* 嬉しい、懐かしい、佳いお便りが昨日もたくさん、今日も、郵便の数少ない火曜日なのにたくさん頂戴したが、もう、手も目も頭も疲れていて、記録出来ない。
繪も入って歌舞伎の高麗屋白鸚さんご夫妻、「鞘走らぬ名刀」と早くに表した能の喜多流シテ方友枝昭世さん、「秦さんはいまも現役ばりばりの作家」と作家 の森詠さん、大阪の石毛直道さん、さいたま市の松井由紀子さん、町田市の浦城幾世さん、山梨県立文学館の中野和子さん、津市の山下愛子さん等々、恐れ入り ます。嬉しく拝見しました。 2020 4/7 221
☆ 拝啓
コロナウイルスにより、まことに不穏な今日です
能会も次々 中止・延期で モチベーション、体調の維持に苦慮しております
秦様も 通院は危険で、苦慮なされてると思います
どうぞ どうぞ お大事にして下さいませ
秦 恒平選集をご恵贈賜り深く御礼申し上げます
以前にもご贈呈戴きましたが 立派な造本、装幀で 大切に読ませていただきます
御礼が遅くなりましたこと ご容赦下さいませ
右 御礼まで 敬具
四月五日 友枝昭世 喜多流シテ方
* 毛筆美しいなりに、「モチベーション、体調の維持に苦慮」 は、さこそと想われる。昭世さんほどの当代の名手なればこそ、まことさもあろう。またそれだけに、コロナウィルスの悪戯に禍されたくない。まだまだ数多い昭世能を見せて貰わねば。お大事に。
友枝さんには「湖の本」も久しくご支援戴いている。感謝しています。
2020 4/9 221
* 喜多流夏の青年能 また友枝雄人主公演の招待もいただいているが。
喜多能楽堂 しみじみと懐かしい、それほど御無沙汰している。前々の家元喜多実さん、後藤得三さん、喜多長世、節世さんの能に何度も何度も招いて頂いた。みなさん、もう居られない。嬉しいことに名人といえる友枝昭世が活躍、健康と無事を心より祈る。
2020 8/23 225
* 梅若万三郎さん、年越しの饂飩を下さる。恐れ入ります。
2020 12/20 229
* 正午過ぎ。冷える。六時ころ手洗いに立ち、そのあと、安眠していた。安眠できるときは それに任せる。午まえ、「八島」那須語りのヒラキを聴いた。小気味よく、めでたかった。「那須語り」を小口で仕掛かりの作を思い、そこへも顧みたいが手の 着いた仕事の多さに苦笑もする。ま、呼んでくれる声の間近なモノへ身を寄せるということ、これは仕方なくまた理に合っている。
2021 1/11 230
* 一昨夜、二階から下りてくると、つまが、なんと、金剛永謹の能「山姥」を見始めていた、私も一緒に最後まで観た、聴いた。日本の国土、自然をかくも奥深くも美しくまた畏ろしく、さらに懐かしく歌い上げた詩魂・洞察は他に例がないとさえ胸の奥を掴まれたほど感動した。じつにじつに久しぶりの能舞台に向き合っていた、嬉しく、想いを洗い濯がれたのを書き置く。
2021 6/1 234
* 伊藤鶴松著『歌舞伎と近代劇概論』をみると、随所に、一段と小活字で、名だたる歌舞伎演目の「あらすじ」が語られていて、実際の舞台に観入るよりはるか以前、明らかに幼少の昔に、近松作(だけでも53作の題があげてある。)の「心中天網島」「冥土の飛脚」「夕霧阿波鳴戸」などのほか、時代を追って「寺子屋」を芯に「菅原伝授手習鑑」の大要や、「伊賀越道中双六」の「沼津」や、紀海音の「八百屋お七」、また並木宗輔の「刈萱桑門」 並木五瓶の「五大力恋緘」「鈴ヶ森」、また四世鶴屋南北のおっそろしい「四谷怪談」等々、ことこまかに読ませてくれて、恐がりの私には字で読むだに怖い恐ろしい舞台の筋書きや役者などが、まこと親切に紹介されていた。もう明治へも手の届いてくる黙阿弥劇の「鼠小僧」「十六夜清心」「三人吉三廓初買い」「弁天小僧女男白浪」「切られお富」等々、かぞえきれないほど多くのあらすじが巧みに小活字で語られていて、いわば小説や講談をこのお堅いつくりの一冊で、一杯読めるのと同じだった。
高校生になって初めて南座で顔見世の芝居を観るよりはるかに早く、疎開前の国民学校、疎開先から帰京しての戦後小学校、新制中学の内に、贅沢なほどたくさんな芝居の筋や役者らの名を、たとえ朧ろにも。実に面白くも怖くも、私はもう覚えていた。
これもまた、祖父か父かと限らない「秦家」に「もらひ子」されての天与の耳ならぬ目での学問だった。どう感謝してもあまりある恩恵だった。私自身は祖父にせよ秦の父や叔母や嫁いできていた母にせよしこしこと読書している図は皆目覚えがない、のに、間違いなく「寶」と呼びたい本が、少年の目に無数に近く蓄えられていた。
叔母(宗陽・玉月)は「茶の湯」と「生け花」とを私に教え、「和歌」「俳句」という歌の作り方を寝物語にも教えてくれた。父は観世流「謡曲と能舞台」への道をつけてくれた。
その有り難さを、私は八五年もかけて、今、しみじみと感謝している。
2021 6/10 234