* 昨日、長時間ドラマ「下町ロケット」の前回を面白く見たが、今朝は二回目、精微な人工弁製作の成功を目指して、ロケットのバルブ以上の陰惨な苦戦が始 まっている。ロケットの時の障碍は競走の大企業であり資金面にひびく銀行等であったけれど、見ようによれば判りいい敵であった。心臓等の「人工弁」開発と なると、何より医学界という陰湿で深い極まる勢力関係に下請け産業や行政官界といういやらしい限りの世界が「得」と「名誉」とを狙って生き馬の何十頭の眼 でもぬこうと暗躍を重ねる。彼らの人間性から、どうしようもなく自然とそうなりやすい。官・産・学・医の異様な結託と暗躍は、医学書院の編集者としても見 知らぬではなかった。凄いのである。不快極まりないのである。だからこそ「ドクターX」のフリーランス大門未知子に魅されるのである、有り得はしないしか し間違いなくだから清涼剤なのだ。アトを追って続々と医学・医療物がドラマになってくる。
人工弁のことは、重篤な心臓病に命の危険にさらされている幼・老・壮の患者が眼前にあり命の悲劇や感動がからまってくる。はっと熱い涙にもともすると誘 われる。その中でいかに権勢教授や権力官僚や権力金融や悪辣な競争企業の陰険な望外や貪欲が関わってくるか、思うだに不愉快で見ていられなくなる。
しかしまたそれだからこその人間としての感動や愛情も刺激される。
もう「殺し」ドラマはつくづくイヤだ、うそくさい。やはり素朴でも複雑でも、人として生きる「感動」へ結びついて行く、励まされる、人を起たせるドラマ へと、ようやくこの世間も模索し始め変貌し始めているのではないか。歓迎する。但しうすっぺらい思いつきの感動稼ぎはご免蒙るが。
2017 1/3 182
* テレビでは昨日今日の「下町ロケット」が見応えした。どっちかというと、昨日のロケット・バルブの精微な仕上げの苦心惨憺と成功物語に、まっすぐな感動 があり、今日の心臓人工弁の必死の仕上げからは、涙をもよおす感動もしきりに与えられながら、人がらみの醜さや陰険さのあまり、ドラマがむしろ常のはやり ものの気味に沈んだかなという遺憾もあった。しかし、「相棒」よりも迫力に富み、「大岡越前」などは陳腐に低調すぎた。
いっさ長湯しながら読んでいた自分の「日本を読む 一文字・心象日本史」が面白かった。描いていた昔からの歳月の経過に多少のアヤはあるものの、理解の質も深さも、これでと納得できるものがあった。
2017 1/3 182
* 昨日の朝までは京の白味噌仕立ての雑煮、今日の昼は焼いた餅での清まし汁の雑煮を妻と二人で祝った。
テラスの奥のネコたちの家のそばへ輪切りの果物を置いてやってある、それへ今朝もふっくらと小さな目白たちが降りてきて一心に食べていた。真実心温まる のは、こういうとき。うそくさい人間の世の中はみなテレビの報道やコマーシャルでやかましくかき回し気味に代弁されていて、吐き気がする。かろうじて「北 の国から」のような歴史的な秀作長編ドラマに相寄る魂のぬくみを覚える。
藝術・藝能は、真に人の魂を感動で震撼するしか存在の意義がない。さもなくて蔓延っているのはすべてうそくさいただ商売道具や売り立ての呼び込みに過ぎ ない。スポーツというのはいいなあなどと、ふと思われる。イチロー、白鵬、沙羅、内村航平、ピンポんの愛ちゃんら。かれらの勝負にはうそが見えない。
2017 1/4 182
* テレビに張り付くようにして(でないと、見えないので)「NCIS」を楽しんだ。新シリーズが出来たらしい。短時間のテレビドラマ技術としては最高級にうまい。楽しみ。
* もう機械仕事は、ムリ。階下へ降りる。
2017 1/5 182
* あの激しい空襲、そして戦後占領国の支配下で、日本の文化材・最良の美術がいかに危難を免れ得たかをつぶさに識らせてくれたテレビ番組に感謝する。ウオーナア博士らの愛と尽力とに心から心から深く感謝する。
戦勝による日本への賠償として日本の文化材を没収したいと望んだのはどこよりも先に中国だった。アメリカにもその意思はあった。結果的に、マッカーサー がこれを認めなかった。日本の文化財は奪略を免れたのだ、だが、それは奇跡と謂うにちかい。戦勝国の敗戦国の文化財の没収ないし破壊は多くの歴史がむざん な実例を見せている。わたしは、この「私語」のなかで、繰りかえし繰りかえし将来のそんな悲惨を免れるためにも、無用の好戦に走ってはならぬと願ってい る。日本人の命よりも大事に感じている祖国の文化・文物を蹂躙させてはならない。近隣国は、歴史的な「怨」「憎」「妬」からも、何を措いてもむしろ文化財 を奪うか潰すかで戦勝のあかしとするであろう。
絶対に無用に戦争してはならない。挑発されてもいけない。自衛は、やむを得ない。 2017 1/8 182
* 九時半、まだこの時間でもう眼が見えない。機械からははなれるしか無い。
テレビドラマで、秀作「刑事フォイル」の新シリーズが始まった。大きめのテレビ画面ににじり寄ってみないと登場者の顔がよく見えない。しかし朝めざめて すぐタブロスという緑内障薬を点眼直後の視野の清明でかつ視力十二分の嬉しさは譬えようがない。そして、ア、アアという間に見えはガクンと曇ってしまう。 やれやれ。
2017 1/9 182
* 『臨場』劇場版という二時間余に付き合ってしまったが不出来で低調だった。
こんなのと比べれば昨日の夜遅く観た「松たか子」をゲストに迎えていたトーク番組は、圧倒的に旺盛で聡明な松たか子の美しい存在感にまさに魅了されてい た。茜屋珈琲店やマスターもおマケに顔を出してくれてとても親しい気分を反芻できた。あの喫茶店は高麗屋に紹介されて行き始めたという店ではないのだが、 われわれ夫婦しもとにかくマスターと気が合い、いつもカウンターで歌舞伎ばなしに花が咲く。高麗屋の奥さんも「あのマスター、そーら何でもよく識っている でしょう」と笑っていたが、まことにその通りで。
松たか子のみじかな話のいろいろからも、彼女がほとんど超一流の女優として強くて高い意識で生活をコントロールしているのがよく判り、短いがとても良い番組であった。ペンの仕事もよく出来る
し音楽も。豊かな存在感に強靱な生気がみなぎっている。
2017 1/15 182
* 英国の戦時下ドラマの秀作『刑事フォイル』がまた戻ってきた。
Dlifeの秀作「NCIS」も新シリーズで戻ってきた。
この二作に拮抗できる和製の一時間ドラマは、めったに無い。藤田まこと主演で出来の良いときの「剣客商売」 同じく米倉涼子の『ドクターX』ぐらいなもの。
2017 1/19 182
*「二十日の大統領就 任式騒動より二十一日からマーティン・スコセッシ監督、遠藤周作原作の『沈黙』公開のほうに関心があります。篠田正浩監督の同作には失望というより憤慨で したが、こちらはスコセッシ監督が二十八年間も映画化への想いを抱き続けてようやく実現したという前評判も素晴らしいものなので、久しぶりに映画館に足を 運ぼうかと思っています。」というメールも貰っていた。
* わたしはまた久しぶりにテレビ映画の名作『阿部一族』が観てみたい。
2017 1/19 182
* 今夜の「剣客商売」は、甘かった。
* キムタクの「A Life」は、売り出しの前回よりはマシだったが、やすもののドラマで味付け過剰、もっと的を絞ってムダなアヤを抜き、「A Life」の大事さに「劇」を構造して欲しい。テレビドラマの構造的美感が、もやもやした情緒の説明のように誤解されていないか。キムタクの芝居はわるくない、かなり気色悪いけれど、気色ワルサに魅力をそえる個性は有る。
むかし平清盛をやって感心させた武田健一?クン、ガンバレ。せっかくの竹内結子が今一つ花咲いていない。
2017 1/22 182
* 午前に、日本人画家林のすばらしい木版画紹介番組に感嘆した。春日大社造替記念展にも目を惹かれた。
昼過ぎには鑑定番組を一時間、楽しんだ。江戸初期禅僧の書に心惹かれた。
わたしも桃山期の禅僧江月宗玩と伝える墨跡、利休の孫千宗旦と伝える梅枝絵入り消息、松花堂と伝える「蝸殻」の二大字、を持っていて鑑定してほしいのだが、鑑定に頼むことなく愛して楽しむが大事とも思っている。金額で評価されたいとは、あまり願っていない。
2017 1/29 182
* 日本製の長編テレビ劇の最優秀傑作と謂えば躊躇無く「北の国から」と指さして躊躇わない。どんな断片映像をみてもその的確な把握と表現に胸打たれる。
今夜の寺島しのぶの「剣客商売」、良かった。キムタク・竹内結子の「A Life」も、ま、良しとする。
2017 1/29 182
* 今日も、でも、無性にガンバッテいた。もう疲れて疲れ果てた。やすみます。
昨日今日の感激の一つは、政治でも経済でも無い。Dlifeドラマの「NCIS」が泣かせた。同じ一時間ものを昨日観て感動し今日も観て、父と息子との久しい再会と熱い抱擁に涙した。嬉しかった。
2017 2/4 183
* 村上春樹はわたしの十四年後に生まれ、わたしの十年後にデビューしている。ふしぎなほど現世の縁のない作家で、何処の國かでしていた演説にだけ、感服した覚えがある。
世紀を隔てて前後していた小説・創作における「部屋」の弁であると分かった。感謝します。
いましも、わたしはわたしの「部屋」で、奇妙のもの語りの入れ替わり入れ替わりつづくのに、聴き入っている。
* おかげで「剣客商売」をパスした。九時から「キムタクと竹内結子」の手術ものを観、時間の被った「刑事フォイル」は録画を頼んである。
* キムタクの一時間は佳い空気がシッカリ生きて働いて、キムタクの芝居にやすいブレは 無かった。観るから優秀そうな看護師役にも好感が持てて、この二人でドラマがきちっと結べていた。わたしは往年、上司の長谷川泉が公へも評価してくれてた 「A級の編集者」として、大勢の各科医師や看護師(当時は看護婦)とよほど親しく付き合っていたので、こういうドラマでの言葉や身振りのウソ・ホントがか なり見える。しかし現実とドラマ世界はちがうし、そこに演技者のホントの煮つめカタが見えてくる。キムタクの芝居は現実はべつのとかと医師のホントを創ろ うとしていて、それに好感を持つ、題の「A LIFE}T」が要求しているホントをキムタクは幾分陰気くさくだが適切に描いてくれる。
おもしろかった。
2017 2/5 183
* しんそこ楽しめるような洋物の映画盤が欲しいが、最近テレビが見せる映画は、かつて観たものか、ヤケに凝って辛気くさいのばかり。
バート・ランカスターらの「オペラ座の怪人」などもう一度見たいが、昔に録画したテープはもう機械が写してくれない。板に直して貰うには一枚千円かかっ てしまう。やれやれ自慢のコレクト二百ほどがムダに場所塞ぎになっている。「オペラ座の怪人」のクライマックスで歌われるグノーのフアウスト絶唱が聴きた いな。「椿姫」の一幕もいいが、アトへ行くと可哀想で。「シェルブールの雨傘」も懐かしい。記憶がうすれボヤケてくると、好きな洋画ベストはとても10で は選べない、漠然とせめて30作位を順不同に挙げるしかない。正確に題も覚えていない、あの俳優の女優の監督のということになってしまう。
イングリット・バーグマン、エリザベス・テーラー、ソフィア・ローレン、キム・ノバク、マリリン・モンロー、オードリー・ヘプバーン、キャサリン・ヘプ バーン、スーザン・ヘイワード、モーリン・オハラ、デボラ・カー、ジャクリーヌ・ビセット、キャンディス・バーゲン、ナタリー・ウッド、ジョーン・フォン テイン、ブリジット・バルドー、ケイト・ウンスレット、アン・アーチャー、アン・バクスター、アニタ・エクバーグ、アリダ・バリ、ジュリー・アンドリュー ス、ジュリア・ロバーツ、ジャネット・リー、ドリス・デイ、ジェーン・フォンダ、ミシェル・モルガン、ジャンヌ・モロー、ピア・アンジェリ、ローレン・バ コール、アンディ・ディキンソン、ミア・フアロー、ミレーヌ・ドモンジョ、リタ・ヘイワース、ジョディ・ヤング、ベティ・デイビス、シモーヌ・シニョレ、 グレタ・ガルボ、ソフィ・マルソー、ナスターシャ・キンスキー、アヌーク・エーメ、マリア・シェル、マレーネ・デイートリヒ、マーガレット・オブライエ ン、マージ・ヘルゲンバーガー、エリザベス・シュー、バーバラ・ストライサンド、ジューン・アリスンーーーー。
以前はこの倍ほどは名を覚えていたが。
とにかくも忘れやすくなった今でこそ、わたしは「数える」ことに気を入れている。ルグスリをさして、50数えるのに、神武、綏靖、安寧、懿徳、孝昭、孝 安、孝霊、孝元、開化、崇神、垂仁、景行、成務、仲哀、応神、仁徳、履中、反正、允恭、安康、雄略、清寧、顕宗、仁賢、武烈、継体、安閑、宣化欽明、敏 達、用明、崇峻、推古、舒明、皇極、孝徳、斉明、天智、弘文、天武、持統、文武、元明、元正、聖武、孝謙、淳仁、称徳、光仁、桓武天皇まで五十代天皇を数 え挙げることにしている。一から五十を数える単調さより、ともあれ歴史の影を念頭に感知できている興味は捨てがたい。歌うように口に出来るのが面白い。
眠れないときは百人一首の和歌か歌人かを、時には双方揃えて思い出して行き、ま、八十ほどには達して、それで眠れるときと目が冴えてしまうときと、ある。
たった四十七人なのに赤穂義士の姓名は二十人ぐらいしか覚えられない。
ほかには、般若心経。ほぼ辿り読めるが間をおくと忘れる。いま完璧なのは歴代天皇の一二五代で、これは平成から神武まで逆にも正確に辿れる。
* あーあ、時間つぶししてしまい、十一時半になってしまった。今日も、猫たちの家の上やそばへへとんできて餌を食べている鵯、目白を何度も何度も見て楽しんでいた。
2017 2/13 183
* 黙々と送り出しの手仕事すすめている、しかし、休み休みに。吹き替えでない映画『指輪物語』の第一部を、耳に聴きときおり繪も観ながらの作業。
つい必要以上の「老人」に自分をきめつけて変な弱気になってはいけない。八十など、三十年前なら六十五歳ほどではかったか。九十の人も過ぎた人も目に見 えて増えている。自分から自分を老いへ追い遣っていては不健康。東京五輪、そして米寿。目指して歩いてそれで「自然」と考えていたい。まだ、したい、して みたい欲がある。
2017 2/16 183
* 作業しながら、クリント。イーストウッドとソンドラ・ロックの映画「ガントレット」久しぶりにまた面白くテレビで見聞きしていた。『指輪物語 第一部 も』感嘆しながら見聞きしていた。「NCIS ネイビー特別捜査官」も、緊迫して面白かった。日本製の続き物ドラマは味薄く、作法ワンパタンで、ウンザ リ。
2017 2/16 183
* 映画『指輪物語 リング オブ ワールド』の第二巻に感嘆している。いい映画はまこと数多い中で、すくなくも或る領域での傑出した最高峰である。映画 「ゲド戦記」は残念ながらこうは行かなかった。「里見八犬伝」でもとてもとてもこんなに官べきな藝術からすれば下の下の通俗映画だった。西欧映画にはいい 神話ものもあるが、百パーセントの創作・創画作でかほどみごとな大いさと面白さを満々と湛えた大自然神話は無い。もう何度も観、また原作も読んでいるが、 いささかも飽きない。
そしてまた『ゲド戦記』も読みたくなってきた。
2017 2/18 183
* 「湖の本134」を入稿し、休息かたがたビリー・ワイルダー監督「麗しのサブリナ」を堪能、楽しんだ。勤務盛年の昔にはいっそ反感を覚えた作であった が、八一翁で今回は、ボギーことハンフリー・ボガードも麗しのサブリナことオードリー・ヘブバーンも、遊び人の三枚目ハンサム、ウィリヤム・ホーメデンに も何の気兼ねなく魅された。映画って佳いなあと、とても途中で席を起てなかった。
このところ讃歎している「指輪物語」もそうで、何としてもテレビで粗製濫造の一時間ドラマは優れた映画作品の足もとへ遙か寄りにくい。ま、映画にもカス は多いけれど、昔は魅される秀作が多かったなあと、文学も映画も同じだなあと思う、但し演劇は近来作の方に秀作がある。時世の影響をうけて以前ものは腐蝕 して行くのだろう。
2017 2/20 183
* キムタクと「清盛」君らのドラマ、しっかり盛り上げてきて、大門未知子ドラマとは味わい異なった一労作に盛り上げてきたと思う。
* わたしはテレビを、コマーシャルも含めて、出演者の「魅力」をさまざまに検討評価して愉しんでいる。人物の「魅力」とは何であるか、ほたしがまだ六十 代なら「書き下ろし」て論じたかも知れない。人の「魅力とは」何か。しっかり書かれればベカトセナーになるかも知れないな。
2017 3/5 184
* べつのもう一つの小説を着想した。あすからもう書き出し始められるか、想を胸にし発行の期間をみるか。これは作柄による、間違えると元も子もなくなる。さ、キムタクの「A Life」録画分を観に降りる。
2017 3/12 184
* 「戦争と人と」を描いて完璧に近い造形美を成し遂げていた英国の連続ドラマ「刑事フォイル」を深い敬意とともに見終えた。海をこそ隔てていたがドイツ とイギリスとの近さが国土と国民におよぼす痛切な苦渋。ひれがあの大戦字の日本の銃後とどれほどの差かは感嘆には言えないが、それ以上に、日本海だけで隔 てた隣国との戦争状態が生じそうなときに、日本と日本人は、何をもってその事態から国土と国民の平和を守れるのか、とても気になる。いまの政権はアメリカ に頼りながら軍備と戦闘能力を前へ押し出したがっているが、白兵戦の時代ではない。どんな高度の算段と決断とで「平和」外交をどれほど狡猾でも云い全うし うるのかが、総理大臣、外務大臣、防衛大臣、法務大臣らの顔を見ているだけで絶望の寒気に誘われる。
* 明日、結婚届して五十八年になる。自分たちの平穏な終焉を願えば済むのか、そうではない。若い彼らのためにも彼女らのためにも、さきざきの日本文化を受け継いでくれる世代にも、どう平和を守りぬきたい。
2017 3/13 184
* 若い、恐らくは研修医を三人前にならべ、ベテラン医師が、難しい診断を要している患者を紹介しつつ「診断」を若い医師達に迫るテレビ屈指の好番組、機会あれば覗き込むほどに首を伸ばして観ている。今朝は、腰痛老女がついにはパーキンソン病と診断された症例を食い入るようにみせて貰った。身に沁み身につまされた。
2017 3/18 184
* キムタクと竹内結子らの「A life」 最終回を、気持ちよく見終えた。結果として気持ちのいい確かなドラマづくりだったのを喜ぶ。
もう日付が変わる。今日もしつかり仕事をした。
2017 3/19 184
* 気に入りの篠原涼子の「アンフェア」最終篇とかも低調なカメラワークで新鮮な躍動感に乏しく、逃げだして、枕草子の無類の鮮度を楽しんでいた。枕草子 に匹敵するのは源氏物語しか無い。その源氏物語でも、枕草子に取材したなと想える場面が幾つもある。紫式部はしっかりと清少納言を読んでいた。
2017 3/27 184
* 作業しながら黒澤映画「用心棒」を聴いて、ときどき画面へ目も遣っていた。黒澤映画はこの辺から凝って面白いが素直な感銘には浸りにくくなっていた気 がする。それでも何といっても三船敏郎の「男」が好き。このあいだ誰かさんが最近のイケメンがる少年を痛罵していて同感したが、三船っぽい力強さで大きい 男性の見当たりにくいのは寂しい。しとしとピッチャン、三国連太郎息子の佐藤某、北村一輝など、三船敏郎には追っつかない。キムタクもスクリーンを圧倒す るには、柄が小さい。
「用心棒」には、山田五十鈴、仲代達也はじめ、見るも懐かしい往年の出来た役者達がうじゃうじゃ出ていて、それが嬉しかった。それでも「七人の侍」の豪快な感銘には到らない。黒澤映画では「羅生門」「天国と地獄」などが好きだった。
2017 3/30 184
* 朝の讀賣テレビが東寺の小雨にけぶる五重塔と華やかな櫻、櫻を一の目あてに、その他京都各地でみごろに美しい櫻をたくさん見せてくれた。嬉しかった。 それにしても「凄い」と懼れるほどの人出。もう今年の花見はこのテレビ櫻だけでガマンガマンと思ってしまった。やせ我慢にもちかいが「さのみ目にて見るも のかは」と、兼好に教わった一条を思い出す。
2017 4/8 185
* 廃仏毀釈から今日の文化財保護政策までの経緯を放送大学で聴講した。日本の國と人とが古来「焼損文化財」を大事に保存してくれた有り難さ、目から鱗が 落ちた。怪我に遭った数々の色々な文化財からもどれほど多くが、材、質、色、技、由緒伝来等々、教えられ学び取れるか知れない。こういうことを大切に、そ れらへの研究・検討・保存・記録に日本人ほど心をいたした文化国家は世界に類がなかったと教わった。涙ぐむほど感動した。
わたしは不幸にして実の親たちとの、しぜんその親族との縁に生まれつき薄く、多くは伝聞で耳にした程度であるが、そんな中で、一等嬉しく、誇らしくすら忘れないできたのは、南山城当尾の里で大庄屋の役だか職だかにあった父方祖父いや曾祖父かも知れないが、庄内にある浄瑠璃寺九体堂九体佛などを身を以て守りぬいたということ、これまでも何度もここに書いてきた。欲得もからんで仏像の金箔を剥がしに来ようとする暴漢を防いだと聞いた。浄 瑠璃寺へも岩船寺へも当尾の石仏へも、わたしは何十年ぶりかで唐突に実父の生家を訪れた際に、家の跡を嗣いだ叔父吉岡守に連れて行って貰った。住持にも引 き合わされたが、それは記憶からとんでいる、しかし九体寺の仏像や堂塔はなつかしく目の奥にいつも沈んでいる。高木冨子さんが送ってくれた繪の写真もいつ もわたしを癒してくれる。
父の生家、叔父の家を、わたしはもう一度「蘇我殿幻想」連載の取材でカメラの島尾伸三さんらと立ち寄っている。そのとき浄瑠璃寺で撮ってもらった写真を、「選集十八巻」の口繪につかった。
* 日本の文化財が焼損せず汚損・破損せず、まして破壊されずかつ不当に損失・略奪されないようにと、わたしは、わが身をおもうよりも大切に痛感してい る。人名はもとよりとして、日本の文化財が蹂躙破壊されるのを恐怖する思いがなにより戦争イヤ、という気持ちの底にある。その思いで、わたしは石器土器の 往古來、無数の名品、名作、逸品の名と姿とを折り有るつど思い出し数を数えるように指折り折り思い出している。我が愛国のそれが芯、どんな機械文明よりも 手作りされ手塩に掛けられてきた文化文物こそが、「國と民族」との芯に在る。
2017 4/11 185
* 北朝鮮は、見よがしの大きな軍事パレードと、一発の実験爆弾とで大きな記念日に格好をつけた。米朝中のにらみ合い、腹のさぐりあい以外のなにものでもな く、由々しい限りの戦闘行為をどっちが先に為し「得る」かが見合いになっていて、危機が回避されたわけではない。云えることは、この事態に日本政府は何の 「決意」も「対応」も持ち得ていないということ。必要なことは戦力によって自立することではあるまい、「政治力」によって虎狼の国際情勢のなかでどう「自 立」出来るのかを思惟かつ行為しなければならない。
アベノミクスのような経済オンリーの国是で動いていれば、國の実質は力無い肥満へのみ向かって真の国力はむしろ弱まるだろう。安倍内閣は強引に安保法を 国会と国民に押しつけたが、米朝軍事緊迫のなかで、いったい何が出来ると謂うのか、北朝鮮からの核爆弾を十数分間のうちに防ぎうる何らの効果的な防備も日 本列島はもてていない。
おそらくアメリカはじめ諸外国の滞日人口は秘かに減らされて行くだろう。海外に縁のもてる恵まれた日本人家庭の海外脱出も本気で増えて行くだろう、危険は増しこそすれ一分も減ってなどいないのだから。
日本國自前の「軍事・軍力」で何かが安全に革まるなど、どう信じられるのか。「核」戦争にまさに巻き込まれかねぬ今、「政治」の力こそが発揮されねばならないのに。
* 黒澤明監督、原節子の「わが青春に悔いなし」を観た。反戦の地下活動に生きて官憲の拷問に獄死した京大卒の男に青春を捧げた京大教授の娘。夫の両親に つかえて懸命に農村に生き抜いて敗戦を迎え、戦後日本を率いるエースに育って行く。京大の学長になった娘の父親ははればれと娘の泣き夫闘士の人生を頌えて 志をついて欲しいと学生達を励まし共感の拍手に迎えられる。
* ああしかしながら、今日は如何。
学長の演説に真実拍手し共感を誓った青年達は、確実に戦後の保守権力とその手先の執拗な排撃をうけて潰されていった。あらおる労組と社会党との壊滅はそ の象徴であった 。その今日只今の目で黒澤と原節子の「わが青春に悔いなし」という革新的な意気に燃えた映画をみると、泣きたくなるほど時代錯誤劇に見えてしまう。
かろうじて「戦場のメリー・クリスマス」を撮った最後の全学連監督ぐらいまでは、戦後の革新民主感覚も生きていたろうが、テレビ画面に朝から晩まで交替 でのさばり、コトあるつど保守政権の先手組となって革新感覚を叩きに叩き続けてきた似而非卑屈保身知識人らの横行の結果・成果として、今日の安倍自民政権 はのさばり返っている。この「現実」の苦々しさをしみじみと思い知らせたような黒澤・原節子映画の再映であった。情けない思いを苦々しく味わい返した。流 石の黒澤も、時代という魔物のあくどい変貌の速やかさは捉え切れてなかった。
* 働く人こそが民主主義の健康な担い手でなければ、國と時代とは少数独裁強権の支配により好き勝手にされて行く。
2017 4/17 185
* 妻が近くの病院に定期の診察をうけに出ている間、成瀬ミキヲ監督の映画、原節子、山村聡、上原謙、杉葉子、丹阿弥谷津子らの、川端原作「山の音」を観 ていた。観ながら発送用意の作業をしていた。いい映画で、川端文学ではもっとも早く親しんだ佳作だが、久しぶりに観て、すこし病的にシンドかった。吉永小 百合の「伊豆の踊子」の方にいまなら手を挙げる。
映画「山の音」をはじめて観たのが、東工大の教授室でだった、そのころお茶の水女子大から「副手」とでもいったか、アルバイトのようにして私の講義時間 ごとに駆けつけてくれていた谷口幸代さんが、テレビのためりフィルムを持参してくれて教授室のテレビでみせてもらったのだ、かなりの時間かけて二人で「山 の音」の読みを語り合ったと覚えている、なかみは忘れたが。
* わたしが川端康成に就いて原稿を書いたのは、大昔の処女評論集『花と風』の中へ「廃器の美」と題して載せた短文だけだろう。この感想、今も、今日久々に観た映画「山の音」を介しても、変わっていない。
谷崎文学は ちからづよく満開の花、川端文学は雨に濡れた花、三島由紀夫は贅沢な造花とも、どこか、いつか、日録にでも書いた覚えがあり、いまも変わら ぬ感想であって、「山の音」は川端文学では好きな方の最右翼の一作ではあるけれど、たとえ話にしても「伊豆の踊子」「雪国」にならべると、侘びしい。「千 羽鶴」と並べて色合いは異なりしかもぐっと「山の音」は佳いが、ともに心病んで寂しく思われる。いま谷崎潤一郎の昭和初年につきあっているから、よけい、 そう感じるのだろう。しかも「山の音」より以降の川端作は、もっと良い意味の健康を欠いて迫力が沈んでいる。川端康成を既往へ溯れば、つい泉鏡花へ突き当 たる。谷崎を溯れば、親和的には永井荷風へ、対抗的には夏目漱石へ突き当たる。
わたしは、やはり、藤村、漱石、潤一郎の大きさと強さとに文学の核心をいまなお観てとりたい。
2017 4/18 185
* 小津安二郎監督「麦秋」のみごとさに涙して感動した。「東京物語」はすばらしく佳いが少しつらい。今の気分では小津映画の最高作は「麦秋」だと言いき りたくなるほど好場面と好科白に満ち満ちていささかも仰々しくない映画、わたしたち夫婦にしても懐かしい敗戦からやや落ち着いてきた日本の「平和な家庭」 が描かれていた。原節子、淡島千景、また菅井一郎と東山千栄子、柳智衆と三宅邦子、杉村春子と二本柳寛ら、ほかにも宮口精二といい佐野周二といい、二人の 子供達といい、いやもう堪能されてくれた。こういう静かに平和な日本を今の日本は、人。自然ともに完膚無きまで汚し果ててきた気がして、情けない。
2017 4/20 185
* 象の大家族の、子像をまもりながら五百キロにわたる生死をかけた移動の日々に、テレビで、同行。戦きにもちかい感動に涙も怺えかねていた。満天の星、草原、大河、水辺、干上がった大地、飢え、渇き、疲労、命をつなぐ水場、草野、泥水。
わたしたちがテレビに感謝を惜しまないなによりの番組は大自然、生き物たちの映像、ないしは人間の、ことに日本人の創り成してきた文化の映像。
わたしが最も嫌うのは、ただただ騒がしく喧しいマスコミのハナクソたちをムダに遊ばせている番組。わたしの命名になる「テレビ侯爵」たちの、閥めいて、うさんくさい、うそくさいおしゃべり番組。
2017 5/2 186
* 映画「ヘラクレス」 録画精度が悪かったけれど、かなり楽しめた。物語もウソクサみの単調を免れ、神話ながら人間味にしたがってウソのすじを通していた。
やはり映画はそれだけの覚悟で製作されていて、和製の「火サス」系てれびドラマの浮薄でヘタクソなドラマはくらべものにならない。「紙屋悦子の青春」は映画だった。「漱石の妻」は連続テレビドラマだったが楽しめた。あの水準がどうしても毎日の凡百ドラマでは出来ない。
映画は、名画でなくても相応の根性で創られているのが佳い。
2017 5/3 186
* 夕過ぎて「斬九郎」という渡辺。若原といういいコンビに北大路欣也が加わったドラマをしばし楽しんだ。小林綾子も出ていた。時代ものでは、マシな方である。
2017 5/5 186
* 飛行体と化ってカメラマンが日本列島の美事な紅葉・黄葉を見せてくれていた。素晴らしさに惹き入れられ息を呑んだまま嘆賞の一っ時を楽しん だ。テレビのいっとう嬉しい時間である、わたしたちは日野正平くんの自転車隊が日本中の心のふるさとを尋ねてまわる番組も嬉しく楽しんでいる。
2017 5/12 186
* 沖縄の或る芸能師弟の息の長い抵抗と慰安の活動をテレビが見せて聴かせてくれた。漫才とも漫談とも笑劇ともまた歌謡ともいえて、恍けながら辛辣にえぐって ニゲない藝に徹しているのに感嘆、称讃の思いを深くした。藝とは、芸能とは斯くありたい模範のようであった。
とうこん日本の、本土の芸人達はほぼ無意味にただおのれが遊んではしゃいで、しかもガメツク儲けようとしているばかり。恥ずかしい存在に成り終えている。
2017 5/16 186
* 日盛りのなか、三時前に病室へ、そして妻とときおり詞をかわしかわし、わたしは「わが十二世紀の百年」を思いながら仕事をつづけた。五時前からは、テレビの大相撲を「聴いて」いた。横綱三人が勝ち名乗りを聴いた。
2017 5/21 186
*横綱の相撲三番観て、帰ってきた。高野豆腐というのを煮てみたがサンザンのけっかに終わった。これだからわたしは料理はすぐれた芸術だと讃美するのである。結果的に酒を飲んでの晩食になった。米飯や麺類は胃全摘以降、まったく馴染めない。
2017 5/22 186
* 晩には映画「わたしは二歳」を久々に楽しんだ。山本富士子が佳い女優であったことをしかと再認識し好感をもった。父親役も祖母役もよかった。 来週には 山本富士子の「濹東綺譚」が楽しみだ。
2017 6/5 187
* 妙な二つに取り付いている。一つは何十年めの再読『多情仏心』里見弴の代表第長編。も一つは韓流ドラマ「王女の男」。
「多情仏心」はなんら血沸き肉躍る雄編ではない、終始一貫いわば「遊蕩紳士(=多情仏心)」の生き方を、仔細に、在るままに描写し尽くして飽かせない情 緒的なおはなしで、特段の感動もないのにずらりずらりと読ませる、まさしく「弴語り」。まだ二十台もはじめのわたしがこんな二千枚を読み切って決して投げ 出さなかったとは不思議で、何らか、却って私自身を解説する気味の愛読であったし、おなじ事を今またくり返しかけている。
韓流の方はあきらかに沙翁劇『ロミオとジュリエット』のご当地改竄もの、ただただどう創って行くかと先々を面白く推し測るだけ、だが、純愛の交錯劇の面白くないわけはない。
2017 6/6 187
* 柴又へは二度行った、妻とは菖蒲園へも同じ日に行った。
寅さんは、ま、人気の類型である。わたしは倍賞千恵子が勤めに勤めたあの「さくら」という女人をもっとも美しい日本の女の理想的造形と受け入れて愛してきた。一作一作のいわゆるどんなマドンナたちよりも、である。マドンナでは浅丘るり子が抜群の好印象だった。
2017 6/6 187
* ジンネマン監督でトーマス・モアを描いた『わが命つきるとも』を森閑とした気持ち、かすかに戦慄すら覚えながら観終えた。英国宮廷物の歴史映画はのが さず観るようにしてきた。兄の妻を強引に皇妃としながらアン・ブーリンに惚れ込み、皇妃との離婚、ブーリンとの結婚を信仰上のタブーを犯しても強行したい 国王の、その国王に阿るクロンウエルはじめ聖職や廷臣たちのむり強いに、ガンとして同意を拒み抜いた孤高高潔のもと大法官トーマス・モアは、悪辣な弾劾な どのもと、反逆罪として断頭台に果てる。無道の結婚と離婚、そして再婚を英国教会の首長としてローマ法王庁へも楯突いて強行したい王に、国をあげて従い、 ひとりトマス・モアは神への、そして自身への誠実を貫いた。
クロンウエルも後に断頭台に立ち、モアの友でありながら反逆罪をつきつけた大法官ものちに火刑に遭う。問題の王は梅毒で死んだ。この嘔吐の間でアン・ブーリンの産んだ娘があのエリザベス一世ではなかったか、これは確かめねばならぬが。
なんとも英国宮廷の映画は、いつもシンドい。エリザベス女帝でもヴイクトリア女王でも、しんどかった。だが、わたしは、イギリスもフランスも、西欧のどぎつい宮廷史からはあえて目を背けないようにしている。彼らの悪しき帝国主義を憎んできたし、いま中東世界の悲惨な混乱を招いたのもそれだったはず。
2017 6/11 187
* 荷風原作を脚色した映画「濹東綺譚」を山本富士子、芥川比呂志、新珠三千代らで観た。胸に迫るものが時代背景も巧みに描き取られ、ヒロインの生きのありさまが美しいまでに哀しかった。わたしの今書いている長編は、似もつかないが、しかもかなり深く重なってくるだろう。
* 身も病み、人も病み、世も病んでいる。淋しいことだ。もう機械からは離れる。 2017 6/12 187
* 寝床の上で朝の一時間を「橋姫」「放談」そして、バグワンの「老子」を読んで満たされていた。七時にひとり床を起ち、体重、血圧、血糖値を計り、イン シュリンを四単位注射してから、ごくごく簡素で少量の朝食を摂った。TBS日曜きまりのわりとまともな、それだけに型にもはまってすこし物足りなさもいつ も残る関口宏司会の番組を前半だけ観て聴いていた。発言の顔ぶれには何の不満もなく、賢い発言にもみな同感してはいるが、お顔ぶれが割り当てを順に穏やか に「話して下さる」感じ、激しく打ってくる訴え求めてくる訴求力に弱い。
ただこの番組、締めくくりに、昨今のジャーナリストのなかで最も信頼に足るすぐれたコメンテーターがいて、番組の全容をきりっとし纏めてくれる。この彼 への信頼でわたしたちはこの番組と日曜の朝ごとに向きあってきた。TBS夜のニュース23をこの人と膳場貴子アナとが担当していたときは短時間ながら気魄 の批評が電波を戦がせていた。あしき政治的介入で潰されたらしく、代わった連中にはジャーナリスチックな根性が弱くて甚だもの足りない。口先での言葉だけ の批評ではダメ。気概と気魄とが感じられる発言でなければ。
2017 6/18 187
* めったになく妻が最後まで元気に帰宅できて良かった。幕間に「吉兆」の食事をお銚子一本そえて楽しんだが、いかんせん三十分間の気せわしさ。あれは勿 体ない。満腹してしまい、日比谷のクラブでまた飲んで食べては身にこたえると、賢く断念して銀座一丁目からまっすぐ帰った。いつねクラブへ寄ってくるのよ り一時間早く帰宅できた。
戴いた桜桃を食べながら、「NCIS」を観てから、郵便物、機械を点検し、床につき読書して、寝た。
2017 6/19 187
* 朝テレビで、まずメキシコシティの街をカメラに案内され穏和な人情と藝術の香りに魅された。メキシコというと映画の悪影響でスペインの横暴な支配を想わせ られ身を引く気味に想っていたが、独立メキシコ後のメキシコはちがうのだと、貴重なことを教わった。島田正浩さんがしきりにメキシコへ行って路上に紙を拡 げて墨画を描かれてくる気の入れように察しがついた。「わたしたちは褐色」とわらいマリア様も褐色に創って祀られていた。ふとなつかしく、行ってみたいな と想いながら貫地谷しほりの巧みな語りと映像とを楽しんだ。
* すぐ引き続いて、春日大社の神事・祭儀の神秘を、みごとな映像で、長時間、息を呑んで見つめていた。清い、静か。日本の文化の精粋を目守りつづけて嬉 しかった。警蹕も聴いた。亂聲も聴いた。輪榊も観た、春日奥山も三笠山もみた。神鹿たちもみた。いろんな歌や藝能の奉納も聴いた、観た。
まぎれもない千年をこえて何一つ怠りなくまもり伝えられている文化の、美と永遠。
わたしがおそれ悲しむのは、こういう日本の文化が、ひとつ大きく道を謬れば、まさに蹂躙され荒廃へおいやられかねぬ、いま世界の人心の荒廃だ。
2017 6/21 187
* けさのテレビで あの志ん生の娘夫妻(七十・六十台)が「終活(死に支度)」を語っていたのはいちいち胸に落ちて教えられた。夫婦の気がまだ慥かであ るうちにこそ、「二人にのみ大事なモノ」を今のうちに「処分」できる。思い出はだいじだが、思い出の「モノ・シナ」は場所を塞ぐだけでなくアトの者が迷惑 するだけ。
「モノを捨てない」歳月をわたしは過ごしてきた。むろんそれが役立ってきた、創作や執筆の生活には。しかし、もう処分をためらうまい。
2017 6/22 187
* 作業しながら、Dlifeの「NCIS」を、韓流の「王女の男」を、そして山本富士子好演の映画「濹東綺譚」を先日に引き続いてもう一度しみじみと観 た。日本映画の十指に入る名画である。みごと大女優の傑作を成し遂げている。友達の原知佐子もしっかり一役買って出ていた。
知佐子では、デビューして数年、小林桂樹と共演の「黒い画集」や「野菊の墓」の兄嫁役が記憶に焼き付いてる。つい先日、亡き夫君実相寺昭雄を記念のウルトラマン繪文庫を送ってきてくれた。
* 市川海老蔵の若い夫人、闘病もあえなく逝去の報、可哀想、哀悼に堪えない。海老蔵七月には歌舞伎座昼夜に出勤と聞いている。あまりに気の毒だが、亡き夫人やまだ幼いお子たちを励ますためにも健闘されたい。
* 前川前文科省事務次官の記者会見を聴いた。菅官房長官らの愚劣なまでゴマカシとしか聞こえぬ弁明も聞いた。もうすこし魂のある代議士かと見誤ってきた のを恥ずかしく思う。総理、官房長官、副官房長官の厚顔無恥に心底呆れる。文科大臣の中途半端なうろうろと狼狽えザマも見苦しい。
しやつとしたこそ 人はよけれ という室町小歌が口をついて出る。
2017 6/23 187
* 同時通訳により各国の記者たちが話してくれる「ワールドニュース」は、出会いさえすれば、努めて観ている。恰好のかつ必要な報道で、日本国内の難儀な実情 を良い意味でいろいろに相対化してくれて有り難い。離脱英国とEUとの協議も、トランプが特別検察官を解任したがっているのも、とりわけ、マンハッタンの 何処やらで、なんと「一九二〇年代」を当時の服装・音楽・雰囲気で嬉々と楽しんでいるニューヨーカーたちの表情やムードにも、この年代がアメリカに有意義 に持ち得ていた現代史事情の解説などに、今朝も、心惹かれた。
2017 6/24 187
* 時代があまりにややこしく物騒に推移しているためか、へたくそなドラマに気をとられることなくさまざまな「時事解説」を否応なく耳に目にしている。へ んに物識りになってしまう。韓国の新大統領は冬季オリンピックを北朝鮮と一緒にやるなどと言いだすし、シランプ大統領の弾劾までに要するいろんな段階をこ とこまかに習ったり、アメリカの右派基督教とはいかなるものぞと教わったり。
成ろうなら、先日見せて貰った春日社の神事だの、心静かに引き込まれる優れた文化文物の話題に接したい。
読書も、つとめて古典に触れていたい。
2017 6/25 187
* 他のどんな番組より、断然として底ぢからある女優、音羽屋の娘の述懐を聴いて、宜なるかなと感動した。涙が溢れた。この人でも、高麗屋の松たか子で も、夢にでも歌舞伎座舞台での熱演、観たかった、やりたかったろうなと、いつも思う。ありあまるほどのファシネーション、身にそなえた花を咲かせている女 優だと思う。どんな訳をしてもフレッシュに溌剌としている、二人とも。
2017 7/4 188
* 小津安二郎監督「浮き草」を息を呑む感銘・感嘆で見終えた。往年の鴈治郎、そして京マチ子、若尾文子、杉村春子、みな、唸るような好演で、侘びしくも底にぬくもりの生きた人生絵図を描ききって、頭をさげた。
2017 7/4 188
* 「ロード オブ ザ リング」三部作の前におはり長編の映画「ホビット」が楽しめる。
「NCIS」も楽しめる。
久しぶりに少し老いたブルース・ウィルスの娯楽モノも楽しんだ。日本の安価なドラマは冗漫で観ていられない。
2017 7/6 188
* 順調に「湖の本135 黒谷・女坂他」 送り出し、始めている。暑い。
* 作業しながら映画「ホビット」のみごとな映像美に魅されてもいた。「ロード オヴ ザ リング゙」のいわば前史であるが、両作とも「映像」の美しさ大きさ、「物語」の面白さ、抜群。
2017 7/7 188
* 昨日、初めてではなくブルース・ウィルス主演の「アルマゲドン」を観て、身内でジジと何か煮えていた。疾走接近し地球へ衝突必至の彗星を防げるのか。乗り込んでの爆破以外に無い。世界は心を一つにし、選ばれた決死隊が行き、辛うじて星を破壊分散させ、地球は助かる。ただのツクリバナシとも在りうることとも思われるなかで、じつは似た状況で「核」の暴威にいま世界は、世界中の度の国よりも身に迫って、まぢかに「日本と日本人」は脅かされているのを、痛いほど感じる。久しい精次の無為無策がもはや「どう手の打ちようもない」放心ににた現状を、ただただ、政権も国会も国民もが放置状態にある。わたしにも何の名案も浮かばない。
このアルマゲドンは予期されていなかったのか、いやいや、少なくも二十年前のわたしは、ペンの理事会で、北朝鮮の核に厳重な用意が必要と発言していた。だが主立った誰からも言下に笑われた、「北朝鮮の核は<平和利用>なんですよ」と。
世界が、同質同様に世界自体により脅されているのだという認識に立って解決を求めぬ限り、「アルマゲドン」の最終破壊は逼ってくる。いっそ地球ともろともに全てが死滅するならあきらめがつくかなどと悪い冗談まで口を衝いて来かねない、が、ジョーダンじゃない。
2017 7/8 188
* 昼の寝起きにたまたま途中から観た「鑑定団」に、奇跡のような道入(のんかう)の平黒茶碗があらわれ息を呑んだ。樂旦入の、また裏千家玄々齋のみごとな箱書きも。重要文化財として保護して欲しいほどの名品だった。のけぞった。
柴田是真ら名工五人の合作になる調度箪笥にも感じ入った。
さすが浅草、いいものが出た、が、持ち出してきた大方の人はその品の値打ちをしらずにいい値なら売ってハワイへなどと云うから、仕方もないが、情けない。情けながりながらわたし自身も叔母から譲り受けたたくさんな道具の始末にじつは困惑もしている。道具は、多少でも趣味と愛情のある持ち主にこそ渡って行くべきなので、その点、うちの後継者は、落第。困っている。熱心に買いに来る道具屋が東京でも三軒ほどあるが、まだ呼び込んではいない。むしろ愛蔵してくれる若い人たちに出逢って、さし上げたいのだが。
2017 7/16 188
* 若尾文子らの初めて見る、変わった、しかし面白い映画をみながら、月末刊の発送用意を終えた。大きな画面のテレビに張り付くぐらいに近寄らないと役者達の顔が見えにくいとは、情けない。
まだ十時前だが、もう機械からは離れるしかない。
2017 7/21 188
* 火野正平が自転車で日本列島の自然再発見してくれる「こころの旅」番組は、最優秀テレビ番組と推して憚らない。うっとり、うとうとするほど寛いだ気分で懐かしくいつも見入っている。途中でテレビから離れるということが、絶えて無い。
* このところわたしの感慨の洩らしようは、「懐かしい」一語に大きく傾いている。老境を露わにした一語かと思わず目を閉じる。
2017 7/23 188
* コマーシャルの多すぎるのが玉に瑕だが「NCISネービー特別捜査官」はわれらの欠かせない贔屓番組。昔版と今版とが放映されていて両方とも観続けている。今夜のは「戦争」の怖さを切実にうまく描いて粛然とさせた。
2017 7/26 188
* 膳場貴子さんのTBS番組で、仲代達也のそれは聴くも辛い思い出を聴いた。東京山手大空襲に逃げまどうさなか、しかと手を繋いでいた幼い娘さんがふと 軽いのに気付いたら、手に掴んでいたのは「片腕だけ」であったと。動顛と傷心と自失のあまり思わず娘さんの片腕を棄てたと。どう悔いても悔いても悔い足り ないかなしみであったと涙ながらに聴き、わたしは思わず声を放って泣いた。
戦争はいや、戦争はしてはならない、という悲痛な声声が聞こえる。敗戦後の総理幣原喜重郎はみずから憲法九条と成って行く「戦争放棄」のケイト希望とを つよく提言して占領軍のマッカーサーをして感動せしめたという動かぬ記録が残され伝えられている。戦争放棄の願いは、天皇制保持とならんで共に「日本側」 からの強い提案であって、押しつけられたのでも何でもない。そういう虚妄を最初に口にしたのは歴とした戦争犯罪人の岸信介総理であった、天皇ですら「岸で よいのか」と懸念された岸信介の迷妄と名韮香の野心とをトクトクと信奉し持ち回っているのが岸の孫の次安倍晋三なのである。
彼安倍晋三は、日本がまたも戦地へ踏み出せる法律を通し、あくどい強権への反対表明を未然に抑え込めるかの共謀法を通し、驕り高ぶり大臣・官僚・党員の悪しき忖度の上に傲岸なあくらをかいている。
言うまでもない、総理大臣も大臣も代議士も「公僕」でしかない、良い公僕なら支持し悪しき公僕は罷免できるのが民主主義国家の国民主権。憲法はそうした 「公僕たち」を監視できる権利を保障しているのであり、総理といえども「一公僕」憲法を意のままに、ましてや間違った解釈のもとに好き勝手にすることは許 されていない、それは明歴々の「憲法違反」なのである。
こんな簡明な大原則を国民はつねに意識して大事に記憶し護持しなくてはならない。
* いま、信頼にほぼ値して、価値ある足場を国民に示唆し続けているテレビ局は、わたしは第一に「TBS」系と見ている。「朝日」には、新聞テレビとも今 少し毅然と強権にたちむかい、世論を「平和と反戦」とへ誘って欲しい。新聞では東京・中日新聞を力強く推したい。先年など、成る話ではないと知りつつわた しは「東京新聞」を「朝日賞」に推すことを敢えてしたほどだ。がんばって欲しい。
2017 8/5 189
* 夜、久しぶりに、しかし観たいと思っていた映画「マトリックス」第一部を観た。バグワンに聴きながら生きていた日々にこの卓抜な映画世界に踏み入って いた。あの昔からして、今や「マトリックス」のおそるべき日々はこの「現実・現世」と眺めている世界を覆い尽くそうとしている。機械に栽培されている人間 という名の機械世界、マトリックス。ぜひ、二部も三部も観たい
2017 8/7 189
* 夜前就寝前に、独り観たNHKテレビ。先の戦争でヒロシマナガサキに原爆が落とされて敗戦に至るまでに、米空軍の冷酷を極めた全日本絨毯爆撃焦土化作 戦の発案と強行の凄まじさに骨も凍る恐怖と怒りとを覚えた。人肉の腐臭で飛行士も耐えかねたという地上には灼き尽くされ老若日本同朋の死骸の山がひろびろ と野を成していた。大都会だけでなく、日本中の中小都市が人口と場所とを予定表に列挙されていて、なに容赦もなしに何より無辜の市民をこそ殺傷するのが戦争 に早く勝つ捷径と確信の上のナチスを事実遙かに上まわる米空軍による大虐殺空爆が事実着々と冷酷に進んでいたのだ。さすがにアメリカの軍部にも民間にも見 かねる批判が起きて、結果として、原爆投下の方が敗戦をはやく逼れると判断し、ヒロシマナガサキに原爆を投下、事実、日本は敗戦したのだったと。
なににしても米空軍の空軍独立と戦勲を狙った無惨な鬼道は、憎んで余りある。
いま、おなじ事を金正恩北朝鮮とトランプ米国は狙っており、犠牲はまっさきに日本列島に起きる懼れがある。
戦争回避の体験は歴史的にも例がある。しかし 恐るべきは米朝指導者がなかば狂ってみえ、おろかや日本の総理はトランプの腰に抱きついて正しい政治の視野を見失っている現実。
2017 8/14 189
* 晩には、好きなイーストウッドとルネ・ロッソの「シークレット・サービス」も楽しめた。
2017 8/16 189
* 九時、いまもいちばん贔屓のDlife「NCIS」を面白く見た。めったやたらに広告の多い、まるで広告でコマギレにされている映画だが、みごとな脚本と演技とで十分に楽しめる。大昔版と最新版と二つ放送してくれている。両方、上出来。
もう一つけっこうつづけて見ているのは何度目にもなるのに韓流の長大ドラマ「トンイ」。
日本製のドラマは、まったく見ない。退屈で見ていられない。
2017 8/17 189
* 起床8:00 血圧142-68(52) 血糖値98 体重66.9kg
2017 8/18 189
* 十時、おきまりの「NCIS」を一時間楽しんで、そのあとは、そのあとのこととして。疲れは溜めたくない。この部屋に佳いソファが復活して、横にも縦にも、つまり寝るのも読むのも出来て嬉しい。
* 今夜の「NCIS」は脚本の締まりがちと弛んでいた。
それよりも今日のテレビでは「藝能花舞台」で出遭った花柳だったか「基はるな」と名乗った女性舞手のきびきびとしかも格の大きな男舞いの美しさに魅された。妻もいっしょに掛け値のない拍手を送った。佳い舞踊にはえもいわれぬ美しい満足がある。
2017 8/28 189
* ふと階下へやすみに降りてテレビを見たら映画「ワールド・トレード・センター」が始まっていた。ニューヨークの貿易センターを二機の飛行機テロが文字 どおり壊滅させた、あの史上最大最悪のテロ。あの時に活躍した多くの消防士、警察官らの救済努力の中で大勢の悲惨な犠牲が払われていた。犠牲になった二人 の警察官とその家族達、懸命に救済に駆けつけた人たちの感動的なしかし凄まじい映像・映画だった、ほとんど泣きながら祈りながら呻きながら見終えた。
テロは絶対に許せない。
関東大震災での朝鮮人虐殺という無惨なテロ行為も、恥ずかしい許されないものであった、決して架空の事件ではなかった。その反省や祈りが、東京人や日本 人らの自己被虐だなどということは、決してあり得ない。卑劣なテロ行為の事実を故意に無視し通した小池都知事や同調の政治家をわたしは無気味なほど異様に 思う。
「都民ファースト」の都政は歓迎するが、小池百合子という「日本人ファースト」の政治家をわたしは否認する、トランプの「アメリカン・ファースト」とちがわぬ自慢高慢になりそうだ。
2017 9/2 190
* 今日はたくさん、読んだ。「十六世紀の美術 趣向と自然」を、そして泉鏡花の小説「龍潭譚」を、そして源氏物語の「若紫」を、また「総角」を、そして「出エジプト記」を、さらに、後白河院肝いりの 「年中行事絵巻」についていろいろ教わった。小説も書き進めた。テレビで「鑑定団」と「NCIS」も観た。
十一時半。またあすのために、休む。
2017 9/5 190
* まこと久々に、松田優作の、で無いならマイケル・ダグラスと高倉健らの映画「ブラック・レイン」後半を観た。からみつくシツコサに迫力の印象深い作 で、愉快ではないが出来映えに不快のないリアルなつくりものだ。松田優作かショーケンかと思ってきたが、優作の魅力を見直した。マイケル・ダグラスの映画 としても突出している気がする。大阪とその近郊に設定されているがロケは異国ではないか。若山富三郎らの親分ぶりもごっつい。しかし、見終えて、やはり愉 快でない。また十年もさきならいくらか懐かしんで観るだろうが。
2017 9/6 190
* 映画「陽のあたる場所」を途中から観て途中で見捨ててきた。エリザベス・テイラーはすこぶる美しいが、モンゴメリー・クリフトという男優が 「此処より永遠に」の昔から好かない。クラーク・ゲーブルとマリリン・モンローとの「美女と野獣」だか「荒馬と女」だかにも割り込んでいなかったか。好き になれない役をうまく演じているのだろうが、好かない。その彼に、冷たい湖で殺されようとしている恋人役の女優もこういう役どころがあまりに巧すぎて、観 ていて堪らない。
2017 9/8 190
* 九時前から懸命に力仕事を続け、いま、夕食前にと機械を見に来た。
作業前に、毎朝のように20錠ちかい薬をのむとき、強いアリナミンをいつもの倍量の2錠、痛み止めを1錠、予防的にのんでおいた。どっちもみこどに効い てくれ、石ほど重い本の包みを、一気に50册ずつ10数回も持ち上げてはキッチンから玄関へ運んで、潰れていない。痛みもない。
今晩も、十時までは、まだ頑張る。
腕力、まだシッカリある。こんな仕事はだらだらやってては疲れる。妻もよく手伝ってくれて、その間にもいろんな対話ができる。思い出話も子供達の話も「三人!」のネコたちの話も。
四時前から、録画してある松坂恵子の「蒲田行進曲」を半ばまで感じ入りながら耳で、ときどき目で楽しんでいた。よく出来た傑作映画というに憚らない。後半は夕食後に、また。松坂恵子、大好き。
若尾文子、岩下志麻、松坂恵子。はるかな初対面から何十年、わたしを裏切らなかった。
2017 9/9 190
* テレビで若原まゆみが裁判長役で、はなはだリアルで現任の弁護士の解説も入りながらの臨場感あふれた模擬裁判ドラマが始まった。わたしは若原まゆみと いう女優が、すこぶるの美貌であるだけでなく、時代劇でも歴史物でも刑事役でも臨床医や解剖医をやつても犯人をやっても奥さんをやっても、一度として々顔 で出ては来ないど根性に惚れている。うまい俳優は当然そうなのだが、若原の役に化け方は名人芸ほどうまいので大変に惚れて高く買っている。今晩の裁判長も かつて観たことのない顔で現れて説得のちからに富んだ臨場感を確保してくれた。じつに面白く肌身に逼ってくる裁判劇であった。しかもしたたたかに教えられ もした。
2017 9/13 190
* 晩、宮崎葵主演の北斎の娘を観た。魅された。北斎役もよかったが宮崎葵は大役を真っ向から咀嚼し尽くして立派だった。ちからのある女優の芝居をみる と、ナニともいえず妙な物言いだが羨ましくなる。宮崎は大河ドラマの「篤姫」でちからを見せ、連続ドラマの「あさがきた」だったかで辛抱役の姉を立派に演 じてわたしのアタマに大きく居坐った。その好印象を今晩の「おえい」役はしっかり裏付けた。映画「蒲田行進曲」の松坂恵子についで、また裁判劇の若原まゆ みについで、いい芝居を楽しめたのは何より。 2017 9/18 190
* 動物の心を聴いて読める西洋女性が、日本の老人夫婦に飼われている猫が、毎日のようにご近所からスリッパを銜えてくるのを実に的確にその猫から聴き 取って解説してくれたテレビ番組に、心から納得して嬉しくて泣けるほどだった。ネコが我が家へ来て妻にゆるされて子供達を生んだのも、子供達の最後に家に 残ったノコも一緒の家庭生活も、二人!が逝ってしまったあとまた我が家へ生まれたての黒いマゴが紛れ込んでの十七年のくらしも、まことに、その西洋の女性 がネコから聴き取っていたのとまったく同じ交歓・交渉の歳月だったなあと、とても嬉しく懐かしく、妻と、またネコと暮らしたいねとまで言い合っていた。い やいや、今度こそは、猫を遺してわれわれが旅立たねば成るまいそれは可哀想だ。
2017 9/23 190
* 島尾敏雄原作の映画「死の棘」を、気付かず、小一時間過ぎてから観た。釘付けになった。惜しいことをした。
2017 9/25 190
* 「NCIS」を楽しんだ。 今夜はもう寝る。
2017 9/26 190
* また大門未知子の「ドクターX」が観られる。待ち兼ねていた。なんといっても手術は医術のクライマックス、ばかげたドラマ展開でも「大門先生」の手術場面になると、心身が真っ直ぐになる。
2017 10/2 191
* 九時からコマーシャルの多いのに癇癪を破裂させながら「NCIS」を楽しむ。
2017 10/2 191
* 八時前だが、湯につかって、グタっと疲れている。火野正平の自転車での「とうちゃこ」番組はわれわれのいたく愛してやまぬ写真であるが、今晩の、あいちけんであるのか「月」という山間村落の「月」という名の見るからに懐かしい廃校へ連れて行かれた。泪が出た。
京都市東山区のわたしの有済小学校も弥栄中学校も「廃校」になりもう存在しないのである。たんに少子化だけの結果であろうか。学び育った学校が廃校で無く成るというのは、本当は想像以上に根の深い痛手なのだと政治・行政は実感し得ているのだろうか。
2017 10/3 191
* 三船敏郎の内蔵助、菊五郎になる前の先代尾上菊之助と佐久間良子で内匠頭夫妻、先代市川中車の吉良上野での連続「大忠臣蔵」を、気楽に、かつ共感しつ つも録画してみている。ねっちりもっちり造り立ててある。ほかに「NCIS」も贔屓にして楽しんでいる。テレビを「聴いている」時はその時なりの「仕事」 も同時にやっている。
この分では、容易に外出などヒマがとれないが、何としても青山の「保谷眼鏡」まで眼鏡つくりに行かなくては。いくつ、いくら作ってもすぐ適わなくなるのでは叶わないが。
2017 10/8 191
* 雑用と見えて決して省けない用が「出版」には有る。じりじりと進めるしかない。あと六日、実質は四日の余裕。ぎりぎりの仕上げか。
本に挟むプリントの挨拶をカッターで刻んで行かねばならないのが、力も要り、しくじり易くもあり、作業音もうるさくて苦手。それも、三船敏郎らの「大忠 臣蔵」を耳に聴きながら終えた。三船敏郎という男が好き。懐かしい俳優達がみな若々しく懸命に演じていて、司葉子のりくも佐久間良子の内匠頭奥方も美し い。「外伝」のことごとくを網羅しなお積み重ねて進んで行く。この分では、師走「討入」の日まで放映が続くのか、楽しみ。やはり三船敏郎の柄の大きさがす ばらしい。
2017 10/11 191
* それでも大門未知子ドクターXは、古いのも、今夜からの新シリーズも見た。
何と云っても手術シーンになると胸が熱くなってくる。あんな請求書がきたら首をくくりたくなるだろうが、あんな医者に掛かりたいとは切に思う。手術にも 愛は必要だろうが、人品に欠けていてもこと手術となると神業をたたえられた外科の先生、医学書院編集者時代の十五、六年に一人や二人は見知っていた。
2017 10/12 191
* 大石内蔵助を三船敏郎が演じる連続ドラマ「大忠臣蔵」の再放送は、全部を放映か選んで行くのか知らないが、今日は第八回というのを観た。なぜ、こうも、忠臣蔵が好き なのか穿鑿したことはないが、半分以上、もっと以上は、つくりばなしの脚色と承知してながら、感銘を覚えて展開にのめり込むのが「忠臣蔵」での常のこと、わ たしもけっこう通俗であるのだが、この芝居に関するかぎり、わたしの心底からの好み、贔屓心へ、親しく寄り添うてくるのだから仕方がない。
* いま、わたしがテレビを好んで選んできっと観たがるは、腹の立つばかりなニュース番組ではない、鬮とらずの一つは、大門未知子こと「ドクターX」で、 彼女が真っ向「いたしません」と、三つ「群れを嫌い」「権威を嫌い」「束縛を嫌」い抜く徹底した姿勢に、文句なく賛同するから。
忠臣蔵贔屓は、幕府の片手落ちな処断への反感もむろんあるが、君臣一体の不可思議なほど深い濃い恩愛感とそれに酬いる精魂こめた生き方に魅されるのであろう。と同時に元禄というみかけの繁栄に窒息しかけていた「武士という男達」のある哀れさを認めているからだろう。
もう一つには今の「大忠臣蔵」には、永年馴染んできた俳優達が、この場合特に男優達が大勢、それも昔のままに元気に若々しく顔を並べてくれるのが嬉しい のである。自分も若返っている気がする。「あたらしかつとし」が不破数右衛門を懸命に若い元気で演じている。特別どうという思いの無かった俳優なのに、嬉 しくなる。今夜は、中村嘉津雄がウソのように若く現れ、さらにはなんとも懐かしい新国劇の名優の顔も見られた。なさけないのは、あんなに人の名前をよく覚 えたわたしが、そんな懐かしい名前もふっと唇のさきで消えたように思い出せないこと。やれやれ。
四十七士の姓名を覚えたいと何度もアタックしながら、出来なかった。
もう一つ、{NCIS」という米海軍特別捜査官たちのドラマも贔屓。これは、ただただチームワークの良さと個人能力のそれぞれの卓越に魅され親しんでしまうのであって。
* かなり大きめのテレビ画面を用意し、わたしは真正面2メートル弱の席にいながら、登場人物の顔が見えにくくなっていて、ぜひ観たい番組になるとテレビ の間近へ席をつくって大画面に顔をくっつけている。それほどにわたしの視力は変調のまま疲労しきっている。しかも面倒がって眼鏡直しにも行かないで居る。 よほど家にいるのが好きらしい。
2017 10/13 191
*今夜は入浴し、三船敏郎の「大忠臣蔵」と米倉涼子の「ドクターX」を楽しんだ。もう他のことは措いて、躰を横にしたい。
2017 10/19 191
* 建日子が病院の帰りに寄ってくれたので、独りも淋しく、一緒に映画「濹東綺譚」を観た。いま、帰っていった。
妻とも電話で明日の打ち合わせなど。
胆石はわたしも持っていて痛かった。この先、どうするのか、医師とも話しあわねばならないが。明日から強い雨、強い颱風と予告されている。月曜の診察も一週間延びた。 2017 10/20 191
* 今晩は、冷蔵庫にあった、好きな絹漉し豆腐の一丁を、残っていた出汁醤油での清汁に簡単に煮立てて食した。堀部安兵衛・渡哲也と清水一学。天知茂の「大忠臣蔵」一時間を楽しむことが出来た。
油断なく。そう、油断なく毎日を過ごす気は、同じ。しかし、電話はまぢかに置いて、入浴の用意をしてみるか。老醜が老臭を加えるばかりでも、ナンだし。
2017 10/31 191
* 沢口靖子の声は聴きながら、明日の家事段取りや病院へ持参すべきものの用意をし、ついでドクターX大門未知子を楽しみながら、カステラ一切れと柿を二 つ、冷えたお茶をたくさん呑み、「たねや」の葛湯についていた和三盆をすこし嘗めて夜食にした。まだ十時過ぎだが、これから眼をつかって細かな機械仕事を する生気が無い。いっそからだを横にし、あかるい電灯で「浮舟」と鏡花と月報「絵巻」を読めるだけ読んで寝入りたい。
2017 11/2 192
* 十一時半。「湖の本138」を要再校で明日送り返せるよう初校ゲラに念を入れていた。気を励ますべく、観てはいられなかったが、ホワイトハウスを舞台 とする政治陰謀とテロリズムの喧しい映画を付けっぱなしにしていたが、邪魔にはならず。一仕事の一段落はしっかりつけた。今度の此の「湖の本138」の編 成もわたし自身は気に入っている。
2017 11/5 192
* さ、病院へ走る。
* 八時過ぎ。病院から帰って、汗(今日は温かだった)のまま、佐賀のぼうろ菓子二つと凍った鶏ガラスープを温めて卵一つ割り入れて、そそくさとした食 事。八時まで「大忠臣蔵」の後半が見られた。同志社の先輩で亡くなるまで文通もあった坂妻三兄弟の長男田村の高田郡兵衛が懐かしかった。三船の内蔵助と千 坂兵部の丹波哲郎とが釣り合って快い。
2017 11/7 192
*「選集24」郵送用にハンコ捺しを始めた。「NCIS」を観ながら予定の半分余を捺した。あとは、送り出しの挨拶を書いてプリントしなくてはならぬ。それも簡単に済む。
あます要件は宛名印刷だが、きっと妻が帰ってきて印刷だけはしてくれる。信じる。
2017 11/7 192
* 疲れてはいるが、尻を追われる急ぎ「仕事」は片づけたので、一息ついている。で、「大忠臣蔵」の録画も観た、大門未知子も楽しんだ。ボンヤリとでも、なんとか食べてもいる。妻の帰り支度の頼まれモノもほぼ見つけた。
2017 11/9 192
* 先の月の二十日この方 わたしは新聞を全く見てこなかった。右から左へ故紙にまわしていた。無くても何ひとつ困らなかった。テレビのニュースも大方は観ないで済ませた。天気予報と気晴らしとで済んでいた。
* 「討ち入り」「仇討ち」を待ちかねているわけでないのに、時として隠忍を重ね自重に苦しみ抜く赤穂浪士のような心境に落ちこみかけた自分を感じること がある。自分で自分が分からなくなる、ただワケもしらず緊張して暮らしているのが他人事のように哀れになる。やれやれと息を吐く。三船の内蔵助が率いる 「大忠臣蔵」を、多くはフィクションとよく知りつつ、その世界へ身を投げ入れているような自覚におどろく。わたしの中にはどうも赤穂浪士なみの根深い怨み ないし憾みがさも「公儀へも吉良へも」根づいているのだろうか。そうなの…かも知れぬ。いやそうと思えば自分が分かりやすくなる気さえする。
* 今晩は大門未知子の「ドクターX」の日だ、群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い。ああ、嫌いだ。
2017 11/16 192
* 昨日の「ドクターX」を、三度も繰り返し観た。何としても手術を受けて生還してきた身には、このドラマの核心部は身にもつまされ打ちこんで観てしまう。 こういうドクターにこそ出会いたく、こういうドクターとは容易に出会えない。徹底したツクリバナシとは承知しながら、底知れぬ病者の憧れや願が伝わってく る。
わたしは医学書院に十五年半も努めて大勢のドクターやナースと付き合ってきたし、おおく関係の学術書を企画製作しまた看護学の現場にも取材してきた。医 学看護学の人の命とかかわって底知れぬ世界であるのを承知しているだけに、ドラマ「ドクターX」の惹きつけてやまぬ意味を本気で思うのである。
2017 11/17 192
* 「大忠臣蔵」 お家再興の道は鎖された。佳境へ踏み入って行く。
大石 浪士達 出羽 千坂 柳生 吉良の葛藤 どの俳優・女優も気を入れて好ましく演じている。一時代を挙げての番組作り、懐かしく魅されている。 中車 田村高広 天知茂 上月晃 渡哲也 などなど 印象深い名は数え上げきれぬ。
* 大事に取り置いてあった古新聞の特集から、ついに「浅野内匠家来口上」どおりの討入四十七士の姓名を、とうとう機械へ写し入れはじめた。せめて諱は省 いても全員の氏名を諳記したかった。二十人ぐらいはすらすら云えたが、わずか四十七人が覚えられてないのは残念に多年悔しがっていた。書き写していると、 一人として今まで知らなかった姓名など無い。親類の名よりよう識っている。親類のような気がする。
* 九時。もう機械で目は使えない。あとは階下で、あれこれと。
2017 11/22 192
* 木曜の晩は「ドクターX」を楽しみ、今は「大忠臣蔵」も。浴槽で小一時間校正刷りを読み、このところは早めに床に就いて源氏物語を別の二册の本で読み進み、鏡花を読み、もうすぐ「絵巻」月報集も読み終える。なによりも熟睡の一夜を望むのだが少なくも夜中二度は起きる。
突如として咳き込むのと視力の甚だしい不安とが気になる。
2017 11/23 192
* 「大忠臣蔵」山科の別れに胸をつまらせた。今回も劇性よく煮つめられ、作の性根の太いこと、納得した。
2017 11/28 192
* 建日子が階下へ帰ってきている、ようだ。
* 建日子もいっしょに、やす香が生まれた当時のアルバム二冊を大いに楽しみ、七時からは一緒に「大忠臣蔵」を観てくれて、母親のようやく無事に生還復帰 の実感を喜びながら、八時過ぎには次の仕事の吉祥寺方面へ出向いていった。次回、第二十四巻の口絵には、『古典愛読』を中公新書に書き下ろしていた当時に 父と息子と二人して旅した中禅寺湖畔での写真が入るのを見せたり、短いが和やかな親子三人の時が楽しめた。有り難かった。
2017 11/29 192
* 木曜日は、大門未知子の失敗しない手術がある。一度の手術には一人の命が関わる。医者が一度失敗してもまた成功して行けばいいように思うのは、命をあ ずける側からは堪らない。大門未知子の「あたし失敗しないから」は単なる豪語ではないのだ、今夜のドラマで初めてはっきりそれが出た。
2017 11/30 192
* 「大忠臣蔵」 いよいよ大石らの江戸入りになるが前途多難。最年少松之丞主税と一つ年上の矢頭右衛門七の、前髪をおろさぬ元服。
☆ 「浅野内匠家来口上」 に依る 討入四十七士
大石 内蔵助 良雄 筆頭家老 千五百石 45
吉田 忠左衛門 兼亮 加東郡代 二百石 63
原 惣右衛門 元辰 足軽頭(鉄砲頭) 三百石 56
片岡 源五右衛門 高房 用人 三百五十石 37
間瀬 久太夫 正明 目付 二百石 63
小野寺 十内 秀和 京都留守居番 百五十石 61
大石 主税 良金 内蔵助長男 16
磯貝 十郎左衛門 正久 用人 百五十石 25
堀部 弥兵衛 金丸 安兵衛養父 五十石(隠居料) 77
近松 勘六 行重 馬廻 二百五十石 34
富森 助右衛門 正因 馬廻使番 二百石 34
潮田 又之丞 高教 馬廻国絵図役 二百石 35
堀部 安兵衛 武庸 馬廻江戸留守居役 二百石 34
赤埴 源蔵 重賢 馬廻 二百石 35
奥田 孫太夫 重盛 馬廻江戸武具奉行 百五十石 57
矢田 五郎右衛門 助武 馬廻 百五十石 29
大石 瀬左衛門 信清 馬廻 百五十石 27
早水 藤左衛門 満堯 馬廻 百五十石 40
間 喜兵衛 光延 馬廻勝手方吟味役 百石 69
中村 勘助 正辰 馬廻祐筆頭 百石 48
菅谷 半之丞 政利 馬廻代官 百石 44
不破 数右衛門 正種 元馬廻元浜辺普請奉行 元百石 34
千馬 三郎兵衛 光忠 馬廻 百石 51
木村 岡右衛門 貞行 馬廻 百五十石 46
岡野 金右衛門 包秀 部屋住(亡父物頭 二百石) 24
吉田 澤右衛門 兼貞 中小姓近習 忠左長男 十両三人扶持 29
貝賀 弥左衛門 友信 中小姓近習蔵奉行 十両二石三人扶持 54
大高 源五 忠雄 中小姓近習膳番 二十石五人扶持 32
岡嶋 八十右衛門 常樹 中小姓近習 二十石五人扶持 38
武林 唯七 隆重 中小姓近習 十両三人扶持 32
倉橋 傳助 武幸 中小姓近習 二十石五人扶持 34
村松 喜兵衛 秀直 中小姓近習 二十石五人扶持 62
杉野 十平次 次房 中小姓近習 八両三人扶持 28
勝田 新左衛門 武堯 中小姓近習 十五石三人扶持 24
前原 伊助 宗房 中小姓近習金奉行 十石三人扶持 40
間瀬 孫九郎 正辰 久太夫長男 ナシ 23
小野寺 幸右衛門 秀富 十内長男 ナシ 28
間 重次郎 光興 中小姓近習喜兵衛長男 ナシ 26
奥田 貞右衛門 行高 孫太夫養子 ナシ 26
矢頭 右衛門七 教兼 長七長男 亡父二十石三人扶持18
村松 三太夫 高直 喜兵衛長男 二十石五人扶持 27
神崎 与五郎 則休 横目 五両三人扶持 38
茅野 和助 常成 横目 五両三人扶持 37
横川 勘平 宗利 徒士 六両三人扶持 37
間 新六 光風 喜兵衛二男 ナシ 24
三村 次郎左衛門 包常 台所役人 七石二人扶持 37
寺坂 吉右衛門 信行 足軽 三両二歩二人扶持 38 83
* 名前を口にしてみるだけで、すかっとする。ああ何という元禄ならぬ不快な「平成の公儀」風情よ。
2017 12/1 193
* 京都の、さまざまに美しい精緻で清潔な「竹垣」編みの至藝に憧れて外国の男性が、京都の職人さんに弟子入りして、竹という素材が秘めた性質をそれは見 事なに生かしながら、さまざまな組み方で「生け垣」編みの稽古に打ちこんでいた。光悦寺垣、南禅寺垣、龍安寺垣、建仁寺垣、智積院垣等々の精微な割り組 み、 身の痺れそうな感激でわたしはテレビ画面をみつめていた。教える人、習う人、見まもる人たち、素晴らしい文化交流である。神懸かりに頑なな観念論な どに微塵も煩わされず「竹」の命を不思議なほど精微に汲み取りながら美しい竹垣が出来て行く。
もはやモンゴル人の相撲イジメに凝り固まってきたような、神懸かりにいかがわしい「相撲道」「角道」談義を朝から晩まで毎日聞かせる連中の、汚らわしい ほどのしたり顔、あまりにバカげて見える。バカの一つ覚えに神事神事と掘り返せば、果ては何が現れ出るのか分かって喋っているのだろうか、どれほどのこと を頭に入れてああも舌足らずに依怙地に吠えているのか、「竹」一本を生かした職人藝の清らかさに感じ入った目には、胸には、相撲屋たちの夜郎自大、浅まし い気さえする。
2017 12/4 193
* 「鑑定団」に楽左入の黒茶碗が、また古瀬戸の典型的な茶入も出た。佳い物は光っている。
2017 12/5 193
* 「大忠臣蔵」 先代松本幸四郎が日野家用人立花佐近役で三船の内蔵助と対峙し、大きな芝居を感銘深くみせてくれた。ゼッタイに通らねば済まぬ大の難所越え、二度三度と胸がつまった。討ち入りが迫ってくる。なぜにこうも忠臣蔵はわたしを揺り動かすか。
ことのついでに、五十音順に並べてみた「四十七士」の名を、ここに披露しておこう。
五十音順 赤穂四十七士
赤埴 源蔵 重賢 磯貝 十郎左衛門 正久 潮田 又之丞 高教
大石 内蔵助 良雄 大石 瀬左衛門 信清 大石 主税 良金
大高 源五 忠雄 岡嶋 八十右衛門 常樹 岡野 金右衛門 包秀
奥田 孫太夫 重盛 奥田 貞右衛門 行高 小野寺 十内 秀和
小野寺 幸右衛門 秀富
貝賀 弥左衛門 友信 片岡 源五右衛門 高房 勝田 新左衛門 武堯
茅野 和助 常成 神崎 与五郎 則休 木村 岡右衛門 貞行
倉橋 傳助 武幸
菅谷 半之丞 政利 杉野 十平次 次房 千馬 三郎兵衛 光忠
武林 唯七 隆重 近松 勘六 行重 寺坂 吉右衛門 信行
富森 助右衛門 正因
中村 勘助 正辰
間 喜兵衛 光延 間 重次郎 光興 間 新六 光風
早水 藤左衛門 満堯 原 惣右衛門 元辰 不破 数右衛門 正種
堀部 安兵衛 武庸 堀部 弥兵衛 金丸
前原 伊助 宗房 間瀬 久太夫 正明 間瀬 孫九郎 正辰
三村 次郎左衛門 包常 村松 喜兵衛 秀直 村松 三太夫 高直
矢田 五郎右衛門 助武 矢頭 右衛門七 教兼 横川 勘平 宗利
吉田 忠左衛門 兼亮 吉田 澤右衛門 兼貞
2017 12/6 193
* 映画「ミニヴァー夫人」を観て泣いた。連続ドラマの秀逸作「フォイル」と時機も重なり合うたイギリスがドイツの空からの烈しい攻勢に耐えていた。人物 たち、情況が、ことさらに悲惨というでないまま聡明にまた愛情深く悲劇にも耐え抜いて行く何よりも映画の気品、気凛の清質に感動し泣かされた。グリア・ ガースン演じる「ミニヴァー夫人」は数多の映画が造形し表現した「夫人」たちの最右翼に置いて称賛したい。不孝に戦死した若い花嫁のおばあちゃんも確乎と して生きていた。
久しぶりにほんものの名品映画を観た。(ただし、巻末、空爆された教会での司祭の曰くは、尋常に過ぎて説得の力に不足していた。わたしはそう聴いたが。)
2017 12/12 193
* 将棋の若き渡辺竜王とコンピュータ棋王ボナンザの決闘に引き込まれた。此処には悪しき政治、悪しき経済の入り込む隙がない。その透明さに心許せる快味 を覚えた。ボナンザが押していると見えていたのが、ただ一手で竜王の強烈な逆転決勝があった。将棋には疎い疎い、少年時代からの苦手な競技であるが、それ でも終盤の攻め合いには息を呑んだ。将棋の面白さへもかすかに行為と好奇心をもった。
妻と囲碁を楽しむにはちょっと落差が大きいと思うが、将 棋なら、追っつ辛っつ、早晩わたしの方が負かされてしまいそうな予感がある。わたしのアタマはとても将棋的に働いていないのでは、囲碁の方へ親しいので は、と久しく思ってきた。妻は、逆のように思える。わりに佳い将棋盤と駒とがあるのだ、引っ張り出してこようか、などと思うほど渡辺竜王の勝ち将棋に朝か ら刺激された。「閑は鈍人を逐ひ来る」のか。
2017 12/15 193
* 昨夜の讀賣テレビの「北朝鮮」をめぐる三時間討議は、望んでいた企劃で、傾聴した。らちもないお相撲の喧嘩などより、いま日本の国土、国民、政治にとって「北朝鮮と核」以上に差し迫った難題は無い。衆知と、真摯な検討・対応が何より大切。
制裁と圧力 にのみ傾いて、要点の「核」に態度も対応も不鮮明な安倍内閣、ただただアメリカにのみ凭りかかって居丈高に口撃しているだけの安倍内閣への「苦言」が出ていた。討議には対応が密に跡追わねばならない。防衛副大臣の発言が他のだれのよりも脆弱で頼りなかった。
ともあれ、真剣に耳を傾けて「聴ける」討議だったのを喜ぶ。
2017 12/16 193
* 黒澤明監督、原節子主演「わが青春に悔いなし」の後半に感動を新たにした。この映画に打たれるわたしたちは最後尾の世代だと思うが、感銘は身に沁みて新しい。わたしは京大生ではなかったが、京大を抱えた吉田山の風光と共に青春の思いを我流に灼熱させていた。
生きてきた戦後七十年、今此の安倍晋三に率いられた自民一強時代が、いちばん低俗不敏、頼りなくて且つ汚らしい。
2017 12/18 193
* 出かけて、クラブで夕食をと思っていたが、気が揃わず、やめて寝床で「能の平家物語」を読み、富岡多恵子の『壺中庵異聞』を面白く読み進み、夕食後は テレビで、テレサ・ライトの映画を観た。そういえば昼間にはジョン・ウエインの「捜索者」を後半観て、これは納得も行き面白かった。
しかし、終日、心身不調だった。アタマが回転しない。
2017 12/25 193
* 白楽天に向きあっているだけで、ほかに何を云う必要も無く思えてくる。
不愉快とも、向きあわねばならぬ例はある。が、そんな必要の全然無い不愉快とも顔をつきあわさねばすまない「現実」がある。
いま、新聞は、眼の弱さもありほぼ全く観ていない。何の不自由も無い。この上に、テレビ番組の九割がたを見え無くし
、観たい番組だけは予約録画できたら、暮らし気分、よほどスッキリする。それほど不快、不出来な喧しい、下品に低俗なドラマや阿呆な喋くりばっかりが多すぎる。
* 撫でた程度だが小説を少し動かした。
入浴し、大石と遙泉院南部坂の別れを見届けておいて、明日の、今年最期の聖路加受診に備えている。済めば、風邪を引き添えぬうちに休みたい。
2017 12/26 193
* 大忠臣蔵 ついに吉良上野邸の表門、裏門から討ち入った。やはり、泣けてきた。わたしは忠臣蔵に弱い。ただ仇討ちではなく、吉良の首は「公儀(お上) への一戦」という、それだけで、わたしは彼ら義士たちの(たとえ架空の外伝だくさんであろうとも、)身を粉にした總力・盡力の精華を全肯定したくなる。い わば日本の庶民の応援したくなる懸命の行動であったのだが、その「応援」は実は情けなくもめったに政治面で実らない。あいかわらず「公儀・お上」サマサ マ、ただ追随し、ついには疑念さえ持たない・持てない国民性と下落している、情けない。
2017 12/28 193
* 「大忠臣蔵」 ついに吉良上野を討ち果たし、公儀の片手落ちに堂々の抗議を唱えた。わたしはひれで良かったと思っている。四家預けの真意は分からない が、切腹は、それ以外に無かったかと。テロリズムと非難する向きもあろうけれど、史実として、もっとも健康に。もっとも感銘深く長生きした反体制事件とわ たしは受け取る。
2017 12/28 193
* 「大忠臣蔵」 切腹で終えた。宜しかった。また機会あれば観たい。
2017 12/29 193