* 今日の午後は俳優座の招待で、モリエールの芝居を観る。笑わせてくれるといいが、それより指定された席から舞台が見えると善いと願っている。正月二度目の外出。
* 家を出がけ、選集第二十巻の零校正が出てきた。
* 俳優座公演のモリエール作・劇「病は気から」は低調な駄作で、喜劇が喜劇にもならず劇的な充実感はゼロというしかなくて、いたく失望してきた。あれで はテレビドラマの「大門未知子」にテンで蹴飛ばされてしまう。諷刺も笑いもみな生煮えで、拍手する気にもなれず。なにより、客席よりも舞台の上が勝手に先 に笑ってしまっているような不見識な芝居で、劇団俳優座のために歎いてしまった。。
* 帰りの練馬で、浦霞を一合、すこし寿司をつまんできた。寿司もこのところ手を拍って「うまい」とはなかなか行かなくて残念。
2017 1/17 182
* 「モ リエールの舞台は 大昔に観て 喜劇なのに全然笑えなかった記憶があります。聖職者の権威が地に堕ちた現代社会では、聖職者への風刺がまったく面白くない のでした。あの時代のあの文化圏には、聖職者の偽善っぷりを嗤うことは痛快だったのだろうと思いながら観ていました。」と、メールをもらった。「病は気か ら」は医者と患者への諷刺だったが、科白の彫り込みが平俗に過ぎて低俗だった。
だいたい、あまり大声では言えないのだが、わたしの口癖は、「病院や医者へ行けば念入りに包装して病気を呉れるよ」であった。わたしの此の科白の淵源は プラトンの『国家論』に在った。それをよく識っていながらわたしは医者に口をきいてもらって人間ドックに入って二期胃癌を見つけて貰ったのである。諷刺に はたいてい裏と表とがあり、表だけ裏だけでやっつけると半ば空気がもれてしまうのだ。諷刺される側より諷刺する側は百倍も聡明でなければまともな諷刺なん て出来ない。
2017 1/19 182
* 松本紀保の「玄関を開ければいつも」は築地の「鳥や」二階和室でのおもしろい科白芝居。たった三日の公演だが、座敷に倚子で間近に楽しめるのが嬉しく、予約した。
2017 2/8 183
* 五月はやすむ気で、六月の歌舞伎座、桜桃忌の日の夜の部を、高麗屋に予約。
鎌倉三代紀 御所五郎蔵 一本刀土俵入り。
役者は、幸四郎 仁左衛門 左団次 雀右衛門 歌六 猿之助、松緑、松也ら。
* 次の日曜には、松本紀保らの芝居を、以前に見たのをもう一度見に行く。そのあと建日子と出会い源氏物語のわかりいい本を手渡してやる予定。
週末には歌舞伎座を昼の部だけ。骨休めというと芝居になる。よく見えないからときどき居眠りしているのかも。いつも舞台の役と真向きになれる絶好席を貰えているので、居眠りなどすると高麗屋に逆に見られてしまうのです。
2017 4/7 185
* 明日午後、築地で松本紀保らの芝居を観たあと、夕刻建日子と会い、源氏物語の入門書を六七册手渡してやる約束。芝居のはねる頃まで雨とか。しかしまだ散るよりも咲き揃っていまい、築地も櫻はなかなか綺麗。
2017 4/8 185
* 今日は、サマ変わりのした、ふつうの家屋の一部屋をそのまま舞台に用いながらの松本紀保らの芝居を、隣室に坐って妻と観てくる。客は二十人ほど。紀保 という女優は弟の染五郎や妹の松たか子とは生き方のまた行き方のちがった意欲的な実のある舞台をみせてくれる。今日の芝居、以前に一度観て、とても芝居の 空気も展開も面白かった。建日子にも見せたかった。
芝居の後、その家の前でその建日子と会い、築地その辺のどこかで親子三人で話してくる。
* 演劇ユニットMISOJINの、アトリエ鶏由宇さよなら公演「ドアを開ければいつも」、同じ部屋で二度目にもかかわらず、松本紀保らの卓抜な演技力と作・演出の完璧な仕上がりで、じつに新鮮、力強い感銘を覚えた。はやくに母を失い老いた父と次女(紀保)とで住む、たまたま父が不在の家 へ、長女、三女、四女が母法事のために帰ってきての、まことにまことに仲良いありのままのお喋り芝居なのだが、山も谷もあり、みごとに自然でしかも怖いほ ど緊迫もする劇的時空であった。以前によほど感心したので躊躇いなく二度目を観に行ったのだが、最初の折り以上に泣かされもした。思わず笑いもし、手に汗 もにぎった。場面に不在の亡き母、ムズカシイ老父もしぜんと話題に参加してきたのは家族の歴史を語り合えばあまりに当然、そこに実の姉妹四人と、虚の両親 との「劇」も実現されていた。徹底的なリアリズムのようで、リアルを超えたイデアルな実在感を作劇も演技もが創り出していた。注目公演としても満足度ラン キングでも第一位を獲得しているのは、よく判る。
* どんな舞台であったか。舞台ではない。普通の和風民家の二階へあがる、と、広くもない、せいぜい八畳ほどの「畳」部屋一つが隣室とは襖で隔てられてい る。造り立てた部屋ではない現実に民家の二階そのまま。そしてその部屋に閾一つでまおもに隣接した畳部屋へ座椅子と倚子とでせいぜい二十数人の観客、妻と 私は倚子席にして貰っていた。
これは、いわば廊下に沿った我が家でまんなかの六畳の和室で芝居をし、客は廊下の外のテラスに席をもらって観劇するのと同じなのである。狭い、しかし濃密で実験に富んだ世話な劇空間なのである。
面白かった。三度目の機会が有ればまた見に来るだろう。建日子にも、朝日子にも、死んでしまった孫のやす香にも見せたかった。
* ハネ出されて築地の路上へ出ると建日子が待っていた。即、銀座のまた三笠会館へ向かい、イタリアンの階にあがった。出逢いの目的は「源氏物語」本文を 手早くかつ判りよく読み取れる参考書を七、八册手渡してやること、そして先日妻の誕生日に南国酒家で中華料理をご馳走してくれたお返しもしたのである。
妻も建日子もイタリアンのコースを美味いと喜んでくれたが、わたしはパスタの皿も肉の皿もうまく口にあってくれず、お添えモノの初めの軽い二皿と、デ ザートにエスプレッソを賞味した、いやいや妻と私はキールロワイヤルを楽しみ、建日子は葡萄のジュースをお代わりしていた。
銀座で別れてきた。いい日曜だった。ああいう芝居を観てくると、朝日子もいたらいいのにとも思ったが。
2017 4/9 185
* 三部制の八月、夜に、野田秀樹の作を、中村屋の勘九郎、高麗屋の染五郎らで演じると知らせてきたのを、観たい。熱暑の昼間は遠慮したい。
九月になるとサリエリ幸四郎の「アマデウス」が待ち構えている。モーツァルトはジャニーズWESTの桐山照史、コンスタンツェは大和田美帆とか。知らない顔、なのも楽しみのうち。
幸四郎丈、この公演でサリエリ上演450回になるという。そして来年は、大きな期待の高麗屋三世代大襲名披露となる。わたしたちも是非とも健康で待ち望みたい。
2017 6/15 187
* 十一時過ぎた。もう、機械は離れる。瞼が重く塞いでくる。
明後日で八月が逝く。十一時前には聖路加へ行かねばならない、熱暑にすこし遠慮を願いたいが。「湖の本136」発送までになお八日間の余裕がある。九月には、歌舞伎座へ。月末近く、歯医者も、幸四郎の「アマデウス」も、聖路加の診察もあって「選集二十二巻」の送り出しが迫ってくる。九月はがいして気忙しくなる。いまのうち寛いでいたいが、疲れ切っていては仕方がない。
2017 8/29 189
☆ ご無沙汰しています
アマデウスの稽古も佳境に入り、連日、幸四郎さん頑張っています。
演出と主演で しかも新しいキャストなので大変なようですが 皆さん熱心で いい雰囲気の様子です。
私は 襲名が滞りなく無事に いい襲名興行になりますよう 頑張っております。
茜屋さん千葉さんは 本当にびっくりしましたし、残念でした。いつも行くと秦先生のお話をしてられました。
美味しいホットチョコレート、紅茶、 そしてなによりコーヒーが飲めず。
お店の あの雰囲気は代え難いものでした。残念ですね。 高麗屋の女房
* 「アマデウス」 とても楽しみ。
* 今夜は、はからずも京都の田村由美子さんが、よほど昔に書いて寄越していた未完成長編の原稿へふと手が出て、なんと長時間をいとわず読み終えた、しっ かり読まされた。とくに前半の運びと仕上げには感心させられた。惜しいことにかなり欲張ってしまい、何もかも、書ける限りは書いてしまおうという後半の盛 り込みになり、質的な未完成は免れていないし推敲も雑になっていた。
しかし、話題も時代も青春も変転の人生も、人間も、薄くはなく踏み込んで把握されていて、ああ、このままでもし放り出したのなら惜しかったと思った。
思いがけぬ夜更かしになった。しかし、よさそうな可能性に触れ合うのはわるくない楽しさだった。
ほっとしてメールを開いたら幸四郎夫人のたよりが届いて、にっこり。
2017 9/3 190
☆ 九月も半ばとなり 「アマデウス」初日が近づいてきました。11月顔見世公演も発表となっていますので、襲名が、日一日と近づいてきています! 期待と興奮とが入り混じっていますが、うまくサポートできるように頑張りたいと思います。
「湖の本 枕草子」 ありがとうございました。
美しいもの、楽しいものを目にすると元気になります!
お身体 お大切に。 松本幸四郎事務所 博
2017 9/14 190
* 今日の歯医者についで、明けて月曜も水曜も聖路加へ通い、金曜には「アマデウス」を楽しみ、土曜にはもう「選集22」送りが始まる。送りまでに一週間 fあると思っていたが、ほとんど余裕が無いとは。送り終えれば即座に次の「湖の本」発送(十六日予定)用意に掛からないと、息を喘ぎそうになる。ま、これ だから健康も保てて行けるのかと思うことにしている。しかし本は、重い。このところの発送作業で左肩をかなり痛めているのが寝起きのつど分かる。老いの腕 力を過信していると危ない。
2017 9/22 190
* 散髪屋満員。このぶんでは来週の聖路加二科も「アマデウス」観劇も、白髪ぼうぼうの頭で失礼申すことになりそう。本を無事送り出してからの散髪、か。ま。いいでしょう。
2017 9/23 190
* 明日は「アマデウス」 幸四郎のサリエリを、妻と、観に、聴きに、行く。よほどむかしに、一度だけ、別の役者のサリエリを観た。ちょっとだけモーツアルトの弦の音色を聴いてから今夜は寝よう。
2017 9/28 190
* サンシャイン劇場での松本幸四郎演出・主演『アマデウス』をズッシーンと大切に感銘深く楽しんできた。立派な舞台、名優の達成であった。モーツアルトではない、創作に生きる者にはサリエリである。まことに心険しいものがあり、呵責の辛さが押しよせてくる。
* 恐縮な限りの絶好席をもらっていた、舞台の終始、サリエリとまぢかに向きあっていた、力いっぱい持ち堪えねばならなかった。熱い篤いカーテンコールを送ってきた。よかった。
* 西武まで戻り、八階に店をだした京都の「美濃吉」で菜食ふうの割烹料理、純米の浦霞を美味しく重ねてきた。
2017 9/29 190
* 俳優座から一月公演の招待が来ている。しばらくぶり、妻も一緒に行きたいと思う。神山寛 川口敦子 小笠原良知 児玉泰次 そして美苗まではお馴染み サンである。「いつもいつも君を憶ふ」というタイトルは旧仮名です。ぜひ妻と行きたいが、高麗屋の毎々の配慮と、俳優座とはちがうので、招待席は丁度中ほ ど。いまの視力で届くかとは心配。「湖の本」を送っている美苗に声をかけてみるか、そんなことが出来ると嬉しいが。 2017 10/25 191