* 『ユニオ・ミスティカ 或る寓話』にかかり切っていた、が、終始めがねの視力が機械面に組み合わず、気を殺がれて苦労も疲労もおびただしい。眼を閉じ、闇に埋もれ沈んでいるのが、らく。
機械を離れていい照明で読書している方が、らく。
* 音楽を聴いてまなこを閉じていた。バイオリン、ピアノ、オペラ、歌。機械にいっぱい入れてある、ぜんぶ自分で入れた。宛がいぶちの曲はノーサンキュー。
2017 1/26 182
* 眼も疲れ、少し気も沈んできたので、半ば瞑目して音楽を聴いていた。仕舞いの方では、岸洋子の「希望」 芹洋子の「四季の歌」 倍賞千恵子の「母さんの歌」 ペギー葉山の「学生時代」などを聴きながら、随所で目に涙をためていた。
2017 3/27 184
* 「この廣い野原に咲く花を ひとつのこらずあなたにあげる」と芹洋子の明るい歌声で、明け方よく睡れなかった。好んで聴く歌ではあるが、ひとつのこらず何でも呉れるなど聞くと、尻込みしてしまう。
2017 5/10 186
* モーツアルトのバイオリンソナタ24番ハ長調の第一楽章が好きで、そこだけをよく聴く。シェリングのバイオリンよりもヘブラーのピアノの鳴りの良さに いつも引き込まれてからだで反応してしまう。概してわたしはピアノが好き。グールド、ビレシュ、宮沢明子、菅野百合子などをよく聴いている。
2017 6/5 187
* マドレデウスの一番好きな、いちばん早く手にした盤の身にしみ通る歌に聴き入っている。
2017 6/18 187
* モーツアルトのバイオリンソナタを素晴らしいヘブラーのピアノ伴奏とともに聴き惚れている。
2017 6/18 187
* 近代の唱歌歌詞でいちばん好きかもしれない大和田建樹の「旅泊」がしきりと思い浮かぶ。
磯の火ほそりて 更くる夜半に
岩うつ波音 ひとりたかし
かかれる友舟 ひとは寝たり
たれにか かたらん 旅の心
月影かくれて からす啼きぬ
年なす長夜も あけにちかし
おきよや舟人 おちの山に
横雲なびきて 今日も のどか
今日も のどか だけが ややわたしの思いに逸れるけれど。
* 兎を追った山も 小鮒を釣った川も もたないけれど 唱歌「故郷」は独りときおり口ずさんで、声が涙ににじむ。父母もなく友がきも多くうしなったが 雨に風につけても 山紫に水明るく 思ひいづる故郷はいつも在る。
2017 7/9 188
* 目がみえなくて、モーツアルトのバイオリンソナタを聴いている。いつもながらヘブラーのピアノが冴え冴えと美しく楽しい。このごろ、マドレデウスのファド「ムーブメント」かヘプラーのピアノに心惹かれている。アマリア・ロドリゲスのファドも。
2017 7/21 188
* 九時になる。疲れて、ピアノや歌を聴いている。久しぶり倍賞千恵子の「かあさんのうた」に涙をこぼした。岸洋子の「希望」にも胸打たれて聴いた。いまは芹洋子が、「夏を愛する人は心つよきひと、浪をくだく大地のようなぼくの父親」と歌っている。やがて、ペギー葉山の、蔦のからまるチャペルの見える「学生時代」が聞こえてくる。あの学生時代を今こんなに懐かしむとは思わなかった。五十嵐喜芳の「オーソレミオ」にスカッとする。
これから暫くは、好きなマドレデウス「ムーヴメント」に聴き惚れて、落ち着く。落ち着いてまた仕事と願ったが、目はもう使えない。
2017 7/25 188
* 涼しいとさえ感じていたのが夜分になり、蒸し暑い。じわと汗を感じながら、小説を書き、選集の初校と再校をすすめ、「湖の本」のために鏡花に関わる昔 の色あせた座談会ゲラを苦心して読み読み電子化原稿に書き直している。「騒壇餘人」の「閑事」である。さればこそ出来る仕事。
八時半、だが、もう眼が見えない。
音楽を聴きながら、猫たちを写真で懐かしもうか。
* 心ゆくまで グレン・グールドのピアノを聴いていた。
しかし、もう機械相手の仕事は出来ない。白い画面では字が読めない。
2017 8/4 189
* 昨日柳君が来てくれて、何のお構いもサービスも出来なかったので、もう帰りがけ、わたしは彼を二階の機械部屋・書斎へ連れて行った。電器屋は二三度入ったことがあるが、めったに人は入れていない。ま、あまりな部屋の混雑ぶりをみてもらって何のサービスにも当たらないが、これを契機にすこしでも片づけたいと思っていた。
で、午後おそめに、小説の仕事をそこそこ捗らせたあと、それだけは気に入りの佳いソファ、建日子が欲しがっているソファをもう十年来満杯のダンボールたちが占拠しているのをなんとか排除しようと懸命に無い知恵を絞り、ま、ソファの上だけが本来の顔を見せてくれた。黒いマゴがその上ですてきに似合った敷物をひろげて躯を柔らかに沈めたのが涙が出そうに最高だった。そのまま機械に入っている歌を聴いた。小鳩くるみの「埴生の宿」、そしてペギー葉山の「大学時代」など。望郷の思いのなによりも迫ってくる歌を目をつむって聴いた。
もとの木阿弥にまたならないように、ソファ、だいじにしてやりたい。疲れたらソファに沈んで憩いたい。
2017 8/28 189
* 明日は「アマデウス」 幸四郎のサリエリを、妻と、観に、聴きに、行く。よほどむかしに、一度だけ、別の役者のサリエリを観た。ちょっとだけモーツアルトの弦の音色を聴いてから今夜は寝よう。
2017 9/28 190
* この機械で久しく楽しんできた音楽が、まったく聴けなくなった。「音」が一切消え失せてしまった。末期症状が露わになってきたか。
不正・不良メールは露骨に来るが、一切受け取らない。万一、しかと把握できなくて知友からのメールで有るかも知れぬものも、確認できそうにないメールは、過剰なまで、受け取らないと決めている。
2017 12/13 193