* 二十六日夕刻からは妻と藤間會の初日を見にゆく。歌舞伎役者が続々現れて踊る藝を楽しませてくれるだろう。
十月には団十郎 幸四郎が昼夜で勧進帳の弁慶と富樫を代わりあい、藤十郎が昼夜義経を演じてくれる。おそらく当代一のいわば最高の熱演になるだろう。六日の通し。ともに絶好席をすでに貰っている。
十三日にはル・テアトルで松たか子の「ジェーン・エア」再演を楽しむ。やはり絶好席をもらっている・いま私の眼はどうしようも無く視力停頓、舞台に近くないと楽しみづらい。
二十日には梅若橘香會に招待が有り、万三郎の「鉢木」が観られる。先代万三郎の「鉢木」を楽しんで以来、何年、何十年が経ったろう。これも最前列真ん中の席をもう貰っている。ぜひからだを労りながら観にゆく。能舞台にまみえるのは久しぶりです。
2012 9・22 132
* 能の喜多流友枝昭世さんからは、十一月四日の「友枝會」にお招き戴いた。昭世師は「海人」を舞う。喜多の舞台で何度も何度も観た友枝喜久夫師のもう十七回忌。友枝一家が舞い競い、野村萬が狂言「入間川」を。友枝師には久しく湖の本も応援して戴いている。友枝昭世、かつて「鞘走らぬ名刀」とその名人藝を讃えたことがある。当代の能役者では傑出した藝の人。観に行きたい。
2012 9・24 132
* 十一月の国立劇場、幸四郎、福助、錦之助らの出演、鶴屋南北の通し狂言「浮世柄比翼稲妻」を予約。さらに松本紀保や上条恒彦らの出る、師走 クリスマススペシャルコンサートも予約した。
十一月の顔見世歌舞伎も、せめて夜は観たいのだが。十月、十一月には能舞台の梅若万三郎「鉢木」 友枝昭世の「海人」にも招かれている。やがて松たか子の「ジェーン・エア」も開幕だ。よろよろでも、ふらふらでも、楽しむのは妙薬と思って出かける。
2012 9・30 132
* 午後一時から国立能楽堂で梅若「橘香会」。万三郎の「鉢木」のあとに「道成寺」のひらきがある。今度の会はいつもの研能会とちがい流儀のいわば大会ゆえ、仕舞なども沢山ある。体調がもてば道成寺まで観て行きたいが、覚束ない。正面第一列を貰っている、有難い。片目で観ることになるかもしれず、それでも楽しんで行儀良く観てきたい。
* ことこまかに書いた久々の国立能楽堂、梅若万三郎の「鉢木」ほかの感想が、保存を失念したか、みな消え失せた。もう書き直す元気は無い。
片目は眼帯で塞いで出かけた。用心に用心して転ばぬように。
「鉢木」は見事で、この演者らしく典雅で情に篤く美しい佐野源左衛門尉常世が、目の前に実在した。最前列中央に席を貰っていたので、終始直面(ひためん)の常世とかたみに見交わすほど直面(ちょくめん)していた。この舞台の実存感、もう終生忘れないだろう。先代万三郎晩年の「鉢木」がまことに剛毅な常世であった。今日の万三郎はひたすらに美しい、しかも毅然として拘泥しない常世の人間を表現していた。大満足。願わくば子息紀長君が二代の名演を引き継いで、また新たな常世を造形してくれるまで永らえたいもの。笛の栗林祐輔、小鼓の幸清次郎、大鼓の亀井忠雄の三役が光っていた。地謡もこの門流はいつも美しくて清々する。
他はとりとめて謂うことなく、狂言「栗焼」の万作が、さすがに年取り声は落ちていたが佳い狂言顔で演じ、いい軽みの味わいであった。
仕舞は、みな、さほどとは思われなかった。涙目に終始悩み、からだが持ちそうに無く「道成寺」のひらきは失礼して一路帰宅。
2012 10・20 133
* 午後おそめに友枝昭世の能「海女」を観に千駄ヶ谷まで出向くつもり。後ろの席から舞台と演能とがちゃんと見えるかと心配はあるが招待に愉しみに応じたい。
二時半に能楽堂に入った。最後列の一つ前の席で、舞台は眼にぼやけていたが謡を聴き、囃子を愉しみ、ときどきは片目右眼を掌でふさいで左眼ひとつで昭世の美しくたしかな舞いを喜んで見つめていた。「海女」は子方がかなり謡う。これは難と言えば難であるが、前シテは珠取りの劇を強く深く演じて感動豊か。後シテは龍女としてちからづよくしかし静かに舞う。いい能であった、
能を終えたところで馬場あき子と出逢ったが、馬場さん一瞬二瞬わたしが識別できなかった。言葉をどうかけていいのかという顔つきで、湖の本が「こーんなに書架に増えたわ」と両手をひろげて話した。先日の「鉢木」のとき小林保治がやはりそうだった。二十数キロも痩せたのだ、顔にも生彩がなかったろう、掌の無数の深い皺などわたしが観ても愕く。
一路帰宅。二つの電車で二度とも親切に席を譲ってくれる人がいた。有難かった。
2012 11・4 134
* 今月は能楽堂をはじめ、国立大劇場、新橋演舞場、そして妻ももろとも招待されている福田恆存劇の「明暗」を、息子の秦建日子も加わって三人で観る楽しみが待っている。その頃までになんとか少しでも安定した眼鏡が出来て欲しいが。眼鏡自体に動揺があれば何度でも作り直す気でいる。この闘いは苦戦し難渋するに相違ないが、根気よく執拗に押し返したい。
2012 11・9 134
* 梅若研能会から、来年上半期分の招待券がいつも通りに届いた。感謝。
2012 12・23 135