建日子ら来て 雑煮祝う。
近くの天神社へ初詣に行ったが、延々の参拝客で、脇から境内に入り「遙拝」のみして帰る。妻や建日子らは夕近くにもう一度参拝に行った。わたしは失礼した。
* 賀状たくさん戴く。私からは失礼のみ、恐れ入ります。
* 心身とも不調で食欲無く、酒もあまり呑まず呑めず、機械にむかい仕事するか、横になって校正するか、いつしか睡っていたりした。母子らの話題にも加われなかった。
2017 1/1 182
* ひとり残って、今夜は泊まって行くという建日子と、雄町の純米大吟醸とっておきの「室町櫻」を組み合いながら話した。
こうして穏やかにしんみりと酒酌みながら話し合える機会は、もう残り多くはないだろう。最良の酒になって嬉しかった。
2017 1/1 182
* 昨日の朝までは京の白味噌仕立ての雑煮、今日の昼は焼いた餅での清まし汁の雑煮を妻と二人で祝った。
テラスの奥のネコたちの家のそばへ輪切りの果物を置いてやってある、それへ今朝もふっくらと小さな目白たちが降りてきて一心に食べていた。真実心温まる のは、こういうとき。うそくさい人間の世の中はみなテレビの報道やコマーシャルでやかましくかき回し気味に代弁されていて、吐き気がする。かろうじて「北 の国から」のような歴史的な秀作長編ドラマに相寄る魂のぬくみを覚える。
藝術・藝能は、真に人の魂を感動で震撼するしか存在の意義がない。さもなくて蔓延っているのはすべてうそくさいただ商売道具や売り立ての呼び込みに過ぎ ない。スポーツというのはいいなあなどと、ふと思われる。イチロー、白鵬、沙羅、内村航平、ピンポんの愛ちゃんら。かれらの勝負にはうそが見えない。
2017 1/4 182
* 雄町の純米大吟醸「白菊」一升瓶をお年玉かのように今日戴いた。
いまは朝日の伊藤壮さんに戴いた「越乃寒梅」を、一升瓶からジカにぐい飲みに戴いている。
50度純熟のウイスキー「富士山麓」も、各種の赤ワインも、ときどきは缶ビールも。
熱量はまあ摂っているわけだが、片端に、飲に偏った食生活ではあります。けど、腸閉塞は叶わないし。ま、ゆっくり、よく噛めばいいのですが。
2017 1/5 182
* 七草の粥を祝う。どの雑煮よりも、好き。
2017 1/7 182
* ノーベル賞正餐会に用いられたという日本酒「福壽」で八一の誕生日を迎え、「三千盛」「越乃寒梅」を飲み干して、また「福壽」で元日を祝い、「雄町の櫻室 町」を、また「越乃寒梅」を、そして今は「雄町の白菊」と、いずれも純米大吟醸酒を楽しんでいる。いずれおとらず秘術が尽くされ、じつに美味い。胃袋がな いので腸へ直通の酔いは早くて濃くて深く、いつ知れず寝入ってしまい、目ざめると視野が明るく新たまっている。 2017 1/8 182
* 初春の高麗屋父子そして大和屋坂東玉三郎に逢いに行く。寒気襲うと聞くが、劇場内は寒くない。ゆったりしてきたい。
* さきに茜屋珈琲店へ入る。マスター、とびきりマイセンのカップへたっぷり珈琲を点ててくれた上、染五郎のアメリカ公演劇を板に入れた希少な一枚をお年玉に呉れた。茜屋へは高麗屋の夫人たちもよくみえ、わたしたちのことも話題になったりするらしい。
2017 1/12 182
* 寒いかと懼れていた歌舞伎座を出ても杖もつ手に手袋が要らなかった。
日比谷のクラブへ走り、ゆっくり、すっかり定番にしてしまっているエスカルゴそして角切りステーキ、たっぷりのアイスクリームで初春の憩いを堪能。ス コッチと和製ウイスキーとを交々ストレートで。もう十数年になるか、このクラブは贅沢なほど静かで、和やかで、酒も食べ物もよろしく、歌舞伎のあと席には 殊にありがたい。
さほど疲れもせず、しかし家に帰ってほどなく日付がもう変わっていた。
2017 1/12 182
* 俳優座公演のモリエール作・劇「病は気から」は低調な駄作で、喜劇が喜劇にもならず劇的な充実感はゼロというしかなくて、いたく失望してきた。あれで はテレビドラマの「大門未知子」にテンで蹴飛ばされてしまう。諷刺も笑いもみな生煮えで、拍手する気にもなれず。なにより、客席よりも舞台の上が勝手に先 に笑ってしまっているような不見識な芝居で、劇団俳優座のために歎いてしまった。。
* 帰りの練馬で、浦霞を一合、すこし寿司をつまんできた。寿司もこのところ手を拍って「うまい」とはなかなか行かなくて残念。
2017 1/17 182
* 尿が出て便出て食えて目が見えて
読み書きできて睡れればよし 疲れたくなし
この中でいちばん困じているのは「食う」「食える」で、妻に気の毒なほどなにもかも食い気を誘ってくれない。まどもに食事しないので、仕事から休みに階 下へ降りるとラチもない駄菓子を食い強い酒を飲んで、居眠りし、また仕事に二階へ上がる。目は疲れていて、容易にキーが見えない。いちぱんシャンとしてい るのは寝床に脚を入れたまま坐った姿勢で照明あかるく校正したり読書したりの時。機械の反射光が目を疲れさせるのだ。
2017 1/25 182
* ハテ、わたしは。情けないが旋頭歌のように繰りかえし謂うなら、
尿が出て便出て食えて目が見えて
読み書きできて睡れればよし 疲れたくなし
根本は「食えて」にある。美味しく、噎せず、詰まらせずに食べたい。見た目の色かたちにも嫌悪感ヵ゛先だってしまい、できれば食べまいとする。しかも、 ラチもなく間食し、繰りかえし呑んで居眠りしている。いわば「食鬱」症か。明後日からの湖の本133発送、二月十五日からの選集18発送を終えた下旬ご ろ、鞄を背負い杖をついて、思い切って短い旅でも出来るといいが
2017 1/28 182
* 朝一番に、小田原の津田崇さん、すばらしい湘南の干物をたくさん送って下さった。
追いかけるように、写真家の近藤聡さん、純米吟醸の清酒を下さった。ここ二週間ほど日本酒から離れていたので友に逢った心地。近藤さんは昔々「秘色」や 「みごもりの湖」を読まれたころ、それは美しい現地の大判の写真をたくさん送ってきて下さった。それ以来、交流はなかったが写真に添えられていたお手紙を 読み返す折に会い、さ、お元気かな、同じ住所でいいかなと案じつつ今度の「湖の本133」を送った。宛先不明で戻るだろうなと案じていたのに、いち早く 「御礼」の名酒が届いた。幾重にも嬉しく、健勝らしいのを喜んでいる。
2017 2/5 183
* 京都では巻き寿司と謂った。こっちでは太巻きと謂う。昨日その出前を頼み、今朝にも午にも少しずつ食べた。「和可菜寿司」はよく私のためにと鯛の兜煮 (荒煮)を呉れるのを妻にほぐして貰って酒の肴に。それでいて、浴後の体重は65.1kgと、ひょっとして明日朝は、五年前胃全摘後の最低体重になるかも 知れない。わたしとしては、更にもう少し減らしたいと願っているが。
2017 2/7 183
* 俳人奥田杏牛さんから泉屋のクッキーを、川柳作家速川和男さんからカステラを頂戴した。
2017 2/8 183
* 古門前の、おっ師匠(しょ)ハンから、お茶菓子になる四種類「梅の壺」が届いた。ありがとう。手紙も追いかけてくるかな。
2017 2/9 183
☆ お元気ですか。
あっという間にお正月が過ぎ、1月のスケジュールを終えて、ほっとしたとたんに寒くなって風邪を引いてしまいました。まだすっきりしませんが、今日は街なかへ行き、用件を終え、お菓子を色々と送りました、楽しんで下さい。
湖の本-なつかしく楽しんで居ります。
今日は先日の雪の写真を送ります、わが家の近くでは小鳥が元気に歌って居ります、早く温かくなってほしいな!と思いつつ、無理をせずにお元気でと。 京・北日吉 華
* 感謝。
写真は、渋谷通り坂の途中、小松谷正林寺總門を見入れての雪景と想われる。懐かしい。お寺というと、不思議に「門」に惹かれる。漱石に『門』という秀作がある。禅の『無門關』も在る。
この辺、小松谷というように小松の大臣、平重盛の邸宅があったところで、墓もこの正林寺に在ると思う。いわゆる六波羅の東南極を固めていた。渋谷坂を越 えればそのまま山科へ、近江へ抜けて出られる。つまり都へ入っても来れる。『冬祭り』終焉の場の歌の中山清閑寺は京と山科の境に位置している。
わたしが京都幼稚園へ園のバスで通っていた頃、(真珠湾奇襲・開戦の年だ、)昼御飯をみなでこの正林寺門内で食べたある日、給食に煮た茄子が入ってい て、どうしても「イヤ」、どうしても「食べなさい」で、先生付きで独り境内に残され、大泣きしながら、ぐちゃぐちゃのを嚥み込んだ思い出がある。あれ以来 今日まで煮た茄子をゼッタイに食わなかったが、やはり家では母に口へ押し込まれ嚥み込まされた思い出がある。
さようにもわたしは茄子の煮たのが大っ嫌い。しかし茄子の生っているあの姿形も紫紺の美しさもまた花の優しさも大好きなのであります。茄子は天麩羅でもダメ、漬け物は食べます。
ついでながら、南瓜を煮たのも大嫌いだった。戦時中の代用食で飯にも混ぜて炊かれたが、茄子ほどでなくても辟易した。空腹でも食い気が湧かなかった。そ れが、この二十年ぐらいは薄く切って天麩羅になって出ると甘みを味わえるようになった。青唐辛子も牛蒡もかろうじて噛めるようになった。人参にはいまも手 が出ない。「ずいき」という、なにものだか分からない奇妙な食い物にも辟易した。
ちなみに、茄子喰い大泣きのあの日、同じ幼稚園児で同じその場にいた我が家の真向かいの女の子に「アホや」と嗤われた、嫌いなものが出たら(何と謂うたか)「エプロン」だかのポケットに突っ込んで帰ったら「ええのや」と。そういう知恵も勇気も持ち合わさなかった。
も一つちなみに、この正林寺の界隈、いま書いている小説で使っていて、見確かめにゆきたいのだが、情けない。
2017 2/15 183
* 京の美しい干菓子いろいろに「華」さんから戴く。感謝。
2017 2/16 183
* 汽車・電車で関門トンネルを抜けたことは二度あるが下関で降りた事はない。鞆の津で一泊したことがある、「ミマン」誌だったかの旅で、妻の代わりに朝日子が一緒だった。
このところいわば獣肉にはほとんど気を惹かれない。魚の淡泊な刺身がいいと、夕食に、また鮓を和可菜に頼んだ。あれは胃全摘より以前だったろうが、銀座 裏で「鉢巻おかだ」で鮟鱇鍋のコースを妻と堪能したのを思い出す。生涯で何が美味かったかとなると記憶しきれない中で、あの「鮟鱇なべ」の仕上げの美味 かったことは。京・祇園「かき舟」の「鍋」も忘れられない。歳末になると編集委員との忘年会をどうすると思案するのが編集者の役だった。新宿「田川」で、 小児科の馬場先生らに「河豚」を食べて頂いたが、お相伴の「雑炊」が美味かった。つまりわたしは雑炊が好きだったらしい。あれは満腹するので、いまは危険 で近づけない。腸閉塞がこわいのである。おかげで、いま、あれが食べたいという気が湧かないのは、口惜しいほど。
鮓が、届いたらしい。仕事づけで目がよく見えない。
2017 2/18 183
* 久しぶりに、夕刻、歯医者へ。五時過ぎ、江古田の中華家族で、妻は酢豚、わたしは麻婆豆腐。卵スープに杏仁豆腐のさーびす。わたしは、マオタイをダブルで。この店、いまや妻のお気に入り。女将と気が合うらしい。食べ物の店とは親しくなるのが良い。
2017 2/24 183
* 前の藝術至上主義文藝学会会長馬渡憲三郎さん、村上開新堂主人、名古屋市の画廊主大脇八壽子さん、金沢の作家金田小夜子さん、また、国会図書館、批評家佐高信さんから、「選集⑱」へご挨拶があった。
金田さんからは名菓羽二重餅や瀟洒に美味い洋菓子にくわえ、有り難い御助勢も戴いた。感謝申します。
名古屋の大脇さんからも好いお手紙に添えてみごとな栗菓子を戴いた。大脇さんとは、『墨牡丹』そして華岳の御縁で、所蔵の華岳の観音様を拝見に、瑞穂区 の画廊まで出向いたことがあった。親切に迎えて頂いた。久しく御縁がなかったが、ふとお元気かなと電話したら喜ばれた。『忘れられぬ画家たち』を贈ったの へ、なつかしそうに好いお手紙を戴いた。遠くの人がまた久しぶりに帰ってこられたような気がしている。それだけわたしの晩年が熟してきているということ か。
2017 2/25 183
* 朝一番に、永田澄雄さんから千疋屋の美しいほどのフルーツゼリーを沢山頂戴した。 2017 2/26 183
* 馬渡憲三郎さんからフレッシュで大きくておいしい土佐文旦をたくさん頂いた。吉田章子さんからのネーブル、永田澄雄さんの千疋屋フルーツゼリー。生々と清々と、有り難い。
2017 2/26 183
* 検査諸データ、「とてもいいですね、いいです」と、十数年前には、このままだとあと五年ですと脅した先生、太鼓判で、今日で定年退職される。久しいご指導 のお礼に、2006年もののシャンパンを持っていった。地元衣食足りて礼節を知る紹介しましょうかと言われてお断り、引き続いて築地まで通院させて下さい と。新しい先生と、次回予約日はもう少し後日にきまる。「とにもかくにも、歩いて下さい」と猛烈に奨められた。
前立腺の方も、「いいですね」と。そして「少しずつでも歩いて下さい、下半身の筋力が落ちてしまわぬように」と。
午過ぎには病院を出、院外薬局で処方薬などを出して貰って、一時。
「ボン・シャン」のフレンチをと松屋わきまで行きながら、写真の招きにさそわれて「ステーキ昼食」の店に入ってしまった。うす切りステーキはたっぷり出 たけれど、ビールをお伴の味わいは単調で、フレンチへ行くべきだったと痛悔、元気も湧いてこず、銀座一丁目から帰宅。駅にタクシーなく、よろよろに疲れ 切って家まで歩いた。容易に回復せず。
2017 2/27 183
* 有元毅さんに頂いた純米大吟醸「獺祭」の美味いこと、姿勢までシャーンとした。
2017 2/27 183
* 有難う存じます。結句は、百薬の長のごとく美味いお酒に惹かれながら、美味しい菓子も嬉しく口にしています。いい食べ物、いい飲み物はウソをつかないから信頼します。
しかし、詩も見せてください。
2017 2/27 183
大脇さんに頂いた栗菓子、金田さんの羽二重餅や洋軽菓、藤森さんの選りすぐりのチョコレートなど、みな嬉しく夫婦して戴いた。妻はこのごろでは名酒へも手が、いや口が出る。今朝は各務原の山中さんから、三千盛純米大吟醸の生搾りを戴いた。寿命が延びそう。感謝。
2017 2/28 183
☆ 原作・清経入水 原作・畜生塚 原作・斎王譜
どれも欲しいと思っていた本でうれしいです。じっくり読ませていただきます。 2/17から26まで五個荘、伊豆河津、足利と休みなく出ており、失礼いたしました。 豊島酒造より”うがいぐすり”届くと思います。
くれぐれもお体大切に。 東村山 近藤聡 写真家
* 東村山の銘酒一升 頂戴した。感謝申します。
四国の大成繁さんから讃岐うどんをたっぷり送って来て下さった。細い面はつい呑み込んで、腸閉を起こしやすい、讃岐うどんは太くてしこしこと噛めるし、衝いてくる出汁が旨い。感謝申します。
2017 3/2 184
* 明日は日曜。一日ぐらいぼうやりしててもいいだろう、が。鵯が、鳩も、置き餌を食べにテラスへ来てくれるのが嬉しくて。息を凝らして眺めている。ネコもノ コも黒いマゴたちも一緒に観ているだろうと、いつも声を掛けている。文旦やオレンジやフルーツゼリーがあって、ときどき苺まじって果物は有り難い。食べ物 を食べ損ねるとえづいて吐くのが苦しいが、腸を詰めて塞ぐよりは、吐いた方が遙かにマシ。米の飯がたべにくい、口の中でばらけてしまい味わえない。さっき は葛湯と櫻塩煎とを。酒類の飲み物は中毒しないようにだけ気を付けて一日中少しずつ愛飲している。
2017 3/4 184
* 家から市庁舎まで歩き、市庁舎から保谷駅近くの「唐津うどん店」まで歩き、唐津の地酒「太閤」一合で饂飩をすすった。また家まで歩いた。腰が痛かったが、手術以降、今日がいちばん長く歩いたのではないかしらん。
2017 3/10 184
* 日比谷のクラブからの帰宅が十一時半になり、以下の記事は翌日に書いている。
* 昼過ぎに松屋裏のフレンチ「ボン・シャン」へ。アスパラガス、赤と白とのワイン、とろけるような黒毛和牛モモ肉が美味かった。デザートとわたしはエスプレッソ。恰好の午食の店と親しくなって便利重宝。
食後すぐ銀座から竹橋の国立近代美術館へはしり、楽家代々の茶碗展、今日開幕。
何と云っても、初代長次郎と本阿弥光悦が天然・自然に美しい極みの安定した造形で、しかも茶の湯の茶にひたと適当している。茶碗などそんな気で見たこと など無かった妻が、わたしもビックリしたほどそんな初代と光悦との茶碗を立ちつしゃがみつ可能なら四方から、熱心を極めて観ていた。佳いことだった、明ら かに美しい魂にふれていたのであり、たいへん価値ある宝を取り込んでいたのだ。「茶碗」という造形には、他のいかなる工藝に増して不可思議に底知れぬ魅力 が籠もって在る。茶碗は単なる飾り物ではなく「用」を抱えて手近にある。用のママに「用そのもの」が美しい魅力を湛えて底光りがしてくる。「目」の対象で あるばかりかななにより「手・掌」との感触の親和がモノを云う手来るし、そう無くては茶碗が茶碗にならない。茶碗であるかぎりは茶碗の「用」を成し得ずに 歪曲の造形に走ることは出来ない、その点では長次郎や光悦やのんこうの茶碗も楽家歴代々茶碗も、基本形は変えたくても変えられない。しかし、何かしら歴代 々なり独特の楽茶碗を生み出さねばならない。先へ先へ時代がゆくほどもの凄いとまでいえる造形への負荷がかかってくる。当代吉左衛門の茶碗を観てわたしは それを痛感し、痛感に応えての十五台目のいわば闘技に惚れて、躊躇無く第二回の京都美術文化賞に強く推したことであった。妻の当代の茶碗を観ながらのつぶ やきに「オブジェ」の一語もまじったのをわたしは聴いていた。「佳い展覧会を観たわ」とも。それが今日のことであるのをわたしも喜んだ。
すこし落ち着いたら、所蔵の楽茶碗をとりだし手にとって愛しむように観てみたい。
* 竹橋から歌舞伎座へ走り、茜屋珈琲で、忙しい千葉マスターともあれこれ歓談、わたしの「選集」⑱も届いていて、話題はいつも豊富で楽しく。
劇場へ入って、高麗屋夫人とも暫し歓談、筋書きももらって、二列目中央の角席を貰っていて、おかげで舞台もよく見え、目薬で四苦八苦しなくて済んだ。時折、役者の顔が二つに見えたりするのには閉口したが。
開幕は「引窓」 これは情に篤い佳い狂言で、右之助が持ちの難役老母を演じて、そのなさぬ仲の息子南方を幸四郎、はやくに手放していた実の子で力士の濡 髪長五郎を弥十郎、南方の妻に魁春、この四人だけが一つ舞台でしっかり充実して取り組み合う。長い芝居の一幕なのだがここ「引窓」だけで十分芝居が味わえ る。妻は、途中からハンカチでしきりに目をおさえていた。
老女の難役を右之助、つらいながらに懸命に演じて嬉しそうですらあった。妓籍を抜けてきた魁春の女房役はさすがに落ち着いて佳い味わいに優しく。びっく りしたほど弥十郎の濡髪が相撲取りらしく堂々と大きいのが意外な収穫で、主役然と場をしめた。幸四郎の善意の息子役は、ニンにあっていて舞台に大きな落ち 着きを与えていた。
中幕は超短章、女五右衛門(御大・坂田藤十郎)と羽柴筑前(片岡仁左衛門)とが絶景をほこる南禅寺三門の上と下での華麗な見得の達引きだけ。二人がかおを合わせるのは八分間。それでも、けっこうな台の人気役者のお出ましで客は嬉しい。
そして、右団次「口上」付き宗家市川海老蔵が「助六」での大一番。揚巻は襲名した雀右衛門、髯の意休はお定まり貫禄を増して美しくさえなってきた左団 次、白酒売りは菊五郎、かんぺら門兵衛に歌六、五郎十郎母親にはゆったり安定の秀太郎。梅枝の白玉が美しく大きくなってきた。
海老蔵の助六はいかにも元気いっぱいのやんちゃで、「歌舞伎」からさえハミだしそう。
ま、「助六由縁江戸桜」という芝居は、同じ吉原モノでも「籠釣瓶」などの本物超豪奢な歌舞伎劇にくらべると大まかで遊び半分にも傾いた見せ場芝居。ああいう大雑把な海老蔵芝居が結句似合っているのかも。
* はねたあとは帝国ホテルの静かなクラブへ落ち着いて、シャンパンで祝ってもらい、妻の希望で「なだ万」の弁当をとり、わたしは佳いウイスキーを二種類、ダブル・ストレートで。
上がりは此処で贔屓のバニラと抹茶のアイスクリーム。
会員新年度の手続きも終えて、ゆっくりと銀座から地下鉄、池袋から西武で、「タダイマ」と黒いマゴたちに声かけて帰宅。
2017 3/14 184
* 元朝日新聞社におられた、「秦 恒平・湖の本」創刊にはこのうえない恩人の伊藤壮さんから、名酒「越乃寒梅」二升を送ってきて下さった。生ける甲斐ありと、頬がゆるむ。少しずつ少しずつ だよと我が身に誡めながら嬉しがっています。いまは各務原の山中以都子さん、お志の名酒「三千盛」純米の生酒を戴いている。四日か。五日もつかな。少しず つ少しずつだよと我が身を抓っています。
2017 3/15 184
* 神戸市の岡田昌也さん、金の練り物のような「このわた」を五十グラムも送って下さった。冷凍し、よほどの折りに美味い酒と一緒に戴きます。感謝。
2017 3/15 184
* お酒がことに美味しく
さすがの「三千盛」と、嬉しいまま、ついつい呑みすすみますほど。有難う存じます。
今日はたいそう温かで、いまにも花が咲きそうですが、数日後にはまた厳しい寒さが予報されていて、花も戸惑うことでしょう。
まずまず大過なく過ごしていますが、お酒を戴くと暫く寝入ります。すると目がやすまります。お酒がたいへん値打ち物の目薬にもなってくれます。酒飲みの勝手な口実ですがね。
佳いエッセイ集が書けるはずと思うのですが、書きためていますか。見せてください。
ときどきは東京へも出て見えてますか。
日々お大事に。わたしは打ちこんで仕事を続けてまして、飽きません。仕事中は元気です。やすむと疲れます。ヘンでしょう。 ではでは。 湖
☆ Re: お酒がことに美味しく
秦先生 季節限定酒、合格点をいただけてよかったです。
なかなか進みませんが、御批正を仰げるように頑張ります。
白梅の古木に、今年は、例年になくたくさん花が咲きましたので、嬉しくて写真を撮りました。(添付してしまいました)
どうぞ、おすこやかに佳い日々をおすごしくださいませ。 各務原 都
* 豪快に華麗な巨樹白梅満開の写真、堪能した。花、は好き、どんな花も。じつは葉も好き、形の千変万化に感嘆する。
2017 3/17 184
* 金沢の金田小夜子さん、名酒「能登誉」二升下さる。これまた、すこぶる美味いお酒。酔い潰れないように気配りして戴く。
2017 3/19 184
* 歯医者、治療の後、若い女先生と歌舞伎座「助六」などで話がはずんだ。
帰路、久しぶりに新江古田の「リオン」へ寄った。五時半開店の十五分前に入れてもらい、待ちながら、わたしは長谷川泉さん司会の谷崎鼎談を読み、妻は織田一磨論を読んでいた。
ワインをたっぷり、旨い海老の前菜、パン、白い泡を高く立てた熱いエンドウ豆のスーブ、豚のヒレ肉、苺のアイスクリーム、珈琲。満腹。
この店では、簡略にしても前後二時間ちかくはかけての食事になる。この店では、自然といつも夫婦数十年、いやもっと長い歳月の思い出にいろんな花が咲く。人に死なれた話題が増えてきて寂しい。
江古田駅前で、妻は黒いマゴたちのためにチューリップの鉢を買った。電車にも座れて、保谷駅からはタクシーで帰宅。
2017 3/24 184
* 一時には、なにごとも無く、検査結果すべて良好ということで病院を出、処方薬を受け取り、銀座の三笠会館、中華料理「秦准春」で季節のコースを久しぶ りの紹興酒で。まずまずのメニュ、少し酔ったかと危ぶみながら丸ノ内線、西武線、タクシーで一路帰宅、持ち出していた校正もきれいに仕上げていた。
2017 3/27 184
* 京都の「華」さんから抹茶に添えて則克の干菓子を頂戴した。ちいさな甘い干菓子は、茶に合い、また疲れたとき気付けの薬にもなって美味しく、有り難い。有難う。
2017 3/28 184
* 目黒駅でも、駅を出ても、能楽堂へうかと迷いそうなほど、街の顔が変わっていた。しかしよくよく観ていると懐かしい街角や道路や建物も、そのなかに、 東工大を退官の日に学生数人と食事した中華料理の「香港園」もちゃんとあった。日比谷のクラブへまわる気で居たのをやめて香港園へ入った。谷崎論の「夢の 浮橋」「蘆刈」を持って出ていたので、紹興酒などでゆっくり再校ゲラを読んだ。家からそう遠くにいるとは感じなかった。ただ、さほど食は進まず、しかしこ れ以上に呑むと危ないと思い、目黒から池袋経由で帰った。今日もなんども坐席を譲って貰った、よほどひ弱によろけているのだろう。 2017 4/1 185
* 山本道子さんからクッキーの一缶を、中野完二さんから大吟醸銘酒「やまと櫻」を頂戴した。
* 青山墓地で、この何年かつづけてきた妻の実家、保富家の墓参りをした。墓地の櫻並木は花やいではいたが、花曇りの空もよう。
外苑前大通りの大きな喫茶室で休息、レアチーズケーキでお茶を。建日子との待ち合わせ時間をにらんでおいて、わたしは、せっせと校正、妻は上野千鶴子さんにもらった本を読んでいた。
五時前、原宿駅ちかくの中華「南国酒家」で建日子と待ち合わせ、ゆっくり時間を掛けて食事した。母の八十一と父の五年無事経過を祝って銘々に卓要生花を呉れ、料理も紹興酒もご馳走してくれた。ありがとう。
便利な電車乗り場まで連れて行ってくれ、電車一本で保谷まで戻れた。
2017 4/5 185
* 朝一番に、湘南の永田澄雄さん、名酒一升をくださる。
2017 4/7 185
* 橋本静一さん夫妻より、海老、あわびなどのスープを頂戴した、有難う存じます。
2017 4/7 185
* 藤森佐貴子(故。島津忠夫教授長女)さん、珍しい和菓子を下さる。
2017 4/8 185
* ハネ出されて築地の路上へ出ると建日子が待っていた。即、銀座のまた三笠会館へ向かい、イタリアンの階にあがった。出逢いの目的は「源氏物語」本文を 手早くかつ判りよく読み取れる参考書を七、八册手渡してやること、そして先日妻の誕生日に南国酒家で中華料理をご馳走してくれたお返しもしたのである。
妻も建日子もイタリアンのコースを美味いと喜んでくれたが、わたしはパスタの皿も肉の皿もうまく口にあってくれず、お添えモノの初めの軽い二皿と、デ ザートにエスプレッソを賞味した、いやいや妻と私はキールロワイヤルを楽しみ、建日子は葡萄のジュースをお代わりしていた。
銀座で別れてきた。いい日曜だった。ああいう芝居を観てくると、朝日子もいたらいいのにとも思ったが。
2017 4/9 185
* 朝のうちにも名古屋の画廊主、大脇八壽子さんから名古屋市でしか手に入らないらしいいろんな味わいの味噌をたっぷり頂戴した。酒の肴にもなりそう。佳 い手紙も添っていた。むかし村上華岳の観音像を手に入れたので観て下さいと誘われて、京都へ所用の途中下車してみせてもらってきた。以来、三十年にもなろ う、大脇さんも古稀ではないか。どんなに若かった人も確実に年を取るのだなあと天を仰ぐ、自分は棚に上げて。バカみたい。今日も銀座からの帰り、地下鉄へ おりる階段であわや転げ落ちかけて危うく前の建日子に掴んでもらえて助かった。それでいて少年のような気でいるのだ。バカみたい。
2017 4/9 185
* 名古屋の味噌で能登誉をぐいぐい呑む、けっこう。
2017 4/10 185
* 凸版へ「第十九巻」の支払いを済ませてから、ぼんやりと地下鉄で上野へ行き、不忍池の春の風情や上野の街をそぞろ歩いて、馴染みの「天庄」でしっかり 二人で天麩羅を。わたしはビール一本。鴎外「雁」の道を通って東大まで歩いていったが、両脚に強烈な攣縮痛が起き、辛うじてタクシーを拾い池袋西武まで 帰って、座れる西武線で帰ってきた。歩いていて、猛烈な痙攣にほとほと困じたのは三度目かな。この調子では、なかなか歩きに出られないが、歩かないといけ ないのかも知れない。歩かないから脚が弱っているのだろう。これでは、うかと一人旅が出来ない。
2017 4/14 185
* きのう、奈良の西川絹子さんからお手紙と選集へのご支援を戴いた。感謝に堪えません。
また長谷えみ子さんからも、京都宇治からの瀟洒に雅な軽菓をたくさん戴いた。恐れ入ります。源氏物語「浮舟」の歌一首を美しい包装紙に草されてある書 は、まちがいなく懐かしい谷崎松子夫人の筆であろう、初めて戴いた数メートルもの美しい巻紙のお手とまぎれなく一つに見える。
2017 4/16 185
* 妻の従弟の濱敏夫くんから、吉祥の珍しい和風のゼリー菓子をもらった。
2017 4/16 185
☆ 秦恒平先生
ようやく春の訪れを迎えましたが、いかがお過ごしでしょうか。
当地鎌ケ谷市は、隣接の白井市、市川市と併せ日本一の梨の産地で、今真っ白な花が満開です。
この梨でワインが作られています。
秦先生にご笑味頂きたく一本ご送付申しあげました。
少々甘口でデザートワイン向きかも知れません。
気候不順の折柄、お体おいといくださいますようお祈り申し上げます。 篠崎仁
* 嬉しく戴きます。
日本の各地ワイン、すっかり今は念入りに上出来のものが増え、妙味を楽しめるようになっている。
2017 4/19 185
* 夕方、一月ぶりに歯医者へ、二人で。帰りに、江古田の「中華家族」で、わたしはマオタイを。帰りの電車混んでいて、立って帰った。疲れた。一週間後に は「湖の本134」が出来てくる。数量が多いだけ、この発送はひときわ二人とも疲れる。ゆっくり、急がずに送り出すしかない。
2017 4/21 185
* 一仕事終えての今の願いは、美味いなあと思えるモノが食べたい。想いも寄れないのである、なさけない。
2017 4/30 185
* 『清水坂(仮題)』は楽しめる、作者自身には。長々しい作にしないで、語り味を楽しんでいる。慌てまい。
今一つ「信じられない話だが」これまた後白河院絡みの蜘蛛の巣のような現代の物語が書き始めてある。成ればいいが。今いまの思いつきでなく、落想はやき り四半世紀も遡れるが、これも願わくは取材確認の旅へ出たくなる。ああ、その気になれば、ほかにも抱きしめている怖いモノ語りが在るよなあ。唐突だが必要 条件はしっかり栄養を食することだが、色や形や匂い、それに堅さだけで食い気が失せてしまうのではハナシにならない。佳い焼酎に蜂蜜を少量まぜながら、 750mlを二日半で飲み干した。谷崎先生は焼酎三分の一ほど酒をまぜ砂糖を加味して氷で呑むと暑気払いにいいなどと人に手紙を書かれていたが。
食の細ってしまう原因はやはり胃袋の失せたこと、腸がいきなり食道へ繋がれているので、胃で溜めて消化することが出来ず、細い麺類や茸類や堅めのものは常住腸閉塞の危険をともなうので、怖くてついつい美味しい上等食でも咀嚼しにくくてはつい敬遠する。
新茶を戴く季節になった。お茶は嬉しい。和三盆のような口当たりの優しい甘味も好き。酒も甘味も好きなので助かっている。
2017 5/4 186
* 京の、踊りのお師匠はん、電話からすぐさまに縄手「かね正」のお茶漬け鰻一と舟送ってきてくれた。同じ学区内、わたしの育ったあの近在で、「上等」という敬意と憚りとで縁の遠かった老舗「かね正」の名前も忘れていた。おおきに。ご馳走さん。
2017 5/7 186
* ポストへ用を頼まれ、ふつうの自転車で坂道はと、久しぶりに電動車を使った。坂登りもらくで、すこし人や車のすくなめな近在を十 数分走ってきたが、電動車のハンドル幅の狭さが危なっかしく気疲れした。帰ると、頸まわりが凝り歯痛も兆し、疲労困憊して潰れるように三、四時間も寝た。
醒めて食卓で冷えたコーラを口にしたら跳び上がりそうに歯茎が痛んだ、温めた湯や茶やみそ汁で持ち直した。食欲無く、葛湯をつくってもらって、此処へ持ち込んだ。折角「かね正」のお茶漬け鰻へも手が出なかった。
2017 5/7 186
☆ お元気でおすごしでしょうか
いつも本を送って下さって ありがとうございます。
瀬戸内の春の味です 御笑納下さい 姫路夢前窯 原田隆子
* いかなごであろうか「くぎ煮」を頂きました。感謝。
2017 5/9 186
* 昨日今日と意図して酒類を絶っていた。明日もう一日試みてみる。すこしの(とわたしは思っているが)酒で酔いが早く深く永くまわる気配、それをきちっと意識し承知しながら飲むのを喜びたい。よろけて怪我をしたくない。
二日飲まなくても、それが三日でも、それで体調が揺れるということはこれまでも無かった、中毒症状は全然無い。が、飲めば少量で深めに酔うとだけは心得ていたい。概して低めの血圧だったのを
不用意に高くはしたくない。
2017 5/10 186
* 午、四日ぶりに少し日本酒を二勺足らず飲んだ。ぐっすり、寝入った。
2017 5/12 186
* 届くべき必要な物が、容易に届かないのをガマンして、家で待っている。
仕事のやりくり段取りなど、目を行き届かせ、落ちの無いように確認のメモを。
家事とわたしの食事などにはなかなか手が届かないが、生協からの食品等は、冷蔵庫のいろんな棚が満杯なほど収納したが、なにがわたしに使えるか、どう使うかは手探りしかない。
2017 5/17 186
* 四時まで点滴のベッドサイトドでたっぷり校正していた。徹底した絶食。発熱がひかず、赤い顔をしている。会話はできる。明日MRI検査をするという。 頑張って持ち堪えて欲しい、その為にも点滴が効果をあげてほしい。家事その他の頼まれ仕事がいっぱいあるのを一時わたしが帰宅してこなしては、また必要な 物を持参する。個室であり、その点、気分は助かっている。
わたしも食べねばと思うが今朝の生協配達で冷蔵庫は溢れるほどになった。豆腐を食べて欲しいというが、豆腐一丁がガンとして見つからない。
2017 5/17 186
* 自転車前輪のパンクに困ったが、そのまま六時に病院に入り、七時過ぎにはお帰りをの放送で仕方なく帰ってきた。冷蔵庫の底から豆腐一丁をみつけだし、なんとも致し方なく、削り鰹をみつけてぶっかけ醤油味で半丁喰い、半丁残った。腹が冷えそう。
2017 5/17 186
* 小さなパンケーキ一枚温めてシロップを掛けて朝食。三枚用意したが一枚で満腹した。有元さんに戴いた美味しい葡萄一房を少しずつ味わう。妻とも食べたいともう一房を楽しみに待つ。
2017 5/18 186
* 読者の胡子文子さんから涼菓をいただく。いまは何もかもわたしの為に助かる。感謝。妻は当分完全に絶食と点滴。新検査は、明日とか。
2017 5/18 186
* 正午へ三十分前。左頸からうしろ肩へやや硬くなってきている。危険信号、ムリはきかない。
朝、吉備の人お心入れのピオーネが素晴らしく美味く、五顆嘆賞。もう一度戴いてから出掛けよう。
* 自転車屋への日盛りの徒歩がきつかった。ふうふう。自転車が直って空気もシッカリ入っていて実に助かった。
* 妻の様子やや尋常にかえれつつあるかと愁眉をくつろげた。明日検査の行方が平穏であってほしいと祈る思いでいる。テラスのネコたちにも「カーサンを 護ってくれよ」と再々こえをかけ頼んでいる。庭や二階で花への水やりもした。ごもくをどう棄てるのかも知らない。大きな冷蔵庫のドアが締まらないほど満杯 なのら何を食って佳いのかもわからない。食べよたべよと病室で尻をたたかれいろいろ聞いたけれど食欲湧かず、てぢかな甘酒を溶き、苺をあらって四つ食べた だけ。これはブルーチーズかな、大きいなと思った四つのひとつを囓ったが正体不明の別ものだった。食い物を探すだけで腹具合が変になってきた。
真綿で包まれたように疲労が被さってくる。ま、手当たり次第に食えそうな物を食っておく。
2017 5/18 186
* 五時になる、もう一度冷蔵庫を物色してから、また病院へ走る。建日子が見舞いにくるかも知れないとも。昨夜は白い豆腐一丁だけの晩飯だった。なんともつれなかった。
* 六時に病室へ。校正の仕事持参の分を終える。妻の様子はややに改善しているのかも。点滴の効果か、明日はMRI検査。無事を願う。わたしの校正してい る間、妻はうとうとしていたりテレビ見ていたり。個室なので気兼ねはなく、しかしわたしがいるので安心感もあろう、とくべつしゃべりあってもいない。
七時過ぎて建日子が見舞いに来た。見舞いは七時までです追い立てを食った。わたし独りさきに自転車で帰り、追っかけて建日子も帰ってきた。ふたりで珍し く酒を飲んだ。建日子は有元さんのピオーネに驚喜のていであった。九時半まで、父子で歓談、母親の居ない場で二人和やかに酒を酌み交わしての歓談は稀有の 体験、とても喜ばしかった。 2017 5/18 186
* 寝汗をかいていた。適切な食事が選び出せず、台所道具なども昔とちがい成功なのだろうが使いこなせなくて、缶詰も開けられない。ごみの始末も、分別の原則 が掴めていず、ビニールの明き袋も見つけられないが、どうも無いと不便らしい。トースターやチンの類も適正時間がわからず、結局手当たり次第に口にし易い 物でお茶をにごしている。
2017 5/19 186
* 午に帰って食事、これが参る。冷凍されている何かしらを解凍してどうとかと。やってみると、油濃くて肉は硬くて、およそ苦手な雑なもの、処分。ヤクル トを飲み、蜜柑の缶詰をあけ、とろろ芋の冷凍をもどし、卵を割り込んで味だしかけて、喰う。食後に美味いピオーネを数粒食べてからまた病院へ。近くて助か る。
2017 5/19 186
* 近くはあり日に三回も病院と家を往復している。しんしんとも疲労して、今日は午も夕も冷凍食の扱いを失敗して二度とも棄てた。とろろ芋に卵をかけて食 い、あとは菓子と酒。食品の調理説明の字がちいさく読めなくて、二度とも失敗した。色目悪く、見るからしつこそうな雑な煮物は辟易してしまう。ま、すこし ずつ上手になるか。
2017 5/19 186
* さて、トリの唐揚げひとつ温めて。ヤサイジュースとヤクルトを飲んで。また病室へ。別に何も話すのではないが、わたしが部屋にいて校正などしている間、妻は本を読んだり寝入ってたりテレビを観てたりしている。わたしがそばにいて、安心していてくれればそれでいい。
明日も何も無しの休息入院。月曜にまず内視鏡検査から再開。
2017 5/20 186
* こんどは階下へ降りる。昼食は、冷凍の鰻を解凍した。袋ごと熱湯へと聞いて、たしかに袋に入って田ので熱湯へ入れたがどうもヘンだ、よくみると大きい 袋の中に袋入りの鰻が三袋入っていた。外袋から出して、さらに熱した。ま、なんとかかんとか、テレと山椒とで二袋喰った。パイナップルの缶詰を開けた。缶 切りを見つけるのに苦労した。なるほど「学習」いや「自習」である。
2017 5/21 186
* 作家でペン会員の杉本利男さんから花園万頭のぬれ甘納豆を頂戴した。
* 日本酒・焼酎。メイプルシロップの混ぜ呑み、燻蒸したらしい肉片、魚肉片で昼食。
2017 5/22 186
* 家事的には無能な亭主と嗤われている、だろう、が、学習すればなんとか妻も助けてやれるだろう。編集者として雑用のかたまりのような仕事を 独特の工 夫と手練とで人もおどろく能率で年々歳々実績を挙げていった。あの頃の若さも理解力もうせているだろうが、頭が働いていれば自然と覚えるが、今は、ムリ だ。ひとつには辛抱が足りない。三分火に掛ける三分が辛抱しきれない。
* 見かねて、小松の井口哲郎先生、「今朝新聞に、同封のチラシが入っていました。私にできることがないかと思っていた矢先でしたので、秦さん宛てに注文 しておきました。 自分で試さないで、広告だけ観てお送りするのは軽率だったかも知れません」と、お手紙を頂戴した。① 飲むだけで「玄米」と「大豆」の スゴい栄養 ②米ぬか使用だから少量でも栄養たっぷり ③砂糖不使用でやさしい美味しさ と、チラシにある。「とにかく今は、お二人のおからだのことを心 配しています。」と。
御心配かけて恐れ入ります。深く深く御礼申しあげます。
2017 5/22 186
*横綱の相撲三番観て、帰ってきた。高野豆腐というのを煮てみたがサンザンのけっかに終わった。これだからわたしは料理はすぐれた芸術だと讃美するのである。結果的に酒を飲んでの晩食になった。米飯や麺類は胃全摘以降、まったく馴染めない。
2017 5/22 186
* 三時前から六時前まで病室で校正、妻は、つかれたであろう、寝入っていた。大相撲を見終えずに帰路につき、途中一度、危うく転倒しかけて持ち堪えた。自転 車の前輪が道路の何か高い隔てに乗り上げたのだ、夕暮れてもいたし、わたしの目も鳥目のように見えなかった。まずまず無事に帰宅。疲れた。ちっちゃな冷凍 のパンケーキ二枚を温め、シロップでそそくさと喰って夕食。あとは鮭のほぐしで、酒。
2017 5/23 186
* 札幌のmaokatn 熊本から純米大吟醸「瑞鷹」一升を送ってきて下さった。初めて出会う「瑞鷹」、嬉しく戴く。ありがとう存じます。
2017 5/29 186
* 印刷所とのやりとりを重ねるうち、「無事に届いた」と。ああーあ、よかったよかった。
* maokatn に戴いた「瑞鷹」の盃を美味く傾けて、寝よう。
2017 5/29 186
* 前立腺のための処方と次回診察日を決めて貰い、重ねて眼科でも診察日を決めて貰った。幸いにスムーズに決まった。処方薬を院外薬局でうけとり、三笠会 館「榛名」のフレンチをと立ち寄ったが開店に二十分まえだったので、銀座裏をあるいて、何十年も昔を思い出させる懐かしい名前の「煉瓦屋」を見つけた。
冷製のコンソメ、仔牛のビフカツ、オールド・パーを生のままのダブルで頼み、あとで、コーヒーも。持って出ていた『趣向と自然』の校正もたくさん読めた。
病院への往きも、食後の帰りも地下鉄はラクに座れて、ものも読めた。雨の心配もあり、もう疲れていたのでどこへ寄る気もなく一途に帰宅、ただし保谷から タクシーに乗らず、ゆるゆるゆると杖つき背負い鞄で歩いて帰った。むかし家から保谷駅まで普通に歩いて千百歩ほどだったが、今は、千六、七百歩は歩かねば ならないようだ。ま、ドゆっくりでも歩いた方がいいかと。
2017 6/1 187
* 弥栄中学にいら した万年元雄先生から、雅なかぎり彩々のあられを大きな缶にたくさん頂戴した。先生は、いまもお寺のご住職。橋田二朗画伯もご一緒にお三人仲良しであられ たわたしの担任、西池季昭先生は、菅大臣神社のご神職であった。京都やなあ。京都が恋しいほどなつかしい。おととい京都美術文化賞のことしの授賞式であっ た、行きたいと願ってはいたが、妻の入院がかりに無かっても、とても思い立てなかった。よほど臆病になっている。
幸いわたしの厖大量の仕事の少なく見積もっても九割は「京都」に触れて語り尽くしている。谷崎潤一郎が述懐していたとおりに、わたしも「秦 恒平選集」三十三巻ができたあとは、ゆるりと心静かに読み直せる日々をもちたい。
ただし、いま、もう複数の声で、おまえ自身で「秦 恒平論」を仕上げてから死ねと、きつく嗾されている。秦建日子に父・秦 恒平の全作を「解説」する力があるとは思われず、他の誰にも、「小説・創作」「論攷・批評」を綜合して作家世界論の書ける誰ひとりも今は思い浮かばないの だから、と。
そんな必要は、ない。さほども遠くなく、わたしは日本国は文物も自然も猛火に灼かれると感じているのだ。
2017 6/1 187
* 選集二十二巻の校正もずんずん進んでいる。疲れれば横になり、『多情仏心』へ惹き込まれたり、「絵巻」月報を面白く読んだり。酒もワインも。しかし晩の九時以降は飲まないと決めている。
明日もはやく起きて出掛ける。
2017 6/7 187
* 十二時過ぎには処方薬も手に入れたので、松屋の方へまっすぐ歩いて、かつて時間的に一度も入れなかった割烹「左京ひがしやま」という地下の店に降りて みた。京都の匂いがしたので。メニュの佳いのに「松緑」とあったので「音羽屋で頼むよ」と注文したのは通じなかった。酒は京都の「香田」これがすばらしく 美味かった、あぶないかなと思いつつ二度頼んだ。酒にはしごく合う料理が小味に幾品もでて腹張らずけっこうだった。板さんとのハナシもしっくりし、この近 年例のない嵌りようで酒がうまかったた。
どこへ寄る気もなく、銀座一丁目から折良く保谷行き地下鉄でまっすぐ帰ってきた。日なかで車はあるまいと思っていたのも待っていて、らくに帰れた。
2017 6/8 187
* 大冊の「選集二十巻」 妻が荷づくり用意してくれていた分を、一々宛先確認しながら予定の三分の一ほど、荷にした。
大きな荷物で「選集二十三巻」の初校も、ドッカーンと届いていた。「二十二巻」の初校を終えるのにもう数日かかるだろう。「湖の本136」の初校がまだ半ば。
何より新しい創作分の的確な収束にちからを尽くしたい。うのい肴でいい酒に堪能してきて、すこしは機嫌も元気もいい感じ。
2017 6/8 187
* 京都の「華」さん、鶴屋吉信の名だたる名菓や浪速の美味秀逸の昆布など深切に選んで送って戴いた。感謝。錯覚で、若い若い人と思っていても たった二つの高校の後輩、八十に手が届いているはず。わざわざデパートへ出向いていろい選んでもらったと思うと、身内が熱くなる。感謝。
2017 6/12 187
* 松本幸四郎さんから、いつもの美味い蕎麦を戴き、昼、暫くぶりの日本酒で快う味わった。
2017 6/13 187
* 四国の大成繁さん、美味そうに味付けの用意も添えた讃岐うどんを戴いた。
高麗屋のお蕎麦には緑いろも清々しい立派な本山葵が、調味された出汁やきざみ海苔や七味唐辛子もいっしょに、添うていた。今夜建日子が顔をみせるそうだが、どっちに手を出すかな。両方、と云うかな。
2017 6/15 187
* 十一時に床について次々に本を読みはじめ、気づいたら三時。手洗いに立ち、寝入ったはずがふとまた気づいて四時。また本を読み「枕草子」の校正もして、六 時に灯を消したが七時に目ざめた。そのまま起きて、ひとり、美味い昆布や田麩で残っていた半勺ほどのしたみ酒を干した。体重は覿面に減り、血圧は高かっ た。血糖値はほどよく。
2017 6/16 187
* 夕方、暫くぶりの歯医者へ通う。妻が、脂っけの食事を禁じられているので、帰路のフレンチも中華料理も難しい。和食の店を見つけないと。
* やはり「リオン」でフレンチとチリのワイン。しっかり美味しかった。馴染みの店で店からも親切にメニュを按配してくれるし、心底ゆっくり寛いで食べら れ話せて、言うことなし。脂っ気は控えねばならない妻にも相応の料理が出て満足していた。前菜からコーヒー・デザートまで、満足し満腹した。
幸い雨にも降られず、帰りの電車では二人とも席を譲られて、さして疲れずに帰宅。 2017 6/16 187
* 島津忠夫先生のお嬢さんからも、お手紙に添えて、先生の「細雪」遺稿と目に良いというブルーベリー涼菓をたくさん頂戴した。「細雪」の稿はこのまま、井口哲郎さんの青春追憶とともに、「e-文庫・湖(umi)」に頂戴する。
菓子の包み紙が川越市街を特徴的に描いたしっかりした画作になっていて、楽しめる。
* 湖の本を読んで下さっている新座の詩人田中真由子さん、埼玉の銘菓「にいくら」を下さる。
* 村上開新堂さん、お店を代表するクッキー一缶を下さる。
2017 6/17 187
* 作家の小滝英史さんから清酒「八海山・久保田」戴いた。感謝。
2017 6/18 187
* 祇園祭か。縄手の「蛇の目」で鱧を食べたなあ。もうあの店は無い。「千花」でしみじみ飲みたいなあ。あそこで一緒に飲んだ田中勉、もうこの世にいない。鰻の美味い「梅の井」の三好閏三もいない。
友よきみもまた君も逝つたのか
われは月明になにを空嘯(うそぶ)かん
天野悦夫も逝ってしまった。重森ゲーテもいない。
2017 6/18 187
* 体調、かならずしも良くない。全体表に軽微とはいえ違和感がある。血圧が高め、血糖値もいつも正常値であるが漸次高めに推移している。食生活 を、量・質ともわれから抑圧している気味あり、食べるより食べない方へおさまりをつけがちで、しかもすこしずつ雑多な間食、そして酒類。
2017 6/19 187
* 山形あらき蕎麦の芦野又三さん、例年の、「桜桃」で、今日を祝って下さる。桜桃、すこぶる甘し。
2017 6/19 187
* めったになく妻が最後まで元気に帰宅できて良かった。幕間に「吉兆」の食事をお銚子一本そえて楽しんだが、いかんせん三十分間の気せわしさ。あれは勿 体ない。満腹してしまい、日比谷のクラブでまた飲んで食べては身にこたえると、賢く断念して銀座一丁目からまっすぐ帰った。いつねクラブへ寄ってくるのよ り一時間早く帰宅できた。
戴いた桜桃を食べながら、「NCIS」を観てから、郵便物、機械を点検し、床につき読書して、寝た。
2017 6/19 187
* ホッコリしている。桜桃をつまみながら八海山を味わい、酔って居眠りし、目ざめて仕事をし、時を費やしまた同じくり返し。この部屋、冷房しはじめた。
2017 6/20 187
* 「湖の本」を送っている作家の牧南恭子さん、美味い「りんごジュース」二ダース下さる。
2017 6/21 187
* 文化出版局の中野完二さん、名酒「やまと櫻」下さる。
2017 6/24 187
* 十一時には検査を終え、診察室に呼ばれたのが一時四十分。おかげで持参の校正はたっぷり出来た。しょせん二時にいったん閉まる店での昼食は無理と、薬 局で処方薬受け取り終え、日比谷線で銀座へ出、そこでアアっと気付いた。今日は月曜。出光美術館の「等伯と水墨画の風」展は観られない。
シャアない…。
結局行きつけ三笠会館、今日は最上階「大和」で鉄板焼黒毛和牛と貝柱、魚を二種。さ、そんなに食べられるか知らん。ワインは遠慮し「豊醇」とやら生ビールにした。独りの専用テーブルなのを幸い、食い気よりも校正の続きを読みつづけ、望外のハカが行った。
三笠会館を常用するのは、和仏伊中華焼き肉と階が揃っている上に、昼間の閉店時間が無いから。時間外れにいつでも入れる店で、頼りにし易いから。フレンチの「榛名」が一等よく、中華の「秦淮春」は美味い紹興酒を出してくれる。
焼き肉はかなり腹が張った、が、校正しながら、食べきった。美味くてたっぷりのコーヒーをお代わりまでした。そして帰り際、失敬して、だいたい食べた程度を出してきた。
諦めきれず出光美術館まで歩いたが、やはり閉まっていた。
帝劇モールの鰻「きく川」をちょと覗き、なじみの店長と立ち話だけして、そのまま有楽町線で小竹向原乗り換え、西武線の快速でいっそひばりヶ丘まで乗り越し、各駅で一駅の保谷へ戻った。
車中で、少しく。
投げ出して少女の脚は盛んなり白くて太くて老いの目を奪ふ
やかましく静かなふたりの少女ゐて喧しい方の美貌が眩しい
帰ったら茶を点てたいと、保谷駅売店で、いささかお粗末ながら「京」をちらつかせた和菓子を四色買った。
目の前で一台タクシーが行ってしまったし、さすが肉の勢いか元気なので、徒歩で、明いていれば酒だけを少しと寿司店「和可菜」の様子を見にいった。「三 週間の入院」という留守番電話がとても気がかりで案じていた、退院してればいいがと確かめたかったのだ。残念だが、三週間を一日過ぎていたが店は「断り」 の張り紙のまま閉まっていた。胸が痛んだ。
しかたなく、大きな背負い鞄を背負い、手の指に菓子包みをぶらさげ家までしこしこ歩いた。いつになく今日はヘバってしまわず、しっかり歩いた。さすが、黒毛和牛。
* 吉備の人、岡山のすばらしい「マスカット」の大房を留守の家へ届けて下さっていた。二〇〇六年五月十六日にもマスカットを戴き、
掌において身の衰への忘らるるマスカットの碧(あを)の房の豊かさ
と歌っている。
2017 6/26 187
* 「やまと櫻」を飲み干してしまった。
2017 6/27 187
* 出がけに難儀な労作の必要が置き、また力仕事し、痛み止め服し、小雨の中を病院へ出掛けた。十二時には生理検査だけ済ませ、予約時間まで銀座へ出て食 事としてこようとアテにしていたのだが、結局外来で校正をはじめ、人も少なかったためか、一時半には呼び込まれて無事に診察を受けてきた。新しいドクター だったが、几帳面にキチンとした若い人で、安心できた。
腫瘍内科をちょっと覗いてから外の薬局で処方薬を買い取り、車で有楽町駅へ、そして出光美術館まであるいた。「雪舟・等伯、水墨画の流れ」展はまことに けっこうであったが、照明を抑えたほの暗い会場での水墨画はわたしの視力では鑑賞がならず、第一番、玉澗の破墨山水のみごとさだけで満足し、ざあっと会場 を歩んだだけで終えた。とても墨の濃淡の美しさすら見得ないのだった。
その脚で帝劇モールへ降り、一昨日食べられなかった「きく川」で鰻を食べてきた。酒は菊正の正一合を二本目も頼んだが、なんと半分呑み余してきた。呑むのは呑めるが帰路にこたえてはイヤだと自制した。酒を飲み余してきたのはひさしい酒飲み人生で、初めて。
ひところより、あれほど一に好きだった天麩羅へ気が行かず、鰻もイマイチの感じ。一昨日の鉄板焼き黒毛和牛もむしろ貝柱や魚の方が口に合っていた。ほんとうは、今日は、せんだって満足した「左京ひがしやま」で焼いた鱧や「おとし」を注文したかったのだが。結局きまたまた京風味の和食へ落ち着くのかな。妻も、黄疸以降、脂けを禁じられている。脂けが欲しければ先に胆嚢を切れと云われている。
* 幸い西武線へ直通の地下鉄I乗れたので、校正しながら保谷まで帰った。酒が過剰に利いていたのだろう、手指が自儘に動きにくいほど拗くれるように攣っていた。無視して仕事をつづけた。
駅でタクシーが待っていてくれ、助かった。
2017 6/28 187
* 伊藤壮さん「越乃寒梅」二升、橋田有子さん「牛肉の時雨煮いろいろ」、杉田博明さん「京辻利・漬物いろいろ」、織田衛さん「鯛茶漬け沢山」、平野芳信さん「菓子いろいろ」、水口千恵子さん「三輪素麺・メロンゼリー」お送りくださる。
2017 7/1 188
* 同窓、京の横井千恵子さん、京漬物をいろいろ、同じく西村明男くん、両口屋是清の菓子、を下さる。
2017 7/2 188
* 吉備の人有元毅さん、日々老老介護と伺いながらお見舞いも出来ずにいますのに、先日の凛々しいほどの「マスカット」についで、また、みごとに美しい岡山の白桃を六顆も送って下さった。有難う存じます。
2017 7/6 188
* 入院の経過を案じていた寿司の「和可菜」が、夕食後の自転車走で見にゆくと店を開けていて胸を撫で下ろした。久しい馴染みで若い人のつまづきはとても 傷ましく気に掛かっていた。夕食も終えてけっこう呑んでいたので、躊躇いもしたが銚子一本で、中とろ、雲丹、青柳、比目魚を切らせ、一服してきた。帰りの 自転車問題なく、心安んじて帰ってきた。
2017 7/6 188
* 吉備の有元毅さんに戴いた 美しい白桃 勿体ないねと言い言い、教わったとおりの順をふんで、今日、仕事の合いに夫婦して一つずつ食した、その美味かったこと、声をあげた。
* 小松の八代啓子さん、今日、金沢の森八の「葛切り」を送ってきて下さった。これも教えられたままに氷水でよく冷やし、じつに美味い蜜で、二人して戴いた。ウーン、最高!
いながらにこういう美味に出会える老境の幸を喜び合った。
2017 7/7 188
* 発送を終えたので恒例の「和可菜」の寿司をとることにしたが、妻は「脂ッ気」を禁じられて、好きなトロの類が食べられないのは可哀想。わたしは一頃よりも刺身の味が分かりにくくなっているが、美味い太巻きが好き。
なにしろ食べ損じると腸閉塞が襲ってくる。なにより怖いのがツイ呑み込んでしまいがちな麺類。太い讃岐うどんなどは咀嚼しやすいが、大好きだった素麺などはアブナい。胃袋という中継の咀嚼きのうが無いのだから、何を食べるにも細い腸との相談になる。胆嚢も無くなっているので、中トロも大トロもいくらも雲丹も食べられる。
2017 7/10 188
* 歯医者の帰り、江古田和食の店「笑雲」でわたしは蟹を割ってもらい、妻は、鮎の塩焼や生海老や鰹の刺身や茄子のしぎ焼きなどをせっせと食べていた。
階下の馴染みのバーでわたしはウオツカを二杯も妻はいい赤ワインで、顔なじみの相客と愉しくいろいろ話し込んできた。ほどよく、店を出てすんなり帰宅。留守に、金沢の金田小夜子さんの宅急便が来ていたと。
2017 7/14 188
* 石神井の、元・岩波「世界」の高本邦彦さん、夕張の、西瓜の小玉ほど立派なメロン二顆下さる。抗癌剤でぼろほろになった歯は、堅いものを噛むちからを喪っているので、ことに炎暑下の果物は貴重な食べ物になっている。有難う存じます。
金沢の金田小夜子さん、香ばしいお漬け物を選んで頂いた。感謝します。
2017 7/15 188
* ちいさなカステラ一枚だけ、ちいさな人参ジュースと野菜ジュースとをミックスしての朝食後、左頸の根が固まり、酔ったようによろよろ、ぼうッとしてきた。よろよろ。ぼおッは胃全摘後五年半の常習できていて残念ながら驚けないが、けさのは急で、ひどい感じ。食後の血糖値は順当に上がっていたので低血糖ではない。低血糖時の症状ともちがうので、念のため血圧を測るとなんと高い方で「86」という低さに仰天した。このところむしろ血圧が高めと用心していたのに、かつてない低血圧、これでフラフラよろよろは当然。降圧剤はもっているが昇圧の手当はしたことがない。ともあれ水分を十分補給しただけで、ぶっつぶれるように床に就いた。
夢は見ていたが、午後二時過ぎまでよく寝入ったと思う。血圧は辛うじて129へ戻っていた。最近こそともかく、以前は日常低めの血圧だった。フラフラ、よろよろの原因は低すぎるないし低めに過ぎた血圧ゆえと思い当たる。ま、何故そうかにもやや思い当たるところは、ある。
目を酷使し寝は足りず運動の超不足という日常が宜しくないのだ。やれやれ。
* 昨日戴いた金沢からの珍味のうち、烏賊の巻き寿司を賢明にこりこり噛んで美味しく食した。酒にも絶好、なるほど「鮓」だと、嬉しかった。
* 電話をくれていた古門前の大益からの「帝国ホテル」スープ 缶の詰め合わせ到来。感謝。
2017 7/16 188
* 九時少しまえ。家では九時以後は呑まないと決め、ほぼ守っている。ちょっと降りてこよう。
2017 7/16 188
* お酒を切らしたのを機に、美味い日本茶を愛飲している。佳いお茶をたくさん戴いていて、最良の味わいを有り難く贅沢に楽しめる。
2017 7/19 188
* 国文学の島津忠夫さんのご遺族から、また歌人の坂森郁代さんからも、お心入れ美味そうな夏菓子を頂戴。ご馳走さま。
いま、四国今治の木村年孝さんから、夏栽培の甘いお蜜柑を二十四顆も頂戴した。よく冷やして食べると佳い味わいと香り。有難う存じます。
2017 7/20 188
* ごく僅かな朝食のあと、ガマン成らず睡く、潰れたように二時間ほど寝ていた。それでも夢は見る。それも突然に父方とおぼしいしかも若々しい何人かが、この我が家の居間の窓まで連れて来て「恒平ちゃん」と呼んだ。窓を開けると、若々しい元気な女性の一人が、(いちばん年若かった叔母かと想われたが、)窓の内へ手を伸ばし、笑い声とともに洋酒とも中国酒ともみえる瓶を一つ手渡してくれ、そして、水が流れ去るようにみな消え去っていった。「だるま」と呼び慣れているウイスキーの瓶に重さも似ていた。わたし自身もせいぜい二十代の若さで、まぢかに妻もいっしょだった。身を揉むように目ざめた。十時半。
玄関へ荷が届いた。
「湖の本」創刊の一の恩人である元朝日新聞社の伊藤壮さんの頂戴もので、大好きな、素晴らしい山梨の桃、 たくさん。やや柔らいでから、よっく冷やして食するようにと。嬉しい。
* とにかく食が薄い。食べたいよりも食べたくないという細い食生活では、夏のうちに弱ってしまうと思いつつも。よく冷えた桃や蜜柑や桜桃などが、美味い。幸いにわたしは甘味も酒も好きな昔から二刀流で、熱量はそれで摂っているが、それでは栄養失調になると自覚もしている。妻が脂肪を厳禁されているので、わたしも倣いぎみにしている。昔は好物の一位だった天麩羅が病後いっこう美味しくなくなり、ガッカリ。肉類も焼魚もつい敬遠してしまう。煮た魚は子供の頃から苦手だった。野菜も大の苦手で、胡瓜もみやキャベツばかり好んだ。今は、冷えた野菜ジュースを好み、薬だと思って青汁はせいぜい飲んでいる。
食生活を大いに沈滞させている元兇は、抗癌剤でボロボロになってしまった「歯」であろう、噛む力が萎え、すこし硬いものも容易に食せない。好きだった貝類が、牡蛎のほかほとんど噛めず、肉類もしかり。じつは漬け物、葉ものも意外に硬く、咀嚼しきれない。
一等いけないのは、食べると腹が張る、というより兆してくる腸閉感。閉塞しては激しい苦痛になるが、食べた物が食道や腸で停滞すると不快感はしつこい。緩下剤などいろいろに対処してし腸閉はいずれ排ガスや排便で脱するにしても、食欲は投げ出したくなる。「食べたい」「美味い」という最大の欲求や喜びを投げ出したくなる。
* こういう体調に低迷していても、幸いわたしは頑張って生きていられる。
やす香が可哀想でならなかった。海老蔵夫人も可哀想でならなかった。心から惜しんで見送った人、何人もいた。癌もこわいが抗癌剤もこわい。しかし、わたしはガンとして抗癌剤を受け入れて耐え抜いた。それでよかったのだと、今も、思っている。
いま、心を励ましてくれる「仕事」とそれを続けて行きたい「気力」等をもてているのを、幸せに思う。
なによりは病気しないで済むことだ。
2017 7/28 188
* 昼過ぎ、かなり暑い。
花火の浅草へ 往復よほどシッカリしていないと夫婦して凹むかも。克服してくれば、次のステップ、短い旅への自信になる。
* 生憎の小雨になったが、ごろごろ会館前でタクシーをおり、浅草寺の大賑わいの中をゆらゆらゆらと散策、大きなホテルの上の階の食堂街で、海鮮和食で軽く夕食した。酒は避けた。ビールが冷えて美味かった。妻が脂っけを禁じられているので、好きな米久でのすきやきは諦めていた。この食道街、また来ても佳いなと思った。
六時半に、招かれている先へ、着。雨になっていた。様子を見て待つべく、太左衛さんの案内で近くの店でお茶を呑んだ。花火強行とわかり、雨の屋上は避けましょうと太左衛さん(弟・望月太左衛門、望月朴清)のお姉さんの私室へ通してもらい、窓際から真正面の花火をタンノウした。お喋りは女性がたにまかせ、わたしは一時間半、じいッと花火に吸い込まれていた。有り難かった。
やす香の告別式のばん、わたしたち祖母夫婦は、来会を硬く拒まれていた。わたしは太左衛さんの花火の招きに応じて、天上したやす香といっしょに夜空をみあげながらやす香と語り続けていた。太左衛さんは、静かによくいたわってくれた。忘れない。
おじいやんと呼びて見上げて腕組みて
はげましくれし幼なやす香ぞ
2017 7/29 188
* かんたんな昼食時に、生協からとどいた「純米」四号瓶の少し口を開けただけで、潰れるように二時間の余も寝ていた。
2017 8/2 189
* 島津忠夫さんのご遺族からカステラを頂戴した。
2017 8/7 189
* 俵屋吉富の、干琥珀がきらめく京菓子「貴船の彩」 笹屋伊織の青竹に包んだ涼しい「くづ切り」をたくさん戴いた。糖分には力づけられます。五条の陶 器祭り、地獄の釜の蓋が開くという六道珍皇寺のもの恐ろしい参拝。まこと、さもあらんと幼少を思い出す。ああ「清水坂」に命と思いを託した昔人たちが、北 僻のあのねぶた繪のように甦る。
* むかし朝日新聞社におられ「湖の本」創刊を絶大にたすけて戴いた伊藤壮さん、山梨の名菓「白桃」をたくさん下さった。真夏絶好の冷菓。有難う存じます。
平家学者で神戸大名誉教授の信太周さん、「稲庭饂飩」を大きな一箱で下さった。おそれ入ります。
2017 8/10 189
* むかし朝日新聞社におられ「湖の本」創刊を絶大にたすけて戴いた伊藤壮さん、山梨の名菓「白桃」をたくさん下さった。真夏絶好の冷菓。有難う存じます。
平家学者で神戸大名誉教授の信太周さん、「稲庭饂飩」を大きな一箱で下さった。おそれ入ります。
2017 8/10 189
☆ 選集第21巻
ありがとうございました。
新作の小説「黒谷」「女坂」は、どうしても拝読致したく 家内の応援を得ながら読ませていただきました。新しい形の小説と存じました。
選集では「谷崎の歌」をゆっくり読んでいます。潤一郎家集ご刊行のころが懐かしく思い出されます。
台風5号 ノロノロと我が家の上空を通り抜けて行きまして、また暑い日が続きそうです。くれぐれもお大切にお過ごしください。 和歌山・貴志川 朱心書肆主人
些少、同封致しました。お納めください。
* 感謝。お目をお大事になさってください。同齢、相憐れみながら、こつこつと気強く生きて行きましょう。
2017 8/10 189
* 朝一番に国分寺市の写真家近藤聡さん、地元のみごとな大房の種なし葡萄「藤みのり」を送って下さる。天与の美味。
2017 8/12 189
☆ 鎌ヶ谷の梨
秦 先生
猛暑がぶり返してきました。如何お過ごしでしょうか。
鎌ケ谷市名産の梨を少々ご送付申しあげました。当市は、周辺の白井市、市川市などと併せて日本一の産地です。
収穫時期を農家に任せておりますので、発送は15日前後になります。
銘柄は幸水です。これから豊水、かおり、新高などの銘柄が続きますが、私は幸水が一番好きです。今年は出来がいい由ですが、私もまだ食しておりません。
御笑味いただけましたらさいわいです。
p.s.月下美人が咲きました。昨夜20時に開花、今朝はすっかり萎んでしまいました。 篠崎仁
* 梨というと、清少納言と紫式部を思い出します。この張り合っていたような二人は、同時代にごく珍しく梨の花を賞めていました。大陸の好尚を受け入れていたか、目に見えない感性の同調が有ったのかと。いましも、この二人を軸に「選集」第二十四巻を編んでいた最中でした。
よく冷えて佳い水分をたっぷり含んだ梨の歯触り、気持ちいいですね、夏から初秋への天恵で、子供の頃から大好きです。
有難うございます。お大事に、お過ごし下さい。
2017 8/13 189
* 吉備の人有元さん すこぶる美味の近江鮒鮓をたっぷり下さる。早速に一献、まことに美味し。
2017 8/14 189
* 終日、歌集の組みを工夫し再編していた。わたしの文藝で、短歌等は、小説や論攷やエッセイと対峙して動かない創作世界。選集には、いい感じでぜひ入れたい。散文のように或る程度機械的に割り付けできない、やはり少し贅沢に余白をもって掲示したいと苦心している。
おかげで目はカサカサに乾いてしかも視野は濡れたように霞んでいる。もうすぐ十時。
感心に、九時過ぎると酒は呑まない。ものもあまり食べない。ついつい食べないで済まそうと思うのだ、あの食いしん坊だったわたしが。腹にたまるのが辛い。二度も入院した腸閉塞を三度もやりたくない。結局は酒、ワイン、ビールに頼り、酒の肴と果物で食事している。
2017 8/20 189
* 関根正雄訳『出エジプト記』に引きずり込まれてもいる。実の父が遺してくれた『新約・旧約聖書』全一冊で長期間かけて全部を通読したときより、さすが に岩波文庫一冊でしかも平易な現代語になっているので、すくなくも前半は神話というより物語を読む感じ。加えてチャールトン・ヘストンがモーセを演じた映 画『十戒』の記憶がありありとある。それが、いくらかは邪魔でもあり助けにもなっている。
『創世記』も同じ岩波文庫に成っていて、『ヨブ記』とともに買ってある。
岩波文庫の新版『源氏物語』をアタマから読み進んでいて、小学館版の全集本で「宇治十帖」をゆっくり夢の浮橋」へ近づいている。「絵巻」月報は全三十六册ほどのちょうど半分を楽しんで、当分続く。
いま「湖の本」の校正からは手が離れているが、「選集」第二十三巻の最終稿を毎日読んでまだ四分の一ほど。新しい巻の編成で、入稿前原稿を仔細に検討もしていて、根気が要り、芯が疲れる。
食べて楽しもうという欲が失せ、自然 酒を生なりで飲んでいる、いろんな酒を。最近では岡山の「喜平」が近江の「鮒鮓」を肴に数日堪能した。いま、貴重品の「粒雲丹」を戴いているので、生協から酒の配給を待っている。
ほんとうは、京都へ行きたい。宿が取れないなら、晴れた日に富士山を眺めに行くか、温泉へ行きたい。
* 九時を回ったのでもう今晩は呑めない。そう決めている。
2017 8/22 189
* 生協から長野産「神渡(みわたり)」という美味い生搾り純米酒の小瓶が届いたので、得たりかしこしと、神戸の岡田昌也さんに戴いた特製の「粒雲丹」を、チッ、チッと箸の先でつつきながら、瓶に半分ほど機嫌良く堪能した。雲丹も酒も、とびきり美味い。
秦の父、育ての父は、梅干しが代の苦手はともあれ、酒は匂いでもいけなかった。ようあれで若いとき御茶屋の台所で皿ねぶりなど出来たもんだと思うが、わ たしは中学生のおり秦の叔母につれられ琵琶湖畔唐崎での「園遊会」へ連れて行かれたとき、「お酒」の美味いのを覚えた。会社勤めをやめて出るまで酒の飲め る機は無かった、が、やめたあとは出版社・編集者の接待でまことによく飲んでまわった。秦さんはいくら飲ませても酔ってくれなくて困るとボヤかれたりし た。たいがいお相手してくれる方が先にノビていた。
最近は、量を厳格に抑え、日に二合以上は、夜の九時以降も、控えている。しかし二合の酒などすぐ失せる。「こなから(一生の四分の一、二合半)」と行き たいが、ま、四合瓶なら二日もたせるとこころがけている。セチがらい酒になったと嘆かわしいが、過ぎると、血圧が急降下か急上昇かして危ない。
2017 8/23 189
* 清酒「神渡」で、戴いた「粒雲丹」をあれあれという間に賞味し終えた、酒肴の妙、感謝感謝。
2017 8/24 189
* 暑い盛りに二人で出て、銀行から「凸版印刷」と染五郎の「そめいろ」とへ支払いを済ませた。その足で歯医者へ。幸い降られずに済んだ。帰り久しぶり「中華家族」へ寄り、脂けの生けない妻は冷やし中華と小さな生ビール、わたしは酢豚とマオタイをダブルで二杯。帰りに花を買い、ゆっくり帰宅。頸に、氷水で冷やした粋な頸巻きを巻いて行ったのが、効いた。
* これで、次の外出は、三十一日真昼間に聖路加病院へ。ふーッと溜息。涼しーいところ、無いものか。
2017 8/25 189
* 小雨の中、聖路加で診察を受けてきた。きまりの処方薬をもらい、また三ヶ月後を予約。
* 薬局で処方薬を受け取ったあと疲労感がつよかったので、築地で簡易な喫茶店で強いコーヒー
を飲んだ。不思議とコーヒーはわずかでも活力を呉れる。「NCIS」のボスも天才検査官のアビーもしょっちゅう強そうな大量そうなコーヒー・カップを手放さない。
昼食は、食べ物よりも美味いワインをのみ、あとエスプレッソをお代わりした。往きも帰りも車内で校正。これが、なんとも懐かしい、連載していたのは三十七、八歳頃のエッセイだった。
想い出すとクスッと来るが、医学書院勤務の頃の私家版の小説を読んで声援して下さった医学教授や病院長先生らは、異口同音、「八十の人が書いたような文章だね」と。
作家になり、小説の他にすぐさまエッセイも次々連載した、「花と風」「手さぐり日本」「女文化の終焉」「趣向と自然」など、みな四十前の仕事で、やはり「八十の人が書いたような文章」だった。いやもっと踏み込んで然様であったろう、よかれあしかれ同時期・同時代の作家・批評家に類をみなかった。世は、まだまだ身辺雑記・私小説ふうの時代だった。つまり、はなから、わたしは「騒壇餘人」へはみ出ていた。評価してくださる、作家・批評家と限らない各界大先達の諸先生がつぎつぎ亡くなってゆかれ、わたしは「湖の本」という赤坂・千早城に躊躇いなく立て籠もった。それも決して孤立無援ではなかったから、三十余年なお継続して、第百三十七巻の初校が今日家に届いている。ま、程なく湊川で討死にするだろうが、誰への忠義立てか。当然、「文学」にである。わたしは生涯バカ正直な「文学少年」で終わるだろう。
2017 8/31 189
* 金沢の金田小夜子さんが名付けたと聞いているみごとな葡萄「ルビー・ロマン」一房を頂戴した。
2017 9/2 190
* 橋本孝さんに戴いた、巣のままの蜂蜜、美味い。金田小夜子さんに戴いた、見事な大粒の葡萄「ルビー・ロマン」も最高だった。元気になりたい。
2017 9/4 190
* 湖の本136 発送を、まず、終えた。
かなり暑いが、寛いだ気分で歌舞伎座へ出掛けたい。
* 千葉さんがやっていた茜屋珈琲店の無いのがとても情けなく寂しい。
* 歌舞伎は九時すぎにはね、急いで日比谷のクラブへかけつけ、妻はなだ万の弁当を、わたしはウイスキー、ブランデーをストレートで、そしてクラブならではのアイスクリームを。ほぼ時間いっぱい寛いで、保谷駅へついたら雨。タクシーを待って零時に帰宅。
* 芝居のことなどは、みな、明日にする。ゆっくり休む。 2017 9/11 190
* クラブでは、久々にウイスキー、ブランデーをそのまま堪能してきた。脂味を禁じられている妻のなだ万から、頗る美味い牛肉だけを巻き上げたのが酒ともあいケッコウであった。
電車ではみな、席も譲られて、らくに往復、車中の校正もハカが行ったのは有り難かった。保谷駅でつよい雨になり、タクシーに七八人並んで待ったのもわりと早くに来てくれた。家では、ネコやノコや黒いマゴたちが賢く留守番してくれていた。
疲れもあり、リーゼを服して床に就いた。
2017 9/12 190
* 妻の若い従弟濱敏夫くんから月兎を想わせる、祇園町南の銘菓を頂戴した。美味い。 2017 9/15 190
* 山形村山市あらきそばの芦野又三さん、妻の従弟の濱靖夫さん、濱敏夫さん、昭和女子大日本文学科、川村学園女子大図書館、多摩美大図書館からも「湖の本」受領の挨拶が来ていた。
* 弥栄中学時代の佐々木(水谷)葉子先生、御電話に次いでお手紙とお住まい宇治の銘茶を下さった。
2017 9/16 190
* 都澤さんから葡萄を たくさん戴いた。
京都の澤田文子さんには、菩提寺常林寺の資料や月見趣向の和三盆を頂いた。
2017 9/20 190
* 会社勤務の頃の後輩、のちに米沢短大学長の、仙台在住遠藤恵子さん、三つ重ねに美しい色とりどりの蒲鉾をたくさん送って下さる。酒にも合うて有り難く、栄養も。感謝。 2017 9/21 190
* 神戸の岡田昌也さん、美味しい粒雲丹についで、大粒の翠美しい「かぼす」を二段詰め数十顆も下さった。ビタミンCをたっぷり補い、汁ものなどが美味しく戴けそう、深く感謝。
2017 9/23 190
* 晩がた、京都の「華」さん、東山安井「柏屋光貞」の京菓子「おおきに」を抹茶に添えて送って来てくれた。なんと懐かしくて美味しいか。安井は祇園の南 寄り、建仁寺の東、絵馬のおもしろい安井金比羅宮がある。「おおきに」とはおかしな名付けと思われるかしれないが、祇園の舞子藝妓たちは日ごろから「お互 いに 思いやり 気をつけ合うて にっこりと」と躾けられ、「おおきに」を、欠かさぬ口ごとにしている。わたしがきっと懐かしがるとよく察して選んで、こ の日ごろ草臥れきったわたしに送ってきて呉れたのだ、「おおきに」ありがとう。
先日は、大学で妻と同期の友達が、「京便り」のいろんなパンフなどをやはり好きな和三盆を添えて送ってきてくれた。
みなが、元気で元気で長生きしてくれますように。
わたしは独りの孤りっ子で育ったので、根が、すこぶる人懐かしいタチなのである、根の哀しみを琴線に晒して暮らしてきたと思う。
2017 9/23 190
* 鏡花の「高野聖」を読み進み、薫中納言と宇治中君とのフクザツな仲らいをともに歎くほどに読み進み、音頭口説が語りつ唄いつ「明石の殿さん」の極悪非 道に呆れ果て、枕草子を語り、足利義満と世阿弥とを語り、はては「酒が好き花が好き」を拾い読んでも今日一日を過ごした。世界も日本も政治はあまりに醜 く、見向くのも辛い。
山科の詩人あきとし・じゅんさんに、焼いた山女魚を戴いたのを、教わったとおりさらに焼き温めて竹筒に入れ、熱燗の酒を一合もそそいで、香ばしく飲み干した。美味い茶を淹れて甘い小粒な京菓子を楽しんだ。佳い一日であったのだ。
早稲田の文芸科を二年間手伝ったときの学生、小説を書かせて読んで、「作家になれる、なりなさい」と背を押した角田光代が「源氏物語」を現代語訳し始めたとも、今日知った。しっかり完成するように。
2017 9/23 190
* しら玉の坏(つき)になごりの酒くみて思ひのたけのかぐやひめこそ
月見れば千世の八千世も想はるるあなかぐやひめ来ませわが家に
* 焼き山女魚の竹筒に熱燗酒をそそいで、白玉の坏(つき)でしみじみ秋を迎えている。
2017 9/24 190
* 今日出かけなくて済んだのは、ほっこりと有り難い。なにとなく、いま、わたしはなかぞらに浮游の気味で頼りない。
しかし『参考源平盛衰記』第四十ないし四十六巻から多くの欲しかった知見が得られた。昔の袖珍版和綴じ和紙本はなんと軽くて柔らかいか、老人が寝ころがって読み進むのにほんとうに助かった。
『音頭口説集成』は大判で堅牢な製本で重い。しかしなかを読むのは至極く面白い。松園さんに「少女深雪」と題したそれは美しい繪があり、「朝顔日記」ヒ ロインとは知っていたけれどそんな芝居もしらねばそんな本も読んだことがなかったのに、「口説き」にはちゃんと載っていて、ゆっと話の筋が読み取れたのも 有り難かった。なにしろ七七七五調で口説いて行くからどう長かろうとどんどん読まされる。大冊の二册、みな読んでしまいそうだ。参勤交代の道中で三人は斬 り捨て御免を公儀にねだって聴許されていたと謂う「明石の殿さん」というのはひどいヤツであった、あちこちで怨嗟の音頭口説きにされている。
十巻選集版の泉鏡花本は四六版情勢ながら軽く造られていて、いまは『高野聖』を楽しんでいる。深い山道をゆく聖のしもとをしきりに蛇が出て悩ますのが叶わないが。やがては山蛭が雪のように笠へ降り次ぐであろう。
宇治十帖はやがて浮舟登場の「東屋」巻へ到着する。新岩波文庫版の第二巻到来が待ち遠しい。
* 校正も含め、こういうアタマの交通整理をしながら、何かしら凝集してゆく創作世界をと企劃も詩期待もしている。もう無駄足をしている余力がない。だか らこそ仕事以外にはひたすら楽しいことが有って欲しいのだ。楽しいなかに食事という養分が外れてしまい大いに寂しいが、喰うと心・身が疲れてしまう。機械 で遊ぶ気になどなれない。せめて空いた電車でのんびり遠回りしてきたいと思うが、億劫の虫がすぐ鳴き出す。バカみたい。明後日の糖尿診察日、淺井忠展など どうか。しばらく前になるが出光美術館のいい展示なのに、会場のくらさ、弱い視力で水墨画たちがよく見えなくてガッカリした。
久しぶりに東博の本館、東洋感じゆるゆる回るなども。しかし、あの馴染み深い鶯谷駅前の蕎麦「公望莊」がこの前取り壊していた。あの店では何十年、よく酒を飲んだがなあ。
2017 9/25 190
* 内分泌・代謝(糖尿)の診察、検査の諸データ良好と。慢性的な微症状を、愁訴はしないで帰ってきた。
九時前のバスに乗って病院まで、診察を終えて薬局で処方薬を受け取るまで、タクシーで松屋脇まで行き、京風の和食の店へ入りかけてやめるまで、全身に力無くてひ弱い心地だったので、思い切って濃厚なご馳走にしようとフレンチの「ボン・シャン」へまた入った。
南米からの赤ワインが素晴らしかった、たっぷり杯を重ねた。妻の要心につきあいつねは脂けは食べないが、独りなので、前菜に濃厚なフォアグラの料理をえ らび、美味しく堪能した。脂のすくない最良のステーキをと註文して、しっかり食べた。デザートも、いつもの好きな濃い珈琲(名前がどうしても出てこない、 四音ち思うが。こういうこと、近来稀ならず、仕方ないと諦めている。)もすてきにうまかった。満腹した。ワインの教会の会長さんである喜壽まえの店主が終 始話し相手をしてくれる。
2017 9/27 190
* 橋本静一さん夫妻からも、すばらしいピオーネを三房も頂戴した。感謝。
2017 9/27 190
* むかし朝日の伊藤壮さん、名酒「越乃寒梅」二升下さる。ありがたく、感激。妻に食べ物で苦労ばかりかけているが、酒類はことに身に沁みて入る。量も過 ぎないよう、夜も九時以降は呑まないでいるが、昔より少量でも酔いがはやく深いかも。おかげでからだに熱量、美味しく入っている。
2017 9/28 190
* 西武まで戻り、八階に店をだした京都の「美濃吉」で菜食ふうの割烹料理、純米の浦霞を美味しく重ねてきた。
2017 9/29 190
☆ 急に秋めいてまいりましたが
いかが お過ごしでいらっしゃいますか
夏の間 作っておりました杏のお菓子が 今日までですので もう一度お目にかけたくおくらせていただきます
以前お目にかけました『村上開新堂』の続篇の仕上げにかかっております。
母のこと 私のことが中心で 只事を並べたようになるのではと気に懸かりますが 出来ましたら 送らせていただきます 道子 開新堂社主
* いつも戴くまことに美味しい特製の杏菓子の包みを、心嬉しく開いた。見た目も美しく。感謝。
2017 10/2 191
* 吉田万由美(宗由)さん、目に優しいというブルベリージャム、透明ですこぶる美味なみかん蜂蜜を各二瓶下さる。
佐藤宏子さん、ご支援頂く。
東川光夫さん、谷地快一さん、東京都中央図書館、三田文学編集室、受領の挨拶があった。
2017 10/4 191
* 東淳子さん、新刊の歌集を頂戴した。堅固に慥かな批評の歌ではじめられてある、丁寧に読みたい。
文化出版局の中野完二さんも銘酒「やまと櫻」を下さる。
2017 10/7 191
* 野澤利江さん、選り抜き無垢純米の名酒二種、送ってきて下さる。
せめて、この日ごろ、こころよく酔いたい。感謝。
2017 10/8 191
* 朝一番に 吉備の有元毅さんからめのさめるように美しい立派なピオーネとマスカットの大房を頂戴した。見映えだけでなく堪らない美味さについ手が出てしまうのを夫婦して有り難く自制し、戸棚に仕舞った。
奥さん緊急のご入院と聞いている中で、名酒「磐雄町」についで岡山のすばらしい名菓までも頂戴、恐縮も恐縮、感謝に堪えません。有り難うございます。
ご容態好転回復され、平安なご退院を切に切に念じ居ります。
2017 10/14 191
* むかしNHKブックス二册「梁塵秘抄」「閑吟集」の刊行をたすけて貰った編集役の安田鏡子さんから、わたしの体調を気づかいながら食事並みにもと選ん でいただいたお菓子をどっさり頂戴した。美術館の学芸員である夫君の抗癌剤服用も通過され、腸閉に気づかいながら日ごろの食事にいろいろ苦心されている様 子、堅固なご回復をと祈ります。甘味、選んで下さり有り難う存じます。
わたしは、よほどの左党(お酒)なのに、幼来甘いのにも目のない方で、今も、疲れると甘いモノはとその辺を物色し、眞夜中にも、枕元に用意の生砂糖を掌にポッチリ嘗めたりする。低血糖への要心とは、ま、口実の、根が戦時育ちで甘みに飢えていた「砂糖」好きなのです。
* 只今、 井口哲郎さんからの贈り物がとどいた。有り難し。戴きたいなと願っていた「印」 それも私のひそかに自身に思い宛ててきた「樂此不疲」の四字朱印。それに加え添えて加賀白山鶴来の名酒「萬歳楽」を一升。ウーン。嬉しい。
2017 10/14 191
* 村上開新堂さんから、いつものように、缶にびっしり、それは丁寧に詰め合わせた多種類たくさんな香ばしいクッキーを頂戴した。感謝。
2017 10/15 191
* 聖路加病院へ。
* 十時半には血液検査を終えていたが、診察は午後二時前まで待たされた。検査結果や診察上状態は文句もなく上乗で不安無しと。それはけっこうであった が。たいして用もない安定剤のために薬局でまち、空腹の充たしようを思案しつつぶらぶらと銀座まで歩いて思案付かず有楽町でも思案付かず、有楽町線で池袋 下車、西武の京都名店展へ上がったが雑踏に辟易、結局八階の伊勢長で鰻にした。
2017 10/20 191
* 永田さんから、シーバス・リーガルとオールド・パーをボトルひとつずつ頂戴していた。久しぶりの洋酒で嬉しい。おそれいります。
2017 10/20 191
* 四国の大成繁さん、冷凍された蕎麦を下さった。有り難く。しばらく私の主食になる。
2017 10/21 191
* わたしは点滴でしのぐわけに行かない、なにかをマトモに喰わねばいけない、それがナカナカ。
今は買い置きの食パン一枚を鞄に、白砂糖を詰め物に容れてももち、また茹でてあった枝豆を小さなタッパウェアに容れてもち、ビスケットやキャラメルを少し掴んではポケットに突っ込んでいる。雨中、自転車の往来なので、酒は抑えている。天気だけでも早く回復して欲しい、妻の容態はいまぶん何にもわたしには分からない。
2017 10/22 191
* 留守中に、写真家の近藤聡さんから、東村山の高級な大吟醸酒を頂戴していた。
2017 10/22 191
* 九時半、雨なく強風のなかを病院へ走る。十時前、エコー検査。
検査ばかりしているが、執拗な腹痛と便秘は改善されず、ベッドの上で気儘な身動きもならず、軽熱あり、気力を欠いている。
鏡花の「風流線」を音読してやる間は聴いている。妻も鏡花が好き。
建日子が昼頃来てくれたので、病状等を伝え。医師が来たらしかとした改善を要望せよと言い置いて、いったん帰宅。建日子持参のパンを食べ、(朝も似たよ うなパンを病院売店で買って食べ、)洗濯物の処置や、故紙や、瓶缶や、生ごみや紙屑の処理などに右往左往してたいして片づかぬまま二階へ来た。
2017 10/23 191
* 十時過ぎた。今夜は、出来るだけの仕事をし続けて、疲れ寝したい。明日朝は一番に大変な重さの故紙を回収に出し、ヤクルトを受け取り、生協の買い物を受け取らねばならない。昼前には建日子が来るといっているが。病院へは行っても十分しか会えないと。やれやれ。
* 妻の無事退院までは酒を断つ。残っているいろんな酒類をみな物置へ入れた。
2017 10/24 191
* いま、六時。一呼吸入れたまま、食欲よりも躰を横にして寝入りたい。
「こんな時だからこそ、まずあなたが倒れてはいけない、クリアな頭で的確な判断をなされなければならないと思います」などというアッタリマエなことは、云われるまでなく、それでしか乗り切れないと覚悟し、身も心もフルに動かせている。仕事の手も抜いていない。「洗濯ものが、黴びれば捨てればよろしい。二人で出来ていたことを、ひとりでしょうと、決して思わないで」といった血の通った激励に「人」のぬくみを嬉しく感じる。
妻の帰る日まで酒は呑まないと決めた。喰う楽しみはいま極めて淡い。結局は、仕事して読んでよく寝るだけ、か。次の月曜にはまたわたしの方の病院へ通う。もう集中治療室を出てられると有り難いが。
2017 10/25 191
* 昨日から、じつは見失って、必死で探し回ってイヤな気分だった眼鏡、無くては困るメガネの一つを、かろうじて、やっと、途方もないところで足先に触れて見つけた嬉しさ。深く深くこの発見を喜んでいる。十時半。
階下での仕事にかかる。いただいたご馳走、酒を飲まないのは淋しいが、佃煮と和三盆、焙じ茶、懐かしい京都が匂う。
2017 10/26 191
* 夜中両脚に軽度の攣縮。ごまかしごまかし寝入る。目は早く覚めた。ときにリーゼの厄介になる。希望を持つことが大事、また家中のありとあるもの、観音 様、秦の親たちの位牌、ネコやノコや黒いマゴたち、獅子の太郎次郎小次郎にも白鳳・日馬富士にも、靖子の写真にも、ただひたすら迪子を護ってと祈ってい る。家中を用をつくっては歩きまわっている。
朝食は徑五六センチのホットケーキ一枚。ヤクルトと、など。気も、手も回らない。
2017 10/27 191
* 午前中は、もう「選集第二十五巻」の編輯に取り組んでいた。創作と編輯との、校正もふくめ、気を入れねば済まない仕事は山のようにある。いま、それはわたしのために幸いと云うしかない。
酒を断ったので、熱量配分を考えた「食事を」と、それが、まるで気が走らない。戴いた間食系の甘味や果物を食べ、ときどき生卵を二個コップに割り、醤油すこしかけて呑んでいる。
四国から麺類を戴いているのを調理すれば、さぞ美味い蕎麦が食べられるのだろうが、今の視力では細字での説明が容易に読み取れない。胸ポケットにいつもちいさいレンズを持つようにしている。
2017 10/29 191
* 昨日今日、その前も、有り難い戴き物の、{早く食べよ}と注意書きの甘味菓子類ばかり喰ってきた。
冷蔵庫のどこかに絹漉しの豆腐など買ってあると聴いていたが。
果物も、柿など柔らかく弛んできている。
もう十日近く、もともとこここ数年苦手な白い飯を、食っていない。戴いている和久伝の佃煮で、明日か明後日か、飯を焚いてみよう。酒類は一滴も呑んでいない、
* ひっきりなしにモノを見失っては探しあぐねている。バカかお前と嗤いたくなる。
結局、自分の仕事だけがスムーズに時間を消化する。
2017 10/29 191
* 建日子らは、台所や冷蔵庫の中を整理し、わたしの食べそうにないものは持って帰った。棄てるゴミの類も幾つにも包んで持って帰ってくれた。これは助かる。
白い飯を焚いて行ってもらえばよかった。和久伝の佃煮で温かい白いご飯をほんとうに久しぶりに食べたい。
2017 10/30 191
* 今晩は、冷蔵庫にあった、好きな絹漉し豆腐の一丁を、残っていた出汁醤油での清汁に簡単に煮立てて食した。堀部安兵衛・渡哲也と清水一学。天知茂の「大忠臣蔵」一時間を楽しむことが出来た。
油断なく。そう、油断なく毎日を過ごす気は、同じ。しかし、電話はまぢかに置いて、入浴の用意をしてみるか。老醜が老臭を加えるばかりでも、ナンだし。
2017 10/31 191
* 建日子が食パンをたくさん差し入れてくれたが、いまのわたしの一食には、せいぜい一枚で多いほど。半枚でも足らせてしまう。
もう、しかし減り続ける体重は、この辺で支えねばいけなかろう。
今は、左膝の傷が痛む。立ち歩くと腰が刺すように痛む。腰かけての仕事には支障なし。
* 林檎の皮を剥いてみようと試みた。手先が、というより掌ぜんぶが痺れていてとても巧くはむけないが頑張って、ともあれ林檎を食べた。そこまではよかっ たが、顔を上げたとき開けたままだった抽斗のカドで右額の脇を衝かれた。先日も似たようなことで開けた戸棚の戸へアタマを衝きあげ痛い目に遭った。怪我 は、家の中でするもののようだ。躰のアチコチが打撃されて痛むが、幸い肋骨片は入浴の徳か、忘れかけている。始終痛く響くのは左の膝小僧の擦りむき瑕。有 り難いことに行動には支障がない。
* 京都の山口源兵衛さんから宅急便で京の大きな富有柿をイチダースも、練馬の、妻の従弟夫妻からも浅草今半の肉料理でお見舞いの宅急便をいま、玄関で童 子に受領、とりいそぎメールで率爾の礼を送った。頂き物には妻がいつも礼のハガキを書いていた。わたしはいま手書きのハガキすら書きづらく、失敬な走り書 きで御免をいうている。
* ヤクルトは受け取った。来週は火曜日に届くそうだ。生協への註文はわたしが注文用紙を一週前のに間違えて書き、通らなかったが、 もう一度午後来てくれるという。今から急いで書き直さねば。
2017 11/1 192
* 疲れ切っている。身動きに感じる。怪我しないように、ようにと気を付けながら、動き回っているが。ゴミ処理がこんなに多様に多用でたいへんとは。分別に惑い容れる袋に惑う。こわいのは、なにかのハズミで腹をこわすこと。
飯を炊かないので、主食が食パンだけ。
パンケーキ風の甘い菓子は、主食にはむかない。
間食しているヒマもない。
水分は、とにかくお茶を呑んで、牛乳も、ヤサイジュースもある。水分は、水でも足りる。
果物は柿とリンゴと、蜜柑もすこしがあって、皮むきさえ億劫にしなければ足る。
2017 11/1 192
* 妹が呉れたカステラ一切れと、ヤクルト、R1とでひとまず夕飯とし、あとは、気が向けば頂き物をなんとかして食べよう、と。「和久伝」のご馳走に、大 好きな和三盆が入っていて、疲れを癒して貰っている。焙じ茶も美味しく飲みたい。お茶は機械的に日常の鳩麦茶で済ましてきたが、いいお茶はたっぷり有るの で、手間を惜しまねば好きなお茶が堪能できる。ただただ披露して簡単に済ませようとしてしまう。
2017 11/1 192
* 気が付いてみるとわたしは晩飯を摂ってないのだ。しばらく階下でひと休みし、明日の見舞いまでの段取りをしてから、心身が働けば一仕事したい。とかと、とても睡い。睡眠不足はなにかにつけて危険信号。気を付けたい。
* 沢口靖子の声は聴きながら、明日の家事段取りや病院へ持参すべきものの用意をし、ついでドクターX大門未知子を楽しみながら、カステラ一切れと柿を二 つ、冷えたお茶をたくさん呑み、「たねや」の葛湯についていた和三盆をすこし嘗めて夜食にした。まだ十時過ぎだが、これから眼をつかって細かな機械仕事を する生気が無い。いっそからだを横にし、あかるい電灯で「浮舟」と鏡花と月報「絵巻」を読めるだけ読んで寝入りたい。
2017 11/2 192
* 変にゴチャゴチャした夢で目が覚めた。フライパンにバターを敷き食パンをのせ糖分をぶっかけて焼いてみた。成功したとは云えず一枚だけをむりに呑み込んだ。ヤクルト二本、R1一本も飲み、粉の和三盆糖を嘗めた。何と謂っても煎茶が旨かった。
* 体重は妻の入院以来二キロ減った。六十三キロ台へ落ちこんだが、むしろ健康体重に近づいたのだと考えておく。ただ体力まで沈下しては困るが。
* 午前の仕事を正午まで。昼食は、「ぼうろ」と称した佐賀鍋島の和風パンクッキーのようなのを二枚、やや堅めの「ごまぼうろ」一枚。やはり卵二個を味醤油をポチリ落として呑んでおく。ほとんど立食というより、単に立ち食いの行儀ワルさだが。
2017 11/4 192
* わたしも昨日の異様な疲労の深さに懲り、今日は病院へ出るまでにも、ベッドサイドでも、せいぜチカラを付けるように心用意した。行きも帰りも異様な強 風だったが慎重に自転車を使った。ご飯もレンジで温め、濱夫妻に戴いた「今半」の牛肉料理も湯煎で温めて、シッカリ食べた。お茶も呑んだ。家から運びの食 べ物も少しずつなら食べて良い、ただし口腔内や喉にザラつくものはいけない、しっとりと柔らかなものならとも赦されていた。
ともあけベッドサイドでは正四時間ブッ続けに「校正」してくるので眼は痛いほど疲れきっている。それでも、もう少し今からも原稿読みを続けてキリまで進めておきたい。
* 順不同、山科の詩人あきとしじゅんさん、下鴨の澤田文子さん、聖教新聞社の原山祐一記者、横浜の小泉浩一郎さん、吹田の歌人阪森郁代さん、二松学舎大、府中の平田布美夫妻、武庫川女子大、中央美術協会の後藤明子さんらから来信あり。
2017 11/4 192
* 七時五十分。正七時に病院を出て、家に帰って、パック半分残していた白いご飯を温め、梅の海苔茶漬けで、半分立ち食いのような行儀ワルサのまま流しな どを片づけ、明朝回収の生ゴミを出す用意もした。なんだか分からないが小さいカップのヨーグルト様のものょ口にした。お茶は淹れて何杯も喫んだ。
冷蔵庫から出しッ放しでいた三種のジャムをみな黴びさせ、生ゴミとして処分。
好きで、美味い透明な「蜜柑蜂蜜」は黴びなくてよかった。
* 戴いた1ダ-スの白いご飯パック「熊本城」は扱いやすく飯も旨く、とてもとても助かる。1パックで二食出来る。頼もしい。その点、食パンは簡単なよう で美味く食べるには手間も掛かり、一食一枚で多すぎて残りがちになるのが残念。量が食べられなくなっているのにビックリする。
2017 11/5 192
* 正午過ぎた。鶏卵二個をポッチリの味醤油を垂らして呑んだ。生協の卵は新鮮感と味に膨らみを感じる。他に何を食べるか、今日は知恵も欲も沸かなくて困る。
朝からブッ続けの機械・眼仕事で疲れた。
こんなときに昼寝をと妹は教えてくれている。トランプ来日の乱れ波に煽られ、日本中が落ち着かない。
2017 11/6 192
* 七時過ぎ、家に独り帰っても、ちょっと「食事する」という気分に快復しにくく、口に入りやすいものを兎に角口にする。お茶だけはたくさん呑む。今夜 は、細長いソーセージの六本入った袋を熱湯で温めてから、妻に教わってきたようにフライパンでカリカリカリっとまで灼いて、それだけを四本喰った。他に何 をするのも面倒で、食欲もなく、こんな時でも宇治の茶を淹れて飲むのだけは出来る。「茶食らい」とよく親にも云われた。
とにかく、電話一本かけるのも億劫、買い物に出るなどとうていそんなに気にならぬ。家にあって手に合うモノにただ手を出している。そして、仕事。テレビもあまりにつまらなく、見る気無し。
2017 11/6 192
* 八時過ぎ。病院から帰って、汗(今日は温かだった)のまま、佐賀のぼうろ菓子二つと凍った鶏ガラスープを温めて卵一つ割り入れて、そそくさとした食 事。八時まで「大忠臣蔵」の後半が見られた。同志社の先輩で亡くなるまで文通もあった坂妻三兄弟の長男田村の高田郡兵衛が懐かしかった。三船の内蔵助と千 坂兵部の丹波哲郎とが釣り合って快い。
2017 11/7 192
* あれこれしているうちに、正午になる。朝食をしっかり摂った(太巻き寿司を解凍し、煎茶で。ヤクルトも二本飲んだ。小魚の干物も少し)。レンジというものにかつて手も触れたことなく無視に近かったが、便利と分かった。アテズッポウで動かしているのだが。
2017 11/10 192
* 細切れ肉200㌘の三分の二ほどを、フライパンにオリーヴ油を敷き、砂糖たっぷりと白い味醤油でフラスパンを灼いてから肉を入れ、焼くように煮た。肉 が固くかたまらないうちに卵を溶いて、食した。満腹。ヤサイジュースとキャロットジュースとを半々に混ぜ、カップ二杯にして飲んだ。新茶も。
2017 11/12 192
* 午まえ、つつがなく妻、建日子運転車で、退院・帰宅・生還。よかった。ほんとうに、よかった。感謝。深く深く、感謝。
建日子の戻っていったあと、午後、三時間ほども、二人とも睡眠。
そして五時半、大相撲の二日目、白鵬の強い相撲を観る。日馬富士の、先場所のような奮起も期待する。
* 禁酒を解いて、写真家近藤聡さんに送って頂いてた近江の剛い酒「七本槍」を、しみじみと。感謝。
今日、もと朝日新聞の伊藤壮さんからは、すばらしく旨い好きな最中を頂戴した。これまた、しみじみ嘆賞。感謝。
* 慎重な日々を、二人倶に過ごさねばならぬ。
* 三週間の余、親切を尽くしてお見舞い下さいました何方にも、心より御礼申し上げます。
2017 11/13 192
* 禁酒を解いて、日本酒も洋酒もビールもワインもみなしみじみ美味い。嬉しい。
2017 11/15 192
* 吉備の人・有元毅さんから、幸いに禁酒の解けたのを祝って下さり、「獺祭」という日本一を競っている最高の一升を頂戴した。幸せ、嬉しい戴きもの、心 より感謝申します。妻の退院から一週間の今朝、カラッポだった「瓶・缶」の容れ物に、日本酒の四号瓶が六本も入っていたのにビックリした。
また、同じ今日、下関の大庭緑さん、名だたる名酒の肴にもと、下関一の名品「粒雲丹」を二瓶も、さらに加えて種々の名菓も送ってきて下さった。思わず眼とじ、嘆声を漏らした。有り難う存じます。
2017 11/21 192
* 能美市の井口哲郎さん、栄養食にと地産の美味い山の芋を送って下さった。すり下ろし、卵を溶いて、わたくし幼来の好物、ありがとう存じます。
* 吉備の人、名酒「獺祭」に相次いで、妻宛て、岡山の名菓「ピオーネ・マスカット」を頂戴した。恐れ入ります、ありがとう存じます。
2017 11/22 192
* 華さん、いろんなスープを沢山送ってきて下さった。感謝。ひとしおの日吉ヶ丘の青春を感じさせてくれる人で、郷愁をかきたてられる。「どこもかしこも人出で、結構な京・東山に住んでいるのは大変も半分です」とは贅沢な嘆声。人出の一人になって歩きたい。
2017 11/23 192
* ロサンゼルスから帰ってみえている池宮千代子さんの電話が、留守にあって、妻が出た。もっとも人工呼吸を余儀なくされていたため、まだ喉もとの不自由でうまく話せなかったろう。虎屋の菓子、また純米大吟醸酒まで送って頂いていた。恐縮。
* 香川の作家榛原六郎さん、みごとに色づいた蜜柑を一箱送ってきて下さった。感謝。
* 京・古門前の「おっ師匠はん」大益貞子さん、帝国ホテルのスープをいろいろたっぷりと送って来て下さった。ありがとう。
2017 11/30 192
* 元朝日新聞社の伊藤壮さん、無垢・特級の「越乃寒梅」二升で我が家の漸くの復帰を祝って下さる。
中学・高校の同窓、元日立の役員西村明男、即ち昔も今もテルさんから、両口屋是清の菓子で妻の退院を祝って貰った。
2017 12/1 193
* 高麗屋さん、毎年の年越し蕎麦を、青やかに新鮮な本山葵も添えて、下さる。
ご一門の耀く新年初春の三代襲名と相成りますよう、心より心より祈ります。
2017 12/3 193
☆ ご本嬉しく頂戴いたしました。
有り難うございます。ゆっくりじっくり読ませていただきます。
それが一番のお礼になると思っております。
お二人ともどもお体どうか大切になさって下さいませ。
(千疋屋総本店 林檎「サンふじ」五顆)
召し上がっていただけたら嬉しいです。 鎌倉市 橋本静一・美代子
* 林檎の大きいこと
2017 12/6 193
* 東近江五個荘の乾徳寺さん、正因寺さんからは、京都「末富」などの名菓を、たくさん頂戴。恐れ入ります。
2017 12/6 193
* 病院のアト、松屋裏で、京風の懐石で一盞また一盞してきた。帰路は「保谷行き」を幸い、「塌然」寝入っていた。
2017 12/7 193
* 木曜日の晩はテレビドラマを三つ楽しむ、「大忠臣蔵」「ドクターX」「NCIS」いずれも良しと観ている。
2017 12/7 193
* 四国今治の木村年孝さん ソフトボールほど大きく美しいお蜜柑「媛まどんな」を一箱も、また神戸の岡田昌也さん、貴重な粒雲丹の一瓶を、新潟光明寺の 黄色瑞華さん北越のお蕎麦を、京の杉田博明さん千枚漬け一樽を、名古屋の水谷三佐子さん和久傳の漬物や粽などをいろいろ、頂戴した。恐れ入ります、有り難 く。
* 求婚満六十年の前夜祭を「吉備の人」に戴いた名酒「獺祭」、神戸の岡田昌也さんに戴いた越前仕立て「汐うに」、京都の横井千恵子さんに戴いた千枚漬、そして名古屋の水谷三佐子さんに戴いた和久傳れんこん味の粽で、祝った。美味。
ともに八十一歳、わたしはこの冬至に、満八十二歳になる。
明日は日曜、あえて外出せず、家で静かに六十年の歳月に感謝し、妻の快復を重ねて祝したい。
* 誰も誰も、元気に幸せでと祈る。 2017 12/9 193
* たっぷりの名酒「獺祭」を、汐うに、いくらと、茄子の漬物とで堪能、昼食にかえてきた。着替えて出掛けるよりよほど思い静かに憩えることか。建日子が顔を見せて、一緒に一献してくれれば言うことなしだが。
2017 12/10 193
* 小滝英史さん、名酒「松竹梅」を豪勢に二升下さった。凸版印刷の古城進工さんからは恰好のお肴をたっぷり頂戴した。有り難いこと。
2017 12/10 193
* 井口哲郎さん、大福茶、加賀棒茶を下さる。十二月はわたしたちの祝い月とよく知っていて下さる。嬉しいこと。
2017 12/11 193
* 妻の歯医者通いに付き添って行った。帰りに池袋ででも、いい夕食をと楽しみにしていたが、妻、へんに風邪ぎみのため諦めて帰宅。有り合わせの肴や漬物で酒を飲んで、辛抱。
どうも、ついていない。
2017 12/11 193
* 心身とも、何となく草臥れ、ヘバっている。腹への食べ物の収まりがうまくないのか、食べると気も身も重苦しく不快になる。困る。「 蕎麦湯呑みけふの昼餉はつつがなし夕餉はなにが喉とほるらむ」という戯れ歌は胃全摘そして三月退院の年の十一月の作、さらに四年余の今年正月末には、
尿が出て便出て食へて目が見えて読み書きできて睡れればよし 疲れたくなし」と詠い、同日、「余念なく眠ってをばよいものをなぜ起きてくる 死にたく ないのか」とも自問している。体調としては、しかし、いのよりマシだったのかも知れない、いまは心身とも堪え性が薄れている。めざましい嬉しさや楽しみに 欠けているのかも、例年だと十一月の顔見世、師走の観劇、この十数年欠かしていなかった。
2017 12/12 193
* 選集第二十六巻の構図が立った。久しぶりに亡き実兄恒彦の書簡を懐かしく読んだ。いま、だれよりもなどとは限定しないまでも、生きていて欲しかったと堪らない一人は此の兄北沢恒彦だ。
さてさて「湖の本139巻」の編輯にも掛からねば。すこし楽しみたい、ま、急ぐまい、
なにより心神のためにも。
食べ物を美味しく食べられるよう努めたい。先日「ボンシャン」で註文した前菜の大きな「生牡蛎」三つが忘れがたい、が、ああいうのは毎日は無いかも。師 走は忘年会で賑わう店だ、日比谷のクラブへ行きたいが、夜の場所だから、あまり寒い晩はヘキエキ。「なだ万」で誕生日を祝ったことが二度有る。忘れられな いのが「鉢巻おかだ」の鮟鱇鍋、美味かったなあ。癌になる以前だったが。
2017 12/12 193
* 毎日、お花やお菓子やお茶やお酒や食べ物を頂戴し、ほこほこと温かい気持ちで感謝し申し上げています。正直に喜んでいます。
2017 12/14 193
* 午後三時過ぎて、今朝から、なんだかだと機械に向かい仕事を続けてきたと気づいた。
この二、三日、体重が低線へ沈みがち、今朝の63キロ台など、六十年余も昔の数字と思われる。60キロまでは好いと思っている。蛋白質や脂質にどうして も欠けている、妻が気づかってくれてもなかなか口が受け取らない。いま、粥にすると食べるが、炊きたてでも茶漬けでも、ご飯が食べにくい。飲用に傾いて、 柔らかい食事をつい求めがちなのは、胃袋という食物の滞留機能をぜんぶ欠いていて、無理喰いするとどうしても腸で溜まって苦しくなるのだ。何が嬉しいと 謂って、腸内ガスがどんどん出てくれると、生き返ったように心地良くなれる。困ったモノです。胃腸並び立って必要、大事にして下さい。
2017 12/14 193
* 藤村研究家宮下襄さん、わたしに泉鏡花の仕事をさせて下さった、もと学研の宮下さん、お心入れの「ころ柿」をたくさん送って下さった。
京・有栖川の久しい読者桐山恵美子さんは、ずっしり重い、どうやら瓶詰めいろんなご馳走らしきを送って下さった。まだ荷を明けていないが。
宮下さん、桐山さん、ありがとう存じます。
2017 12/15 193
☆ 白楽天に聴く 「中隠 抄」
人生まれて一世に處(お)り
其の道両つながら全うし難し
賤は即ち凍餒に苦しみ
貴は則ち憂患多し
唯だ此の中隠の士のみ
身を致すこと 吉且つ安
窮通と豊約との
正に四者の間に在り
* 人、貴賎のみならず老若の別を歩まねばならない。
老いて悩ましいのは、病い。家人が病むと、自分が病むより心安くおれない。
2017 12/16 193
* 長寿を祝う故国近江の名酒「金亀」を盃に、妻が心づくしの赤飯と吸い物で、ささやかに朝食。
2017 12/21 193
* 京の華さんから、抹茶とお菓子を戴く。いつもいつも、戴いている。京都の、東山区のいろんな地図を送って下さる。地図があればわたしはいくらでも好きなままに歩き回れるのだ、京都なら。昔の京都が目に、脚に、肌によみがえる。
いま無性に、小松谷正林寺界隈へ思いが走る、しかも森々とした夜景に。わたしの小説がその辺で迷子になっているのです。
2017 12/21 193
* 妻の風邪気味緩和せず、街へ出るのを諦め、下関の雲丹や、生協の蟹や、「和加菜」出前の刺身で、家で酒を呑む。吉備の人、お酒を新たに一升下さる。なにもかも、戴くばかり。ありがたし。
2017 12/21 193
* とても欠かせる歯医者通いでなく、好天を幸いに出かけた。 久しぶりに「中華家族」で昼食、といっても、歯が問題の夫婦とも満足に食べられず。わたしはマオタイ、ダブルで二杯。この強い美味い中国酒をクイクイと二杯呑める人は少ない。
2017 12/22 193
* 先日、新潟六日町の「今成漬店」から「錦糸瓜」の珍しい漬物を頂戴していた、神奈川・二宮の高城由美子さん、長文の、とてもおもしろく興味深いお手紙を下さった。
日を替えて、此処へも記録させて頂きたい。高城さんのお家は、鎌倉武士直系を今に嗣がれており、ご夫婦で生き生きと現代を暮らされている。
* 吉備の人、戴いた名酒を追いかけるように贅をつくした珍味「鮒寿司」をたっぷりと頂戴した。感謝に堪えない。
* 京・神宮広道の「星野画廊」さんも、例年戴く私たち大好きな「京煎餅」を大きな缶で下さった。そういえば、星野で買って帰った秦テルヲ画の「出町深雪」を持ち出して佳い真冬になってきた。
* 金澤の金田小夜子さん、珍味、美味い蕪や大根でしかと締めた新鮮なを下さった。有り難く。
* 藤澤の義妹も、心入れの、めずらかな甘味をプレゼントしてくれた。ありがとう。また神奈川まで妻と連れて、せめて横浜まででも逢いに出かけたいもの。
2017 12/22 193
* 梅若万三郎さんから凝った焼き菓子を、篠崎仁さんから珍しい梨からのワインを戴いた。
2017 12/23 193
* 年越えの借財なく、穏やかに新年を待つのみ、とはいえ、まだ雑煮の白味噌が買えていない。
* 出かけて、クラブで夕食をと思っていたが、気が揃わず、やめて寝床で「能の平家物語」を読み、富岡多恵子の『壺中庵異聞』を面白く読み進み、夕食後は テレビで、テレサ・ライトの映画を観た。そういえば昼間にはジョン・ウエインの「捜索者」を後半観て、これは納得も行き面白かった。
しかし、終日、心身不調だった。アタマが回転しない。
* 下手をすると美味い雑煮用の味噌も調わない、が、せめて、これだけは。この正月は、その余の飾ったお節料理の類は一切予約の心用意も出来なかった。妻のお煮〆だけで十分だ。無事であればばよろしい。
* 元・講談社の天野敬子さんに、風情豊かに野趣に富んだ縄に鈴生りの干し柿をたくさん戴いた。すこぶる美味しくて、美味さに驚かされた。有り難う存じます。
2017 12/25 193
* 天野恵子さんに戴いた西条柿の干柿が、「おどろきの自然の甘さ」なのに驚いている。篠崎仁さんに戴いた「梨」のワインの風味にも驚いている。
2017 12/26 193
* 街での食事、案じながら入って、結果よろしからず。よくないと経験した店には二度と入らぬ方が良い。ただ脂濃い重苦しいのはイヤで、仕方なくデパート の高いところで和食を試みたが失敗、ま、酒の肴の程度で。疲れ果て、両脚とも下肢が凝固気味に痛んで歩きにくくなったが、もう池袋西武は諦めて手近な銀座 三越の地下三階で京の白雑煮味噌を買い、気まぐれに木村屋の小さいパンを六つ買い。危な危な脚を引き摺って銀座一丁目から幸い西武乗り入れの電車に乗れ た。校正で気をまぎらわせながら保谷まで。寒いが天気はよろしく 永く立ちん坊の末にタクシーで帰宅、もう五時近かった。家へは、お飾りや鏡餅などがもう 来ていた。
2017 12/27 193
* 「珠」さんに今日戴いた「鴨鍋」で蕎麦を美味しく夕食に。越乃寒梅みともども、とても美味かった。感謝、感謝。
2017 12/29 193
* 九時半。さ、階下へ。美味い酒をすこし飲んで、やすみたい。源氏物語の、版を異にした二册、泉鏡花選集の「芍薬の歌」、筑摩版現代文学大系、四女性作 家らの最後の巻、音頭大系、その他の資料類を枕元に積んで読み継いでいる。三十二巻の「絵巻全集」の全月報は大満足して読み終えた。
機械の側でも、白楽天や陶淵明の詩集を愛読中だが、明日の元日からは、またバグワンを読み返して行きたく思っている。
2017 12/31 193