたか泣かされた。創作された表現がきちっと的に嵌るとひとを感動させる。いくら気張って大声出しても、書き手・創り手の独り合点では嗤われてしまう。創作者としてもっとも恥ずかしいのは、ものの見える、読める、分かる人に嗤われてしまうこと。

* 宵寝して、もうすぐ日付けが変わる。寝ていたかった。
2021 5/19 233

* 鳥取県知事が、聞くもおそろしいコロナ感染拡大の新知見をテレビで語っていた。下火に下火にとつい願うのだが、新型の、亞型のかくれた新感染源がまだまだ威力を発揮しつつあると。ただただ用心にしくは無い。
昨日からずーうっと、グレン・グールドのピアノで、バッハのゴールドベルク変奏曲を聴いている。

* 韓國ドラマ「い・さん」にしたたか泣かされ、日本ドラマ「ドクターX」の来月からの予告と一部再映、そして照之富士の強い相撲を観たほかは、終日歌集『少年前』前半の入念な「読み」にかかっていた。打ち込めて佳い仕事だった。無事に「湖(うみ)の本 154」へ持って行きたい。或る意味で、この『少年前』と「閇門」とで、八十五年はしめくくり、余生のある限り、新しい小説を書き継ぎたい、成ろうなら、長編小説を。
2021 5/20 233

* それでも幸いに、ドクターX 大門未知子の従来分の中でも最高度の難手術をいい伴走の劇(ドラマ)とともに最高度の満足で拍手させて貰ったのは有り難くも愉快でも感動でもあった。
なにの屁理屈もいらない、 よく出来て熱くて美味いドラマ(劇と演技)とこそが万感を決してくれる。映画でも芝居でもテレビ劇でもそういう作に出逢うことしか望んでいない。小説や詩歌やエッセイもぜひそうありたいと思う。

* さ、五月場所のしめくくりを観ながら、京・古門前の「おッ師匠(しょ)はん」に戴いた「お茶漬け鰻」で元気をもらおうか。明日は何ヶ月ぶりかの築地通いだ。要心に用心して出掛けたい。
2021 5/23 233

* 一昨夜、二階から下りてくると、つまが、なんと、金剛永謹の能「山姥」を見始めていた、私も一緒に最後まで観た、聴いた。日本の国土、自然をかくも奥深くも美しくまた畏ろしく、さらに懐かしく歌い上げた詩魂・洞察は他に例がないとさえ胸の奥を掴まれたほど感動した。じつにじつに久しぶりの能舞台に向き合っていた、嬉しく、想いを洗い濯がれたのを書き置く。
2021 6/1 234

* 「湖(うみ)の本 153」の初校をずんずん進めていたが、晩は、テレビで、録画の「剣客商売」「トンイ」を観ていて、二階仕事をとじるために上がってきた。もう、十時。 やすむ。
2021 6/3 234

* 好きな真田大介と大好きな宮沢りえの「たそがれ清兵衛」を楽しんだ。

* 九時過ぎ、もう休む気でいる。
2021 6/10 234

* 志賀直哉原作「流行感冒」のテレビドラマをみつけて驚いた。モックンだったか。志賀直哉を読みたくなり全集第一巻からすぐ見つけた。久々に志賀直哉のラコニックな文体に触れた。嬉しくさえあった。
いま、往年の大きい作家達の小説へこころひかれ、漱石、藤村、潤一郎とともに志賀直哉も読みたいなと、郷愁に似た思いをもっていた。必要あって、鴎外はおりごとに読んでいる。次いでは、荷風そして龍之介まで読みたくなっている。
世の中が悪政やコロナ禍で混乱すればするほど、せめても近代の優れた日本文学へ帰りたくなる。いま、本好きの若い日本人読者は、どんな、誰の文学へ立ち戻って「小説愛」を心に満たしているのだろう。
2021 6/13 234

* 夕食のあと、妻と、「ニノチカ」という珍かにおもしろい撮って置きの映画をみはじめた。題からして、漫画かなとと誤解していたが、漫画のように面白いグレタ・ガルボ主演の妙な作だった、半ばでお休みして、またからだを横にして八時過ぎ、「マ・ア」のご飯時までまた読書していた。
いま一等難しいのが、新約聖書の「ロマ人への文」で。「使徒行伝は」はすなおにすらすらと読めて感銘した、が、いわば「教書」なのか、かなりついて行くのが難しい。
2021 6/15 234

* 体力の衰えはいまや顕著、水の退くように元気がよそへ流れて出る。大量の毎朝の服薬に助けられているが、過剰に頼っているとも思う、あるいはそれと相当の食事を摂らねばと思うが出来ない。噛めないのだ。
二種類のアリナミン(赤と黄色)各2錠、ボケ防止という肝油めくのを4錠、同じく銀杏からという錠剤を2錠、ウコン3錠、黒酢2錠、すっぽん1錠、ルテイン2錠、緩下剤1錠、などのほかを服用し、朝夕に好きな煎茶を、そして日本酒を主に、缶ビール、時にワインや洋酒へも一日中手を出している。主食は粥にしてもらうことが多いが、摂る量はごく少ない。疲れたら横になり、読書の果てに寝入って醒めて、また仕事に向かう。
テレビは、コロナ禍系の報道以外は、日本製のドラマは、松たか子や真田大介や宮沢りえぐらいしか観ない。沢口靖子は仕事の部屋にいい写真が何枚も。むしろ、決して退屈させない連続の韓ドラ「イ・サン」「トンイ」などをもう繰り返して何度目になるか、少しも飽きずに一時間楽しむ。映画はほとんど洋モノの上出来しか観ない。
2021 6/16 234

* 「剣客商売」は思い思われて男女の剣士が結ばれていった。以前に一度観ている場面だったが、ま、ケッコウであった。疲れている。九時過ぎにはもう横になりたい。肩も落ち顔も伏さって来ている。これでまだ脚腰が保ってくれていて、助かる。階段の上がり下りに苦はない。
2021 6/17 234

* 夕方、珍しく中国のドラマを観た。韓国製の連続『トンイ』を『イ・サン』についでまたも三度目を楽しんでいるが、中国モノには乗ってこなかった、が、隋時代の宮廷劇、続き物らしい一部を観てみた。それはそれなりだった、が、韓国は、歴史連続劇を巧く創ると感じている。
2021 6/21 234

* 今朝 テレビ朝日出演の田坂氏の提言は百パーセント的確に賛成できた。そう思っていたことを全部より的確に指摘し整理して貰えた。菅総理は「責任」の取り方を明言してモノを云うべし。あの嘘つき安倍晋三舞う総理ですらも、いったんは、もし事実と違えば「総理を辞める、国会議員も辞める」といまと成れば厚顔無恥のうそを国会で明言した。菅総理よ、この「明言」に倣い且つウソはつくな。

* 専門家会議よ。政権の都合の良い言い訳の根に利用され続けていないで、政府のご都合利用から離れた、真に科学者の良心と明知に満ちた「提言ないし警告の機関」へ、今すぐにも脱却転身されよ。もっと広い範囲から的確な発言者を適切に選び直すことも必要。
2021 6/24 234

* 順調に、早め早めに仕事は捗っている。
そんな合間の骨休めに、この数日、えり抜き・撮って置きの映画を楽しんできた。
真っ先に、トム・クルーズとデミ・ムーアが軍事法廷での弁護士役をつとめた 『ア・ヒュー・グッドメン」が、みじんの渋滞もないみごとな緊迫の裁判劇で、後味もとてもよかった。
次いで、クリント・イーストウッドが製作・監督主演の『運び屋』は感動の名品で、泣かされた。イーストウッドノの監督映画に不出来は無い中でもとびぬけておみごとな老境の感動編で、妻と二人で息をつめて終始見入った。
昨日は、依るのやや遅めに歌舞伎座で、尾上松緑、市川猿之助らの『土蜘蛛』を楽しんだ。はやく歌舞伎座で悠々と大歌舞伎が見たいなあと嘆息もしきり。
そして今日は、原作『ホビットの冒険』二巻物を脚色の、まずホビットのビルボ・バギンズが活躍の『思いがけない冒険』続編の『最後の決戦』の、ともに信じがたいほど美しい映像と物語の展開とを、とことん楽しんだ。物語としては後編原作の『指輪物語 ロード・オブ・ザ・リング』がより壮大に劇的だが、私はビルボ・バビンズや魔法使いガンダルフと、トーリンの率いるドワーフたちとの、端倪すべからザル物語展開至上の映像化を愛している。

* 手元に、撮って置きえり抜きの映画は、邦画、外国映画ともども二百作を超えている。テレビが傷つかない限り、最後的にも退屈という穴にはまる心配はない。すべてこれ、愛読が可能な無数の書籍のほかなのだから。
2021 6/28 234

* 夜十時。 今日は、朝の「ポストへ走り」以降は 発送用意をほぼ仕上げながら 続き物の韓ドラ「トンイ」を楽しみ、一日中 レミ・マタン、日本酒、ワイン、ビールを「つまみ呑み」しては酔って横になって寝入っていた。湯をつかったが、とてももう「長湯」にからだ耐えず。
とにかくも、よく寝て寝て一日暮らしました。
2021 6/29 234

* 「ナント」「スゴイ」を絶叫するコマーシャル・広告は、軽蔑して信用しない。「ナント族」「スゴイ族」の軽薄を極めた氾濫よ。
2021 7/1 235

* ひるすぎ、大原千鶴の料理番組を楽しんだ。はんなりした「京をんな」の佳いしゃべりが懐かしくて、贔屓にしている。
2021 7/2 235

* トールキンの『ホビットの冒険』を読了。この原作を映像化した『思いがけない冒険』『最後の激戦』は豪壮な大自然美とともにみごとな激戦を描いて、映画としては、次なる大作の長篇『指輪物語 ロード オブ ザ リング』をしのぐ美しさであった。ホビットのビルボ・バギンズの活躍が終始心うれしかった。物語としては、あとの『指輪物語』は波乱にも冒険にも登場者達の葛藤にも抜群の構造美があった。
いずれとも、トールキンのこの二作は翻読に耐えて一種壮大な「世界史」をなしている。
2021 7/3 235

昼食時、久々に鏡花作、板東玉三郎監督主演。宮沢りえ、宍戸錠、市川左団次ら競演の『天守物語』を楽しんだ。しみじみと懐かしく面白かった。鏡花と玉三郎との天才がじつにみごとに競合し融和して「幻想美のリアリティ」を炎え立たせる。何度観ても聴いても、素晴らしい藝術品。感謝。鏡花をまたいろいろ読みたくなった。舞台の『海神別荘』が大好き、舞台が観たい。
2021 7/4 235

* ソ連の女性高級外交官僚を巧妙な巴里ジャンが恋に陥れる喜劇っぽい『ニノチカ』も半ばまで観ていたが。
2021 7/4 235

* ちょっと洒落て、「ソ連」をおちょくった昔の映画『ニノチカ』も楽しんだが、今日夕方に観た撮って置き、黒澤明脚本、熊井啓監督、清水美沙と遠野凪子主演『海は見ていた』は、荒海にまぢかい最低の岡場所を舞台に、しみじみと愛づらかに描いて、思まことにい切った「名品」であった。黒沢脚本の『雨あがり』もよかったけれど、更に凌いでいた。
『海は見ていた』 観るのは二度目、初回はもう二十年近くむかしだったが、あんまり佳い映画で胸にしみいたので躊躇いなく撮って置いたのである。地味な女優だが、清水美沙、これほどの名品に立派に主演したのは生涯の「勲章」だと思う。
それにしても、佳い映画は佳いなあ。テレビでのやすものの現今捕物帖なみの刑事事件ばっかりは、呆れるほどつまらない。
2021 7/5 235

* 体調の停滞は拭いようもない。横になると、寝入る。
韓ドラマの『トンイ』は、週日の毎一時に楽しんでいる。トンイが、日本の宮廷で謂う「尚侍(ないしのかみ)」に、韓国では「尚宮(さんぐん)」になってしまった。王と、女官の最高位で時に王の寵をも受ける。王と、もと前王妃とのトンイを愛する、強い意向。現王妃と宮廷に権勢をはる南人(ナミン)廷臣方の不当なトンイ嫌いの圧力から、知略懸命に王と王室を守るトンイのための、強い防御の計らいになった。ま、宮廷とはよく揉める世間ではあ
2021 7/6 235

* スペンサー・トレーシーとエリザベス・テイラーの『花嫁の父』、昔には、心底愛して観た映画だが、今夕、撮って置きを観かけて、半分と心重くて観ていられなかった。
2021 7/7 235

* 八月近くなると、私は義務かのように、撮って置きの映画『沖縄決戦』を、自身に向かい観よと強いる。沖縄の全島、陸に、海に、空に悲惨を極めた惨敗のかげには、大本営の無謀、陸軍と海軍との無残な齟齬があり、まだ十歳余の少年少女らの惨逆な戦死も含め、民間にも軍兵にも凄惨の極と謂うしかない死骸の山が積まれたのである、それが、日本の現代史におけるあまりに苛酷な「オキナワ」なる意味なのであり、日本の現政権は、今にしてなおその「沖縄へ」不当限りない圧力圧政不平等を加えて羞じないでいる。
この映画、小林圭樹、仲代達也、丹波哲郎、加山雄三、大空まゆみほか錚々たる懐かしい俳優達が顔を揃えて、力作に相違ない、しかも、あまりに哀しい。空しい。おそろしい。
それでも私は、あの真珠湾を襲った『トラ・トラ・トラ』を観るよりも、この『沖縄決戦』に胸をかきむしられ、そして八月十五日前には、三船敏郎ほか若い俳優達が印象的に熱演した敗戦・無条件降伏映画『日本のいちばん長い日』を「かならず観よ」と自身に強いている、義務かのように。

* 空しくも空しく、すさまじい映画であった。
2021 7/8 235

* テレビ朝日の羽鳥モーニング・ショウの出演者各員の「四度目緊急事態宣言」をめぐる菅総理と政府・IOCへの厳しい批判、批評は、敬意さえ覚えてまさしく的中・適切だった。
2021 7/9 235

* 幸い緊急を要して向き合わねばならない仕事・作業は無く、それでもこの時節の疲れや無力感や、肩凝りまでも避けがたい。逆らわず休息し、本を読み、そのまま昼寝もして心身の余分な強張りは避けようとしている。極度にも用心はしているが、一回目のワクチンまでに「八五老」の私たちは未だ十日の余も待機の日々がある。ちょうどその頃になってしまうが「湖(うみ)の本 153」の納品がある。五輪開始の日など今はアタマに無いが、いよいよ始まって放映があれば、それなりにアスリートの奮闘を応援しつつ楽しもう、本の発送は慌てずに、と思っている。五輪選手団に、また都内等に新感染者がどうか蔓延しないで欲しい、最悪の事態に誰も誰も陥らず、先ずは五輪を安らかにくぐり抜けたい。
2021 7/9 235

* 映画『トロイ』を見直していた。ブラッド・ピットのアキレスが峻烈に働いていた。ホメロスの壮大なうた語りを立派に映画化し得ていて、見応えありもののあわれもひとしおであった。よかった。
2021 7/11 235

* 昨日妻と観た『瑶泉院の陰謀』は北大路欣也と稲森いづみとで描く一の「赤穂義士外傳」めくフイクション、初見の折から主演二人の存在感に惹かれ心に残っていたのを観かえして、おもしろいエロティシズムと惹かれ納得した。まだ続きがある。

* 妻が予約診察の日だったので、送りだしたあと、「トンイ」を観、つづいて『瑶泉院の陰謀』の後半をおもしろく観た。なかなか上出来の赤穂義士外伝で、稲森いずみというちと珍しい異色の存在感が生き生き伝わって、こころよく胸に落ちた。三部の長巻映画だが惜しいことに第一部が手元に無い。ま、無くても、いずれ内匠頭切腹までのはなしは分かり切っており瑶泉院はまだ奥方あぐりの時代。赤穂籠城談論から誓紙血判の辺からの第二部以降で第三部まで十分に物語は煮えて行く。北大路は歴代の大石役に観優りするほど情意ふかく聡明でよろしく、それを凌ぐほどに稲森いずみというほとんど他のフィルムで出逢った記憶のない女優の「はまり」の良さ、美しさも賢さも情感も立派な魅力であった。「テレビ」で観る時代劇映画では、あの名品『阿部一族』に次ぐと謂うてやりたい、色佳い出来映えだった、褒め過ぎか。
いま顧みて、テレビものの現代劇で、これらに対抗の名品は何であったろう。大泉と宮崎あおいとの『兄いもうと』とか、主演女優の名を忘れたが『紙屋恭子の青春』など印象深い。
ひとつ、始まったばかりの「救急救命モノ」の連続ドラマの最初に心惹かれた。何と謂っても命を救う医療には共感もあり感謝も覚える。

* わたしはテレビはほとんど観ない方だが、映画だけは和洋とも楽しむ。文藝とは異なる創作の特異に心惹かれ、なにとしても客を呼ぶべく勉強が効いている。
2021 7/13 235

* 終日 或る難儀な資料(私料)の点検と整理にかまけていた、昨日から始めた。根をつめても数日はかかりそう。

* それでも夕食前に、映画『祇園囃子』の後半を見終えた。私の記憶からするといくらか割愛・編集されていたかも。ひれでも木暮実千代と若尾文子の「あはれ」はむごいまで美しく描き切れていた。座敷にこそわたしは挙がったことはない、はじめてこの映画を観たのは「祇園町」の真ん中の新制中学を出てまもない高校生時分で、舞子になっていた若尾文子とちょうど年格好もいっしょ、それだけに身につまされた。なにしろ私の中学では舞子に出て行く女生徒が現に何人もいたし、甲部も乙部もどんな細い路地ですら知り尽くしていた。祇園町の物言いも風俗も舞子、芸妓もたくさん見知っていた。されどころか、田舎へ疎開前、国民学校三年年生まではまだ葉は揶揄と一緒に祇園町のお風呂(銭湯)の女湯へも通っていたので、「舞子さん」らと平気で一緒の浴槽につかっていた、「はだかのつきあい」は子供の時に済ましていたのだ。そんな私には若尾文子の『祇園囃子』は目にも耳にもあまりに色濃くも親しかった。 あれから六十年の爺の目にも「祇園」は懐かしくまた痛ましいまで身に沁みた。

似た映画で若尾文子には大先輩の山田五十鈴が好演した『祇園の姉妹』もあるが、時代は古く、私の見ていた当時の祇園とは空気の色もちがっていた。
思えば木暮実千代のまぶしいほどな色気が再校に映えていた時節であった。
2021 7/16 235

* 昨夜、久しぶりも久しぶりに「NHK藝術劇場」放映の夏目漱石原作「心」を 「秦恒平脚本」「俳優座劇団」「加藤剛・香野百合子主演」で観た。「湖(うみ)の本」第二巻に戯曲『こころ』を入れている。35年ほども昔のことだが、ありありと想い出せる。懸命に脚本にし、また戯曲としても大きく創っておいた。妻も懸命に応援してくれたことが、場面のあちこち、科白のあちこちで懐かしいまで想い出せる。弥栄中学を一年さきに卒業していった上級生、「姉さん」と慕い生涯の「身内」と慕いつづけた今は亡き人が、「記念」にと、自身の卒業式の日に「贈」と署名し私に手渡して呉れたのが、漱石作『心』の春陽文庫本だった。『心』は私の聖書のようであった、どんなにも心を暑くして読み続け読み返したことか。
当時第一等の人気俳優加藤剛が、「心 わが愛」として脚本を書いて欲しいと言ってきたとき、私は胸の内で「姉さん」の名を呼んだ。「やろう、書こう、創ろう」と決心した。

* 先だっては高校国語の先生が玄関までみえて、私の『こころ』の読みに最大級の賛辞を呈して帰られた。コロナ禍をおそれて長く対話もならなかったのは申し訳なかった。

* 久しぶりに舞台から映像として按配した放映の劇に、ただただ見入った。あれはわが作家生涯のあちこちに遺してきたなかでも胸にしみたハイライトの一灯であったなあ。
2021 7/17 235

* 五輪関連の、感心しかねる報道が増える一方。組織委員会の、愚鈍が目立ち過ぎ、愉快でないこと甚だしい。

* 今日の愉快は、撮って置きの映画、『暖簾』のみごとさ、 昆布という商品に組み合って主演父親と息子の二役を溌剌と演じ分けた森繁久弥の絶妙、それに半歩一歩も引かない山田五十鈴、中村鴈治郎、浪花ちえ子らの競演、そしてあの戦争を挟んだ時世の変転に映し出される「大阪」という街と人とのおもしろさ、味わい賑わい。満腹の感嘆で楽しめた。

* 佳いものは佳い、不快なモノは不快を極める、それだけの事ながら、佳いものは佳い、それが嬉しい。
2021 7/20 235

* 宮沢りえの『父と暮らして』を久々に観た。ヒロシマの原爆を胸を痛めて顧みる時季に近づいている。
2021 7/21 235

* 相変わらず、韓國製ドラマの「トン・イ」を日々楽しんでいるが、劇的に切羽詰まってきて、かなり息苦しい。日本には、王宮と謂える実質がなく、天皇、皇后さんらもほぼ平和な平家住まいで、斬った張ったの剣戟などなかった、大化改新や壬申の乱以降は。
しかし以降全く日本の宮廷に乱暴の沙汰が起きなかったのではない。昭和二十年八月十四日から翌十五日正午敗戦の詔勅まで、映画『日本のいちばん長かった日』には、陸軍将校らの烈しい敗戦への抵抗と蹶起に伴う流血や死があり、阿南陸軍大臣の割腹自決もあった。
この映画は日本現代映画の白眉でもあり重要な遺産であって、私は八月のヒロシマ・ナガサキの時節になると、「義務」かのようにシカと見直すことに決めていて、今晩も、目を凝らし息をつめて観た。時に呻くことも涙することもある。日本人として忘れてはならぬ一日であり、切なる歴史の証言である。また、今となれば、陛下の声に代わっている初代松本白鸚をはじめ、柳智衆(鈴木総理)三船俊郎(阿南陸相)をはじめ、きららかなほど懐かしい大勢の男優達に再会できて、もう、その多くが亡くなっている。
2021 8/6 236

* 開戦時の東条英機総理・陸軍大将をテレビが語っていた。だれであれ、いかにあれ、モノをもたない貧しい國が開戦へ突っ走った愚は、子供心にも見えていた、たちまちに油が切れてどう軍艦も飛行機も働くのか。山本五十六も言うたように半年も懸命に戦果を挙げたら即、講和へ動くべきだった。陸軍は将・兵ともに盲いていた。「勝てるわけ無いやん」と、職員室廊下の世界地図の前で当たり前のように友達に口にしたとたん通りがかりの若い男先生にいきなり壁へ叩きとばされた。国民学校二年生になったばりな昭和十八年だった。壁の世界地図には、南洋のあちこちにちっちゃな針の日章旗が刺してあった。
2021 8/10 236

* いつもの間をおいての診察を受けに妻が地元の病院へでかけた留守に、ずうっと横になったまま『フランス革命』の推移を丹念に読み追いつづけてルイ十六世がギロチンの下に果てた、が、まだこの先が長いはず。面白がる事態ではないが、興奮しきってぐいぐい読んでいた。「革命」とは近代の世界史にいかなる意味・意義か。心底からまたまた揺り動かされて読み耽っているうちに妻は帰宅した。
その前に、韓国ドラマの『トンイ』の烈しい推移にも見入っていた。凄みのある一時間であった。
2021 8/10 236

* テレビの宣伝戦は何の躊躇いも無げに旺盛。 聞くがいい。
ホントニ ナント スゴイ 彼らに日本語とはこの三語でたりるらしい。コマーシャルに限らない。有象無象のはしゃぎまわる日本語も、おおかたは ホントニ ナント スゴイ の三語で足りるらしい。
わたしは どんな売れっ子であれ、エラソーなひとであれ、 ホントニ ナント スゴイ を連発する手合いの顔には 即、大きな 疑問符を呈することにしている。
2021 8/12 236

* 晩、近・現代の中国史を映像で観た。おぞましさも覚えながら感嘆もした。私が、最初に、井上靖団長と倶に日本作家代表の一人として中国政府の招待を受けたのは、四人組が追放された直後だった。この國は「一言堂」ですよと痛烈なことばを大岡信と私とに囁いてくれた人とも出会った。
二度目に招かれた頃の中国は、もう資本主義国家かのように感じられた。
そして現今の中国は、あのナポレオンが「終身統領」そして「帝位」を目指したのに似ている習近平主席の「一言堂」に他ならず窺える。
それにしても、なににしても、「底知れない反復」の歴史を重ねてきた大国だと、目が離せない。
2021 8/14 236

* 永らく、日々に楽しんできた韓国ドラマ「トンイ」が明日で果てる。感動し共感できる秀作であった、こういう、日本風に大河ドラマと呼んでいるもので日本製に、かほど「トンイ」「イサン」「ホジュン」等の感動作の一つも印象に残っていないのは残念だ。
2021 8/16 236

* 韓国の長篇ドラマ『トンイ』の終幕編を感動もして観おえた。じつはもう三度目を観続けていたのに、十分満足した。『イサン』との歴史的な連携についてもよく承知している。
2021 8/17 236

* 晩は、生涯幻覚に悩みながらの「数」の天才ノーベル賞学者の、おそろしいほど緊迫の、撮って置き映画『ビューティフル・マインド』を、終始身を堅くし目を凝らして観た。
いい映画は、心底楽しませてくれる。
2021 8/17 236

* テレビ朝日の羽鳥・玉川番組での「コロナ観測」をもっとも信頼し、耳を傾けている。
目も耳も覆うたいへんな事態。要心に用心し耐え抜いて行くしかない。

* 同郷の衆議院議員のお手紙を貰った。ガンバンなはれや。
2021 8/19 236

* ケビン・コスナーがもう退き際の名投手を演じて、控えめに聡明なヒロインのケリー・ブレストン母娘に愛される映画を、おもいのほか感動して観た。ケビン・コスナーはどっちかというと大根派だが、ケリー・プレストンといっそ地味な情愛に観まもられて主役を完全試合で乗り切った。海外映画は海外文学よりも確実に面白い。
2021 8/21 236

* 気の衰えを労ってやらねば。そのためには面白いことを思い、興味有ることへ自分を誘って行かねば。
流されつ游ぎつきしの往きかひやコロナを詛(とご)ふ声ばかりして
と歌って優に一年が過ぎたが、ますますひどい。そんなとき、いい本、いい映画、いい歌声は有り難い。
ソフィア・ローレンが熱演、マルチエロ・マストロヤンニが共演の映画『ひまわり』に涙を堪えきれなかった。戦争のむごさ、愛の深さ・尊さをビットリオ・デ・シーカ監督の美しく厳しく冴えた演出と画面を、身をかたくしながら、感嘆・満喫した。
ドストエフスキーの『虐げられし人々』にも、待ったなしにぐいぐい惹きこまれている。
2021 8/24 236

* 見始めたスペイン映画『ローザのぬくもり』の重苦しさからは半ばで逃げてきた。そのまえに、アラン・ドロンとリノ・バンチュラと佳い感じの若い女優の謂うなれば親密なまことに快い「身内」愛の映像『冒険者』に(もう繰り返し観ている)惹かれていたが無残な死の悲話へ沈んで行くのを識っているので前半だけをこころよく楽しんだ。選りぬき撮って置きのCD版で、良い映画、好きな映画がいつでも幾らでも観られる。和洋を合わせらくに二百作は撮って置いてある。読書との好一対、財産である。
2021 8/25 236

* おちつかぬ体調になやみながら好きな「スーさん」と釣りばかの映画を楽しんだ。
2021 8/28 236

* 「科捜研の女」という沢口靖子主演の連続ドラマが、なんとも人気永く高く盛り上がっている。沢口靖子の圧倒の美貌ときまじめな演技が好感も信頼もされているのが完璧に当然と思われる。加えて「科捜研」なる最新技術を駆使した研究成果の実践がいつも目新しくて新鮮なのだ、犯罪捜査の裏支えにかかる颯爽の新鋭技術がひそんでいるのを知るよしもなかった、犯罪というと刑事達の汗まみれに泥じみた活躍だけが目立ってそこに久しく立ち止まっていたのだから。
それにしても沢口靖子の人気がここへきて爆発的に神話化して行くのが贔屓の私には大満足。私の靖子贔屓は昨日今日のことでない、もう何十年もむかしになる、テレビの世界へ初登場の昔も昔に一見し、近代日本「最上乗の美女」と見極めをつけた。以来、ものにも何度も「好き」だと公言し執筆しつづけた。それを聞き知った銀座の寿司「きよ田」(極めつき旨い、佳い、処方に顔の利く寿司店で、文壇ほか各界知名の客が来ていた。私は最初辻邦生さんに連れて行ってもらつた。山本健吉、宮川寅雄、井上靖さんらとも出掛け、妻もよく連れて行った。大将は、じつによく出来た親切な職人だった。)の大将が、おおそれはとすぐ手を回して、沢口靖子の、半畳大の顔写真や、「秦恒平さん江 沢口靖子」と署名の美しい顔写真の額を送ってきて呉れた。そんな額の一枚は、いまも、『選集』三十三巻の上で、我が家の玄関を飾ってくれている。
そればかりか帝劇の『細雪』で「きあんちゃん・雪子」を演じた時は、夫婦倶に中央の最良席を用意し招待してくれ、幕間には楽屋へ誘って、舞台衣裳のまま列んで何枚も写真に撮られてくれた。原作「四姉妹」を演じた四人が和服で花盛りに列んだのや、「雪子」ひとりでの美しい大きな写真も数枚用意しておいて、呉れた。
スターはスターであり、過剰に馴染むのは失礼で気の毒と、文通など控え、著書を送ることも私の方で遠慮してきた。が、この私の二階仕事場・書斎には、数えて七枚もの沢口靖子のポスターや写真がある。
沢口靖子と同時代を競い合うたような美女は、スターは、演技派女優は何人もいたが、ほぼ全部がいつしか影を消し、沢口靖子ひとりが驚嘆に値していま光り輝いているのだから、すばらしい。しかもなにという若々しい清潔な美しさ。それを確信した私の、彼女デビュー初見での眼力を、むろん、謹んで大自慢にしている。健康でいてください、あなたの美しさは心身を輝き出た健康美なのです。

* 一つだけナイショにしたが、書いておこうと思っていた大方を書きました。
2021 9/3 237

* 目覚めて、起きて、まっさきに太古中国の詩句や詩人の懐かしい名に見入っていた。中国に招かれた時、人民大会堂で初対面の周恩来夫人(当時副首相格)から、「秦先生は、お里帰りですね」と笑顔のアイサツがあった。「秦恒平(チン ハンピン)」は大手を振って通る中国人の氏名そのままなのを謂われたか。たしかに中国という國にも人にも 私、得も謂えない帰去来の共感がある、と倶に、あまりに福禄寿へ執着の処世へも批評・批判が在る。中国は底知れぬ古井戸で。比較に成らず、日本の国土も文化も水は清いが浅い美しい池のようだ。

* 久しぶりに映画「レッド・クリフ 赤壁」の前半を楽しんだ。監督はジョン・ウーだし、中国映画と思いたいが、案外アメリカ映画であるのかも、まさかと思うけれど。劇的にも映像もよく出来ていて弛みない。前半だけでも質・量とも超大作。こういう撮って置きがわんさと家に仕舞ってあり映画館の必要、まったくない。これのみはテレビの恩沢感謝に堪えぬ。
晩、「赤壁」の闘い、後半の映像をつくづく楽しんだ。めったになく、妻も、大いに惹かれ楽しんでいたのは、よかった。何とあれ雄大な歴史ものは面白い。刑事モノ、殺人モノ、マッピラだ。
2021 9/5 237

* 世事にも勤勉でない。古い古いブロスナンのスピーディな「007」を観ていたりした。
また、書庫に入り、手近へ積みたい(小説でない)文庫本(仏典や、デカルト・ニイチエ・ルソーなど)
持ち出してきた。書庫にはいると、もうとてもとても読めるわけのない大量の蔵書題に心惹かれて手を出し続けていたが。書庫にちいさな寝椅子を入れて読みたいなと思う。秋には適当な室温と思えるので、読んで、どんどん書架を明けたいと思う。
2021 9/6 237

* ショーン・コネリー主演の『薔薇の名前』という十四世紀僧院の怪奇譚を楽しみに見たが録画の板か機械に異常が出て、最後まで見切れなかったのは残念。ぜひ通して見てみたい作なのだが。
2021 9/8 237

* 昨日、ブーシキン原作の映画「オネーギンの恋文」を見直した。いささか阿呆めく気障なオネーギンのばからしい恋の、失恋の物語だが、映像の美しさはロシアの田舎を静かにうつしていて目にしみた。原作も名品。隣の書架からプーシキンの他の作や、ジイドの文庫本などを持ち帰った。イギリスとドイツの文学とは、かなり読みの間が空いている。ロシアとフランスに傾いている。歴史としてフランス革命と関連の文学作にこのところずうっと気を惹かれている。
2021 9/9 237

* 中途からだが、あのアメリカの同時多発テロの日を、ホワイトハウスやフロリダにいた当時のブッシュ大統領のうごき、ニューヨークの大惨事など映像構成したのを、手に汗する心地で見入った。ああいうことが日本の東京にも起きる日が無いなどだれに言えようか。そんなとき、日本政府は機敏かつ勇気ある賢明な対応と処断ができるのだろうか、もう仕方がない、若い河野の真に有能の人材をまさに駆使して國と国民とを守り率いて呉れるのを願おう。その為には、バカのように此の島国の海ぺれに何基も何基も原発をつくっている超危険を、もともと原発反対のはずの河野にシカと対処してもらわねば。「海」に囲まれた日本列島への同時多発テロ攻撃は、なんら「空から」と限らない。よく分かってて欲しい。

* お気に入り ニコラス・ケージとティア・レオーニの畏しいまで神妙に深刻に面白い映画『天使がくれた時間』を楽しんだ。もう一度も二度も繰返し吟味したいほど美しい、懐かしい、上出来のスリラーでさえあった。
2021 9/11 237

* 夕方から漫然と体不調だったのも、「天使のくれた時間」がはこび去ってくれたよう。
2021 9/11 237

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